わずかなEV走行距離と、あまりにも高価な価格が売れない理由?

プリウスPHVは、2011年11月にデビュー。プリウスをベースに、ニッケル水素電池から大容量リチウムイオン電池に替え搭載している。このリチウムイオン電池は、200Vの普通充電で約90分で満充電となる。この電力を使いプリウスPHVは、カタログ値で26.4㎞のEV走行ができるのだ。この蓄えた電力が無くなると、通常のプリウスのようにハイブリッド車として走行する。
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すでに、日産はEVのリーフを発売している。しかし、EVは走行距離の短さや価格が高いこと、自宅の充電設備費や自宅以外での充電インフラが整っていないことから、日産が思うほど売れていないのが現状だ。売れないといっても、累計3万台の販売台数を達成している。
そんなEVのデメリットを埋めるクルマとして注目されたのが、プリウスPHVだ。約20㎞程度の短い距離ではEVとして走行でき、長距離はハイブリッド車として走行できる。充電インフラに関係なく長距離を走れ、いずれ出る水素を燃料とした燃料電池車が一般に広まるまでをつなぐクルマとして位置付けられていた。

その上、ハイブリッド車で絶大な支持を得たトヨタは、PHVならさらに儲かるのでは? と、高額な価格設定をした。当時の価格でプリウスより88万円も高価で、充電設備費も必要になる。しかし、EV走行できる距離はわずかで。さらに、長距離を走れば走るほど、普通のプリウスとの燃費差はほどんど無くなる。そうなると、ガソリンより電気が安いといっても、これほどの価格差をペイできることなどできず、経済合理性も成り立たない。普通のプリウスで十分という結果になる。燃費差に関しては、トヨタも認識しており、プリウスPHVの燃費は31.6㎞/Lとし、通常のプリウスの30.4㎞/Lを超えている。プリウスPHVの優位性と差別化のために、ハイブリッド燃費を向上させているのだが、価格が高過ぎたため言い訳にも使えない状態になっていた。
テレビCMなどでは、その危機感からか、誤解を生むような61.0㎞/Lという燃費をアピールしている。間違っていないのだが誤解されやすい。これはプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)で、満充電したEV走行分を含んだ数値。多くの人が勘違いするが、充電分が無くなっても61.0㎞/L走るということではない。
販売店の営業マンも、プリウスPHVの説明を顧客に説明すればするほど、普通のプリウスの価格を超えるメリットが提示できなくなり、さらに充電設備の設置手配などに手間がかかることから、最終的に普通のプリウスを勧める傾向が強いとも言われている。
こういった状況から、トヨタは売れない理由を価格が原因と判断したようだ。まず、エントリーグレード「L」の価格を2,850,000円とした。価格引き下げ前は305万円だったので、20万円引き下げだ。同様にSグレードを300万円、Gグレードを320万円とし、それぞれ20万円引き下げている。この価格でも、普通のプリウスSが232万円なので、価格差は68万円。さらに、補助金が25万円あるので、実際の価格差は43万円となる。
デザイン
普通のプリウスと比べ、変わり映えのしないデザインも一部グレードを除き変更された。外装では、LEDイルミネーション付のリヤエンブレ、新意匠のアルミホイール(センターオーナメント付)、クローム調加飾を施したサイドガーニッシュやアウトサイドドアハンドルなどを採用し、先進イメージをさらに強調している。内装も同様に、助手席インストルメントパネルアッパー部や助手席前アッパーボックス部、フロントカップホルダー部にソフトパッド表皮を採用。そのほか、センタークラスターやドアスイッチベースに木目調加飾を、エアコン吹き出し口に加飾を施し、より一層、上質感を追求した。

ただ、この価格でも先行きは明るくない。続々とハイブリッド車の選択肢が増える中、プリウスそのものが今までと同様に存在感をアピールするのは難しい。そうなれば、当然高価なプリウスPHVは、今まで以上に売るのが難しくなるだろう。プリウスが、ハイブリッド車というクルマを世界に知らしめたパイオニア的存在だとするならば、トヨタも抜本的な戦略を取らないとプリウスPHVに未来はないかもしれない。それこそプリウスは、ハイブリッドは無くして、すべてPHVにするくらい大胆に戦略に出てもいいと思う。プリウスのひとクラス下になるアクアとの価格差もわずかなので、若干価格アップしてもリスクは少ないだろう。すぺてをPHVにすれば、コストダウンも一気に進む。
プリウスPHVを買いたいと思っているなら
実際のところ、プリウスPHVを購入を考えているのなら、今の価格でも買うメリットは低い。今、PHVに興味があるのなら、ジャンルが違うが三菱アウトランダーPHEVがおすすめとなる。アウトランダーPHEV G Safety Package の価格は3,664,000円と、プリウスPHV G 3,200,000円より約46万円高価だ。しかし、アウトランダーPHEVはプリウスPHVより、3倍に近いくらいのリチウムイオン電池の容量を持ち、プラグインハイブリッド燃料消費率は67.0㎞/LとプリウスPHVを超える。さらに、2Lエンジンを搭載しパワフルで、4WDという機能を持ちプリウスPHVとは明確に違うユニークな存在だ。そして、オプションで急速充電器が使える装備を付ければ、旅先などでの目的地充電や途中充電も急速充電器が使えスピーディで便利な上に、ガソリンを使うケースが減り経済性も高い。プリウスPHVとの価格差分の価値は十分にある。価格
・L 2,850,000円・S 3,000,000円
・G 3,200,000円
・G“レザーパッケージ” 3,998,000円
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執筆者プロフィール
クルマ評論家 CORISM代表 大岡 智彦 氏CORISM(http://www.corism.com/)編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員。