
飲酒や大幅なスピード超過など、悪質性・危険性の高い運転で人を死傷させた場合に適用される危険運転致死傷罪。この記事では、現在の基準や刑罰(懲役刑の期間)、2026年の改正内容(アルコールや高速度の数値)について、わかりやすく解説しています。
危険運転致死傷罪の基準
危険運転致死傷罪の基準は、自動車運転死傷処罰法で定められた「危険運転」に該当するかどうかです。2026年6月時点では、飲酒や薬物の影響、高速度での走行、悪質なあおり運転などの8種類が含まれます。
また、2026年7月21日施行された改正ではアルコールや速度超過に数値基準を導入し、危険運転の類型も11種類へ拡大しました。
そもそも危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪とは、アルコールや薬物の影響下での運転、著しい速度超過、悪質なあおり運転など、悪質性・危険性の高い運転によって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
悪質な交通事故の厳罰化を目的に、2001年に導入されました。
現在は自動車運転死傷処罰法第2条に規定されており、一般的な交通事故で成立する過失運転致死傷罪よりも重い刑罰が科されます。
危険運転致死傷罪の対象行為
改正前では、以下の8類型に該当する危険な運転で人を死傷させた場合、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。
- ①アルコール/薬物の影響で正常な運転が困難な状態での運転
- ②高速度で制御困難な状態での運転
- ③車を制御する技能がない状態での運転
- ④通行妨害目的での割り込みや接近
- ⑤通行妨害目的での前方停止や急ブレーキ
- ⑥高速道路等での前方停止や接近
- ⑦故意の信号無視×危険な速度での運転
- ⑧通行禁止道路の走行×危険な速度での運転
①アルコール/薬物の影響で正常な運転が困難な状態での運転
アルコールや薬物の影響でまっすぐ走れない、適切にブレーキを踏めないなど、運転能力が著しく低下した状態は、危険運転と見なされる可能性があります。
薬物は違法薬物だけでなく、処方薬も含まれます。ただし、飲酒・薬物使用だけで成立するとは限らず、「正常な運転が困難だったか」が判断ポイントです。
なお、2026年7月21日施行の改正では、数値基準の新設がなされました。数値基準を満たす高濃度のアルコールを保有する状態は一律に危険運転致死傷罪の対象となるほか、数基準に満たない場合でもアルコールの影響により正常な運転が困難な状態である場合は危険運転致死傷罪の対象となり得ます。
②高速度で制御困難な状態での運転
著しい速度超過で車の制御が困難な場合も、危険運転と見なされる可能性があります。改正前は具体的な速度基準がなく、道路や交通の状況を踏まえて個別に判断されます。
なお、2026年7月21日に施行された改正で、最高速度が60km/h以下の道路で50km超過、60km/hを超える道路では60km超過を基準として盛り込まれました。また、数値基準に満たなくとも、道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避するのが著しく困難な高速度と判断される場合は危険運転致死傷罪の対象となり得ます。
③車を制御する技能がない状態での運転
この項目では、たとえばアクセルやブレーキの操作方法を十分に理解していない状態で運転するケースなどが考えられます。無免許運転そのものを指すわけではなく、「実際に車を安全に走行させる技能があったかどうか」が重要になります。
④通行妨害目的での割り込みや接近
他の車や歩行者の通行妨害目的で割り込んだり、先行車に著しく接近したりする、いわゆる「あおり運転」の一種です。単なる車間距離不足ではなく、「相手の通行を妨げる意思があったかどうか」が重要なポイントです。
⑤通行妨害目的での前方停止や急ブレーキ
④と近い類型ですが、通行妨害目的で急ブレーキや前方停止を行い、後続車などに危険を生じさせた場合に該当する可能性があります。
あおり運転は後ろから追い立てる行為だけでなく、前方での急停止や妨害行為も含まれるとして、2020年の法改正で追加されました。
⑥高速道路等での前方停止や接近
高速道路や自動車専用道路であおり運転をした場合、この項目に該当する可能性があります。通行妨害目的で前方停止や著しい接近を行い、相手の車を停止・徐行させた場合などが対象です。
