フォルクスワーゲンは、Bセグメントのコンパクトカーであるポロを約8年振りにフルモデルチェンジし発売を開始した。ポロは、今回のフルモデルチェンジで6代目となった。

この新型ポロから、フォルクスワーゲングループのモジュラー戦略である、コンパクトカー用の新開発「MQB」(ドイツ語の頭文字からMQB=Modularer Querbaukasten)が採用されている。フォルクスワーゲングループで、共通化されたプラットフォームを採用することで、大幅なコストダウンを狙うものだ。そんなポロについて詳しくご紹介したい。

この記事の目次 CONTENTS
輸入コンパクトカーは軒並み肥大化
ボディサイズ拡大により実用性は向上
高級感とスポーティさを両立したデザイン
シャープでスポーティさを強調したインテリアデザイン
1.0L直3ターボのみの設定で燃費はイマイチ
一定レベルの安全性能を誇るが…
フォルクスワーゲン ポロの選び方

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

輸入コンパクトカーは軒並み肥大化

6代目となった新型ポロは、もともとBセグメントに属するコンパクトカーだ。Bセグメントとは、全長4m前後のモデルが中心で、日本ではトヨタ アクアや日産ノート、マツダ デミオなどが同じクラスになる。

小さなボディサイズで高い機動性を持ちながら、室内や荷室が広いというのが従来のポロの魅力だった。しかし、モデルチェンジする度にボディサイズが大きくなっているた。これは、ポロだけではなく多くの輸入コンパクトカーに共通する傾向。もはや、肥大化がトレンドなのだ。

新型ポロも先代よりさらに大きく

新型ポロも肥大化というトレンドの最先端を行くことになった。新型ポロの全長は、4,060㎜と先代比+65㎜も大きくなった。当然、ホイールベースも伸び2,550mm(+80mm)、全幅も大幅にワイドになり1,750㎜(+65㎜)となった。全幅が1,700㎜を超えたことで、日本車では3ナンバー車になった。

対する国産Bセグメントのコンパクトカーは、日本の道幅が狭いこともあり、5ナンバーサイズ(全幅1,700㎜以下)を死守している。ほとんどのモデルが全幅1,695㎜と、ポロとは対照的だ。

ボディサイズ拡大により実用性は向上

自動車業界全体のトレンドとして、最近ではデザイン重視の傾向が強い。そのためラゲッジスペースが小さくなるなど、実用性が悪くなっている。

そんな中、ボディサイズが拡大したことによって、新型ポロの荷室容量は280Lから351Lへ+71Lも拡大した。フォルクスワーゲン車は、実用性が高いクルマを送り出しているメーカーのひとつ。他の欧州プレミアブランドとは異なり、デザインと実用性を両立しているのも特徴だ。

新型ポロの351Lというラゲッジスペースは、もはやBセグメントのコンパクトカーを超え、ひとクラス上のCセグメント車並みといっていいだろう。Cセグメントのコンパクトカーであるメルセデス・ベンツAクラスのラゲッジスペースは、ポロより小さく341Lに留まっているほどだ。

これを進歩といえるのかは疑問

室内やラゲッジスペースが拡大されたことは、とても良いことだ。ただしボディサイズを拡大したのなら、室内やラゲッジスペースが広くなるのは当然といえる、それでは、あまり意味がない。

ボディサイズを維持、もしくは小さくして、先代モデルより広い室内やラゲッジスペースを得たというのであれば、これが本来の技術の進歩といえるものだからだ。

高級感とスポーティさを両立したデザイン

新型ポロのデザインは秀逸だ。ひと目でポロと分かるデザインを踏襲。それでいて、よく見ると先代モデルとはまったく違う造形になっている。派手さを追求するのではなく、デザインの完成度の高さで勝負している。

先述したように、新型ポロはボディサイズが大きくなっている。とくに全幅は1,750mmと先代+65mmもワイドになった。しかし全高は1,450mmで先代比で-10㎜。よりワイド&ローのスポーティなシルエットになっている。また、ボディサイドには後方に跳ね上がるようなシャープなキャラクターラインが入れられ、さらにスポーティさを強調している。

また個性的なライトサインを描き出すフルLEDのテールライトがポロシリーズとして初装備された。夜間での存在感と高級感も演出している。

シャープでスポーティさを強調したインテリアデザイン

ポロらしさを残しているエクステリアと対照的に、新型ポロのインテリアデザインは、ガラッと大きくデザイン変更をしている。先代ポロの柔らかな面で構成されたデザインから、カッチリとしたシャープな線でまとめられたデザインに。また水平基調のデザインを採用することで、ワイド感を強調し室内が広く見える工夫もされている。

また、全体の質感も向上。ひとクラス上の上質感もある。装備面では、ポロシリーズで初めて、純正インフォテイメントシステム“Discover Pro”が採用された。

Discover Proの欠点をカバーする工夫も

ただし、Discover Proはタッチパネル操作となる。走行中揺れる車内では、タッチパネルでは的確な操作がしにくい。しかも、指先に視線集中する傾向が強くなり、前方監視がおろそかになる時間が増えるから危険でもある。

そこで今回のモデルでは、タッチする以外に、ダイヤル操作でもボリューム調整や地図縮尺変更ができるように仕様変更されている。この辺りは、さすがは使い勝手にこだわるフォルクスワーゲン車だ。

