パワーウィンドウが故障した際の対処法、修理費用について整備士が解説

パワーウィンドウは必須な装備です。
故障して開閉できない、ましてや閉めることができなくなってしまっては、非常に困ってしまいます。決して珍しい故障ではないので、もしもの時のために対処法や修理費用について整備士が解説します。

パワーウィンドウの仕組み

パワーウィンドウは主に、以下の部品で構成されています。(細かい部品は省きます)

  • パワーウィンドウスイッチ
  • モーター
  • レギュレーター
  • ガラス
  • ガラスランチャンネル(ガイド)

パワーウィンドウスイッチを操作すると、モーターが駆動します。
モーターによりレギュレーターが動かされ、レギュレーターに取り付けられたガラスが、ガラスランチャンネル(ガイド)に沿って、上下に動く仕組みです。
今も昔も、この基本構造は変わっていません。

パワーウィンドウ故障の主な原因

パワーウィンドウの故障にはいくつかのパターンがあります。
なかには、故障だと思っていても実は正常範囲の作動であったり、メンテナンスで解決できたりするものがあります。

スイッチの故障

パワーウィンドウのスイッチの画像

スイッチの故障に関する具体的な原因の判明には、プロの整備士による確実な診断が必要です。
パワーウィンドウスイッチが故障すると、ガラスの開閉ができない、AUTO機能が効かないといった症状がおこります。
内部の接点や基盤がダメになっており、見た目には故障していることが分からないこともあれば、スイッチそのものにグラつきが発生しており接点不良になっていることもあります。

ほかにも助手席側のガラスの開閉ができない場合、助手席側のスイッチ(サブスイッチ)が原因のときもあれば、運転席側のスイッチ(メインスイッチ)が原因のこともあります。

レギュレーターの故障

レギュレーターが故障すると以下のような症状が発生します。

  • ガラスの開閉できない
  • ガラスが落ちてしまう
  • 異音が発生する

レギュレーターには、ワイヤータイプとリンクタイプがあります。
ワイヤータイプは、ワイヤーを巻き取るローラーがワイヤーをうまく巻き取れなくなったり、ワイヤーがローラーから外れたり、ワイヤーそのものが切れたり、様々なトラブルの発生リスクがあります。
結果的に不具合症状が出ている頃には、ワイヤーがぐちゃぐちゃになっていることが多く、該当部品の交換が必要になります。

一方、リンクタイプはワイヤーを使用しないぶん、故障原因となる箇所は少ないです。
ガラスとレギュレーターを固定している箇所の損傷なども実例としてあります。
最悪の場合は、レギュレーターからガラスが外れてしまいガラスが傾いたり、ドアの中に落ちてしまうこともあります。

モーターの故障

モーターが故障すると、以下のような症状が発生します。

  • ガラス開閉の速度が遅くなる
  • ガラスの開閉ができない

モーターの故障の原因は、モーター本体の不良や劣化です。
基本的には、モーターアッセンブリーでの交換が必要です。

ガラスランチャンネルが劣化している

ガラスランチャンネルはゴム製のモールです。
ガラスがはまっている枠部分にあたります。
ガラスランチャンネルが劣化すると、以下のような症状が発生します。

  • ガラスの開閉スピードが遅い
  • ガラスオープン時、途中で止まる
  • ガラスクローズ時に途中で止まる、または反転する

これらの症状は、ガラスランチャンネルが劣化により硬化したり汚れが付着することで、ガラスが上下に動くときに抵抗となることで発生します。
AUTO機能のあるパワーウィンドウは、挟み込み防止機能が備わっています。
挟み込み防止機能はクローズ動作でモーターが駆動するときに物理的な抵抗が大きくなると、オープン側に反転させる機能です。

ガラスランチャンネルの劣化には、ガラスランチャンネルを交換、またはシリコンスプレーを塗布することで滑りを良くして、不具合を解消します。

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ロックがかかっている

運転席以外のパワーウィンドウの操作をできないようにするスイッチが、運転席側のメインスイッチにあります。
このスイッチをONにすると、運転席側のスイッチだけではなく、それぞれのスイッチでも開閉操作を受け付けません。

パワーウィンドウの不具合が起きたと思った場合はまず、ロックしていないか一度チェックしてみましょう。
また、パワーウィンドウを短時間で何度も開閉していると、モーターの加熱を抑える保護制御がはたらき、一定時間操作を停止する機能があります。

可動部のグリスが切れている

可動部分のグリスが切れていると、パワーウィンドウの部品が壊れる原因になります。
例えば、ワイヤー式のレギュレーターでワイヤーを巻き取るロータリー部分のグリスが切れていると、ワイヤーの早期摩耗・劣化につながります。
グリスが切れている要因は、基本的に経年的なものです。
年数が古くなるほどグリスは硬化し、切れてしまいます。
今後の不具合発生のリスクも考えて、グリス切れがすでに発生していたときは、部品を交換してしまうのが最善でしょう。

パワーウィンドウ故障の主な症状

次に、実際の症状別に考えられる故障原因をいくつか解説します。

パワーウィンドウが下がるけど上がらない

パワーウィンドウを下げるときは問題なく動くのに、上げる時にまったく動かないときは、スイッチの故障が考えられます。
また、上がるけどスピードが遅かったり、途中で反転してしまって上がりきらないときは、ガラスランチャンネルの劣化、またはモーターが弱っている可能性があります。

