エンジンオイルは常にハードコンディションに晒されているので、定期的な交換が必要です。
交換や補充にあたってエンジンオイルを入れすぎてしまうと様々なトラブルの元になり、最悪の場合はエンジンが壊れるおそれがあります。
「入れすぎてしまったかも…」と不安に感じている方に向けてどう対処すれば良いのかを現役整備士が解説します。
エンジンオイルは規定量を入れよう
大前提として、エンジンオイルにはエンジンごとに規定量が決まっています。
規定量に対して少なすぎても多すぎても、エンジンの健康状態に悪い影響を及ぼします。
エンジンオイルは、「とりあえずそれなりの量が入ってさえいれば大丈夫…」というようないい加減なものではありません。
一度、悪い影響を受けたエンジンが自然治癒することはあり得ないので、エンジンオイルの適切な管理はとても重要です。
また、およその目安として、仮に入れすぎた場合に許容できる量は、エンジンにもよりますが、普通車だと0.5L〜1L以内が目安です。
エンジンオイルを入れすぎた際の症状
エンジンオイルを入れすぎると、どんな症状が発生してエンジンの健康状態に悪い影響を及ぼすのかをくわしく解説します。
燃費が悪くなる
エンジンオイルには粘度があります。
適切な量ではじめて、エンジンを潤滑したり保護する役割が果たせます。
しかし、粘度を持ったオイルを入れすぎるとエンジンが動くうえでの抵抗となってしまいます。抵抗によってエンジンの負担・負荷が増えると、燃費の悪化につながります。
マフラーから白煙が出る(センサーや触媒の故障)
エンジンオイルを入れすぎると、通常は入らないところにオイルが侵入するリスクがあります。
例えば、燃焼室内に侵入したオイルがガソリンと一緒に燃焼すると、白煙となってマフラーから出てきます。
それだけであれば大きな影響は無いように思うかもしれませんが、オイルの燃焼は排気ガスの通り道にあるセンサー(例:O2センサー…排ガス中の残存酸素濃度を計測)や触媒(排ガスの浄化装置)の早期劣化や故障に直結します。
場合によっては車検に通らず、高額修理となるケースも有ります。
オイルを含んだブローバイガスがインテーク側を汚してしまう
ブローバイガスとはクランクケースから吹き抜けた未燃焼ガスのことを指します。
いまの車は、ブローバイガスを吸気系統に還元させて、再度燃焼室で燃焼させる仕組みになっています。
オイルを入れすぎると、このブローバイガス中に含まれるエンジンオイルが極端に増加してしまい、エンジンの吸気系統にオイルが回ることで、吸気系統内がオイルで汚れてしまう可能性があります。
その結果、吸気システムを介して燃焼室内にオイルが侵入してしまい、先ほど説明した「マフラーから白煙が出る」症状につながります。
また、吸気系統内にあるセンサー類にオイルが付着することで、センサーが正しい数値を認識できなくなったり、故障や警告灯の点灯につながります。
オイルハンマーでエンジン損傷
もっとも怖いのが、オイルハンマーを起こすことです。
燃焼室にオイルが侵入してしまうことで発生するもっとも深刻な症状です。
エンジンのピストンが上昇して圧縮したときに、体積以上の多量のエンジンオイルが燃焼室内に侵入していると、そのエンジンオイルが行き場を失ってしまいます。
その結果、エンジンの部品を損傷させてしまいエンジンが壊れてしまいます。(例:ピストンのコンロッドが折損する…など)
この現象をオイルハンマーと呼びます。
オーバーヒートのリスクがある
エンジンオイルの入れすぎによって、高温になったエンジン内のパーツにオイルが常に触れるるようになると、エンジンオイルの油温が上昇しやすくなることがあります。
それに伴ってエンジン冷却水の水温も上がってしまい、結果的にオーバーヒートになるリスクがあります。
入れすぎたエンジンオイルの抜き方
入れすぎたエンジンオイルは、エンジンへのダメージが蓄積してしまう前に抜かなければいけません。
エンジンオイルを抜く方法は大きく「上抜き」と「下抜き」の2通りあります。
カー用品店などプロに依頼する方が無難
エンジンオイルを入れすぎるミスが発生した時点で、それ以上自分自身でなんとかしようとするのは避けたほうがよいでしょう。
道具を追加で購入する必要があったり、車や道路などの公共物を汚してしまうリスクがあるためです。
すでに解説したようにエンジンオイルは、多くもなく少なくもない規定量内に収めることがもっとも大切です。
確実に対処した上で、オイルを入れすぎたことによるトラブルがないかの確認をするためにも、プロの整備士に作業依頼しましょう。
上抜き
上抜きはオイルレベルゲージにホースを挿して、専用の機械でオイルを吸い出すことを指します。
何L抜いたかが目視で確認でき、細かい調整がしやすいので入れすぎた分だけを抜くことができます。