高速道路上で車を停めたり、速度を大きく落とさせたりすると重大事故につながりやすいため、2020年の法改正で追加されました。
⑦故意の信号無視×危険な速度での運転
赤信号を故意に無視したうえで、重大な交通の危険を生じさせる速度で走行した場合、危険運転と見なされる可能性があります。
単なる信号無視ではなく、「危険な速度で交差点に進入する」といった極めて危険な運転が想定されています。そのため、すべての信号無視が危険運転に該当するわけではありません。
⑧通行禁止道路の走行×危険な速度での運転
この項目では、一方通行の道路を危険な速度で逆走したり、歩行者専用道路を高速で走行したりするケースなどが考えられます。通行禁止道路を走行しただけではなく「危険な速度で走行していた」ことも重要な要件です。
危険運転致死傷罪の刑罰
一般的な交通事故で人を死傷させた場合は、過失運転致死傷罪に問われます。一方、危険運転致死傷罪に該当すると、これより重い刑罰が科されます。
危険運転致傷と危険運転致死の刑罰
危険運転致死傷罪では、人を負傷させる「危険運転致傷」と死亡させる「危険運転致死」で刑罰が以下のように変わります。
- 危険運転致傷:15年以下の拘禁刑
- 危険運転致死:1年以上20年以下の拘禁刑
危険運転が原因の場合は、基本的に拘禁刑に処されます。特に危険運転致死は重い刑罰が定められており、実刑判決となるケースも多いです。
過失運転致死傷罪との刑罰の違い
過失運転致死傷罪の刑罰は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。また、相手を負傷させ、その傷害が軽いときは、情状によって刑が免除される場合もあります。
このように、危険運転致死傷罪は過失運転致死傷罪よりも重い刑罰が定められており、罰金刑も認められていません。
2026年7月21日施行の改正内容は?
危険運転致死傷罪は、2001年の導入以来、複数回にわたって改正が行われてきました。2026年3月末には新たな改正法案が閣議決定され、2026年7月21日に施行されました。
改正内容として、アルコールや高速度の運転に数値基準が設けられるほか、故意のドリフト走行など新たな危険運転類型も追加されたことがあげられます。
改正内容①アルコールに数値基準を導入
アルコールは、これまで「どれだけ飲んだら危険運転に該当するか」という目安がなく、適用基準の曖昧さが問題視されていました。そこで、改正案では正常な運転が困難になる飲酒量として、以下の数値基準が示されています(どちらか該当で適用)。
- 呼気1Lあたりのアルコール濃度0.5mg以上
- 血液1mlあたりのアルコール濃度1mg以上
これらは、一般的にはビール大瓶2本程度の量とされています。基準値を下回っても、飲酒の影響で正常な運転ができず事故を起こしたと判断されれば、同罪が適用される可能性があります。
改正内容②高速度に数値基準を導入
高速度での危険運転も明確な数値規定がなかったため、改正案では以下のような数値基準が盛り込まれています。
- 最高速度60km/h以下:50km超過
- 最高速度60km/h超:60km超過
たとえば、最高速度が60km/hの場合は110km/h以上が目安となります。また、上記基準値を10km/h下回る範囲や、それ以外でも「進行の制御が困難」なレベルでの高速度であれば、同罪が適用される可能性があります。
改正内容③悪質なドリフト走行等を対象に追加
改正案では、悪質性・危険性の高い運転として、新たに「殊更に(=故意に)タイヤを滑らせたり、浮かせたりして進行の制御が困難な走行」を追加しています。
これは、いわゆるドリフト走行やウィリー走行を意識して設定されたものです。
今後の危険運転致死傷罪の課題
これまで危険運転致死傷罪は適用基準が曖昧で、危険な事故でも過失運転致死傷罪に留まるケースが多くありました。今回の改正では、こうした課題の改善が期待されています。
一方で「基準値を下回る場合にどこまで危険運転と認定するのか」は依然として課題です。また、スマートフォンのながら運転への対応や量刑の重さについても議論が続いています。
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- Supervised by norico編集長 村田創
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