異音がする。異音ごとの考えられる劣化箇所

パワーウィンドウ開閉時に「キュー」っとゴムが擦れるような音がするときは、ガラスランチャンネルの劣化が考えられます。
ドアの開閉時に「ガチャガチャ音」、ガラスを途中まで開けた状態で走行してて段差乗り越え時や振動に応じて「ガチャガチャ音」が発生するときは、ドア内部のパワーウィンドウの部品を固定しているボルトやナットが緩んで、ガタが発生している可能性があります。

ガチャガチャ音の発生で考えられる例:
レギュレーターにガラスを固定しているところのボルト・ナットがが緩んでいる
レギュレーターやモーターをドアパネルに固定しているボルト・ナットが緩んでいる

ドア開閉時の作動音がいつもより大きくなったと感じ、その音が「ガラガラ・ガチャガチャ・ギュー・ミシミシ」といった異音の場合、レギュレーターが壊れている可能性があります。
また、ガラス開閉時に「ウィーン」というモーターがうなるような異音がするときは、パワーウィンドウモーターの劣化が考えられます。

運転席だけパワーウィンドウが動かない

このときに考えられる原因は以下のとおりです。

  • パワーウィンドウスイッチ(メイン)の故障
  • 運転席パワーウィンドウモーターの故障
  • パワーウィンドウレギュレーターの故障

パワーウィンドウ故障時の対処法

パワーウィンドウが故障したとき、そのままにしておくわけにはいきません。
それぞれの故障箇所や症状ごとに対処法をまとめました。

  • パワーウィンドウスイッチの故障
  • ガラスの開閉ができない

対処方法:接点不良が不具合原因の場合、強く押したり、半端な位置で操作してみるなどで、ガラスの開閉ができることがあります。

 

  • パワーウィンドウレギュレーターの故障
  • ガラスの開閉ができない&スイッチ操作時に異音が発生する

対処法:ユーザー自身でできることは、基本的にありません。整備工場に相談しましょう。ガラスが中途半端な位置で止まっていて全閉できない場合でも、車種によっては応急の対応が可能です。

  • パワーウィンドウモーターの故障
  • ガラスの開閉ができない(さっきまではできていたのに動かなくなった)

対処法:モーターが故障している場合、ユーザー自身でできることは基本的にありません。整備工場に相談しましょう。
さっきまで動いていたのに急に動かなくなったとき、直前に頻繁な操作をしていた場合、モーターの保護機能が働いている可能性があります。
5分ほどおいてから再度操作してみてください。
まれに、モーターのギヤがレギュレーター側のギヤに噛み込み抵抗となってしまい、開閉できなくなる車種もあります。
この場合は一度、レギュレーターからモーターを外した後に、元に戻すことで不具合が解消しますが、素人判断で断定するのが難しいです。この場合もやはり整備工場に依頼することをおすすめします。

 

  • ガラスランチャンネルの劣化
  • ガラスの開閉スピードが遅い、途中で反転する

対処法:ガラスとガラスランチャンネルが接する部分(特に溝にあたるところ)に、シリコンスプレーや潤滑剤を塗布して滑りをよくすることで、不具合が解消されることもある。

パワーウィンドウが閉まらない時の応急処置

パワーウィンドウのガラスが閉まらなければ、雨が降ったときに困るうえに、防犯上も好ましくありません。
ガラスを閉めるために、応急処置としてどんなことができるのか紹介します。

スイッチの不良が疑われる場合

状況によりますが、一度IG-OFF(エンジンを切る)して数分置いた後に、閉方向にスイッチ操作しながら、エンジンを掛けてみると閉まることもあります。
また、強く引き上げたり、押し込みながら引き上げるなど、スイッチの操作感を変えてみても良いかもしれません。

パワーウィンドウレギュレーターの故障が疑われる場合

パワーウィンドウレギュレーターの故障時は、ユーザー自身で応急処置を施すことは難しいです。
ガラスを閉めるときは、ドアトリム(内張り)を脱着してガラスを引き上げます。
ガラスが落ちないように、ワイヤーや結束バンドなどを使ってガラスを固定して応急処置します。
車種によって難易度も異なるため、整備士であっても頭を悩ませることもあります。

パワーウィンドウモーターの故障が疑われる場合

パワーウィンドウの修理:ドアリムの着脱

モーターが故障しているときも、ユーザー自身で応急処置することは難しいです。
レギュレーター故障時と同様に、ドアトリムを脱着する必要があります。

ガラスランチャンネルの不良が疑われる場合

ガラスランチャンネルの不良で、ガラスが反転したり途中で止まってしまう場合は、AUTO操作をせずに、マニュアル操作で少しずつスイッチを閉方向に操作することで、閉めることができる可能性があります。

パワーウィンドウ修理費用の目安

パワーウィンドウを修理するときの費用の内訳は、部品代と作業工賃を合わせたものになります。
車種によって異なりますが、一般的な国産車を例におおよその目安をまとめました。

パワーウィンドウのパーツ 修理費用の目安
スイッチ※ 1万円〜2.5万円
レギュレーター 1.5万円〜4万円
モーター 1.5万円〜3万円
モーター・レギュレーター一体型 4万円〜6万円
ガラスランチャンネル 1万円〜2万円

※メインスイッチ(運転席)とサブスイッチ(運転席以外)で部品金額が異なります。

パワーウィンドウのメンテンナンス方法

パワーウィンドウの故障は、経年劣化によるものが多いです。
また故障したときに、自分自身で応急処置できるものなら良いですが、整備工場に持ち込まなければ応急処置もままならないこともあります。
突然の不具合発生は避けようがありませんが、パワーウィンドウの異音や操作時に違和感を感じた場合は、故障して困らないうちに早めに診断・修理対応してもらうことをおすすめします。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。