1.0L直3ターボのみの設定で燃費はイマイチ

新型ポロに搭載されたエンジンは、今のところ1種類。先代ポロでは直4 1.2LターボのTSIだったが、今回はさらにダウンサイジングされ、1.0Lの直3TSIエンジンとなった。出力は95ps&170Nm。ミッションは7速DSGだ。

その燃費は19.1㎞/L。国産Bセグメントのコンパクトカーと比べると、やや見劣りする数値となっている。1.2L+スーパーチャージャーエンジンを搭載する日産ノートの燃費は26.2㎞/Lだ。しかも、先代ポロの1.2LTSIの22.2㎞/Lより悪くなっているので、何のためのダウンサイジングなのだろうと感じてしまう。

ハイオク仕様という点も改善の余地あり

またハイオク仕様なのも、燃料費がさらに高くなってしまうのでマイナスだ。日本メーカーは、欧州用に開発したエンジンを日本に持ち込む時にも、日本ユーザーのためにレギュラーガソリン仕様に変更して導入している。ポロのようなコンパクトカーはランニングコストも重視されるので、せめてレギュラーガソリン仕様にして導入するくらいの配慮があってもいいだろう

また、1.0LのTSIエンジンのみという選択肢の少なさも残念だ。燃費で国産ハイブリッド車には勝てないのだから、せめて燃料費が安いディーゼル車を導入するくらいの攻めの姿勢も必要だろう。例えば日本メーカーでもBセグメントのディーゼル車を設定したマツダ デミオがあり、一定の支持を得ている。

一定レベルの安全性能を誇るが…

新型ポロの安全装備は、プリクラッシュブレーキシステム“Front Assist”(歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付)や“プロアクティブ・オキュパント・プロテクション”、万が一の事故の際に歩行者への衝撃を緩和する“アクティブボンネット”、そして“デイタイムランニングライト“を今回初めて全車標準装備。サイド&カーテンエアバッグも全車に標準装備化されているので、どのグレードも一定レベルの安全性能をクリアしている。

しかしながらオプションのものも多いのは残念

ただ、ロングドライブ時に疲労軽減の効果があるアダプティブクルーズコントロール"ACC"(全車速追従機能付)に関しては、最上級グレードのハイラインのみに標準装備。その他、日常的に使う安全装備であるリヤトラフィックアラート(後退時警告・衝突軽減ブレーキ機能 )、ブラインドスポットディテクション(後方死角検知機能 )や自動的にステアリングを操作してドライバーの駐車をサポートする“駐車支援システム“Park Assist”などもオプション設定となった。

マツダのデミオには、リヤトラフィックアラート(後退時警告・衝突軽減ブレーキ機能 )、ブラインドスポットディテクション(後方死角検知機能 )などと同様な装備が標準装備化されている。これくらいの安全装備は、標準装備化を目指してほしいところだ。

フォルクスワーゲン ポロの選び方

新型ポロの選び方は、比較的簡単だ。エンジンは1.0LのTSIしかないので、グレード間の装備差で決めることになる。エントリーグレードはトレンドライン、中間グレードがコンフォートライン、最上級グレードがハイラインとなる。

価格は、エントリーグレードのトレンドラインが2,098,000円から。国産Bセグメント車より、価格は若干高めだ。歩行者検知式自動ブレーキが標準装備化しているなど、どのグレードを選んでも一定レベルの安全性能を誇る。ただ、トレンドラインには今時オートライトさえ装備されていない。リヤビューカメラも同様で、運転にあまり自信が無い人などは、コンフォートライン以上を選んだ方がよいだろう。

ハイラインとコンフォートラインの装備差は、アダプティブクルーズコントロール、スタティックコーナリングライト 、LED ヘッドライト、スマートエントリー&スタートシステム、スポーツコンフォートシート、16インチアルミホイールなどとなる。こうした装備差により、価格差は約35万円だ。

安全装備を充実させるならハイライン+オプションに

アダプティブクルーズコントロールは、ロングドライブには安全性と疲労軽減にも役立つのでぜひとも装着したい装備。そうなると、お勧めはやはり最上級グレードであるハイラインになる。価格は2,650,000円だ。

困ったことに、ハイラインでも安全装備がやや物足りない状況だ。ブラインドスポットディテクション(後方死角検知機能)やパークディスタンスコントロール(フロント/リヤ、前進/後退時衝突軽減ブレーキ機能付)、リヤトラフィックアラート(後退時警告・衝突軽減ブレーキ)などがオプションになっている。仕方がないので、セーフティパッケージ(ハイライン用)を選択すると97,200円となる。

さらに“Discover Pro”パッケージ(コンフォート/ハイライン用)のオプションは226,800円。こうしたオプションを装備するとなると、新型ポロ ハイラインの価格は約300万円になる。小さくても安いクルマではない。

新車で買うとかなり高い値段になってしまうのに対し、ポロのリセールバリューはやや低め。そのため中古車で買えば、それほど高くないのだ。2015年式の先代ポロは、すでに100万円台前半から手に入る。3年程度で半額くらいの価格で売られている。しばらく待って中古車という選択も悪くない。