ただし、レベルゲージのない車やエンジンの形状によっては使用できない場合もあります。
専用の機械にはプロが使う自動で動くものから、ネット通販でも安くで購入できる手動ポンプのようなものまで様々です。
下抜き
オイルパンのオイルドレンから抜く方法で、一般的なオイル交換と同様の手順となります。
細かい調整ができないので適量抜くことができませんが確実な方法てす。
個人がやる場合には危険を伴うこともあるので、入れすぎたオイルを抜く方法としてはおすすめしません。(プロがやる場合を除く)
エンジンオイルの規定量の測り方
エンジンオイルが規定量に収まっているかを、ユーザー自身でも簡単に確認する方法があるのでご紹介します。
エンジンオイル規定量の目安
エンジンにはそれぞれに合った規定量が決まっています。
この規定量に関しては、自動車の取扱説明書のサービスデータ欄に記載があり、ユーザー自身でも簡単に確認ができます。
エンジンオイルのみの交換とオイルフィルターも同時交換したときでは注入するエンジンオイルの量も異なりますが、この部分についても取扱説明書には記載があります。
また、エンジン(排気量)が大きくなるほど、エンジンオイルの規定量が多くなる傾向にあります。
しかし、あくまで目安としての傾向でこの限りではないので注意しましょう。
同じ車でもエンジンが異なるとオイル量が違うので注意
車種によっては同じ年式の同じモデルでも、搭載しているエンジンが異なるものも少なくありません。
自分の車にはどのエンジンが搭載されているのか理解しておく必要があります。
分からない場合には、車検証に排気量とエンジン型式の記載があるので、それを参考に取扱説明書のサービスデーターと照らし合わせてみましょう。
例:30系アルファード の場合
エンジン排気量 | エンジン型式 | エンジンオイル交換 | エンジンオイル&オイルフィルター交換 |
---|---|---|---|
3.5Lエンジン | 2GR-FKS | 5.3L | 5.4L |
2.5Lエンジン | 2AR-FE | 4.0L | 4.4L |
オイルレベルゲージの確認方法
エンジンには「オイルレベルゲージ」と呼ばれる、オイル量を確認するためのゲージがついています。
オイルレベルゲージには規定量を確認するために、上限値と下限値が刻印されています。
線や◯で範囲を記したものや、規定範囲内が網掛けになっているものが一般的です。
凹凸の形状によって規定範囲を表しているものもあります。
なかには分かりやすく、下限値にはMinimumの「M」やLowの「L」、上限値にはFullの「F」やHighの「H」、または数量が刻印されているものがあります。
この範囲内にエンジンオイルの液面が収まっていれば正常範囲内ということです。
オイルを入れすぎている場合上限値から上に0.5cm程度であれば大きな問題が発生することはまずないでしょう。
また、クリーンディーゼルは機構上エンジンオイルに燃料が混じることで液面が上昇するので、その限度値を示す刻印があります。(×等で示されます)
オイルレベルゲージの使い方
オイルレベルゲージを使って、エンジンオイルが規定量入っているかを確認する方法の手順をお伝えします。
- 車を平坦で安全な場所に停車する
- エンジンを停止してから5分以上経過してることを確認する
- ボンネットを開けてレベルゲージの位置を確認する
- ウエス(布)を用意する
- レベルゲージを引き抜いて、付着したオイルをウエスできれいに拭き取る
- もう一度挿してから抜いて、ゲージについたオイルの位置を確認する
- レベルゲージの下限値と上限値の間でオイルが付着していればOK
※輸入車を中心にオイルレベルゲージのない車もあります。
詳しくは取扱説明書を見るか、ディーラーにお問い合わせください
測定の際の注意点
正しくオイルの量を測定するためにも、手順のはじめにある平坦な場所に駐車することと、エンジン停止後に5分以上置くことは確実に守ってください。
エンジンオイルはエンジンが動いているときはエンジンの隅々にまで行き渡っています。平坦な場所かつ時間を置いてオイルパンにある程度オイルが戻ってくる(落ちてくる)のを待たないと、正しいオイルの量を測定できないためです。
よって、エンジンを切った直後にレベルゲージで確認すると、実際よりも少ない位置と誤判断しかねません。
実はこれが、オイルを入れすぎる原因のひとつにもなります。
また、停止直後のエンジンルーム内は高温になっている部分もあり、誤って触れてしまうとヤケドするおそれがあるので注意が必要です。
整備士のまとめ
エンジンオイルを入れすぎた状態でエンジンを掛けると、場合によってはエンジンが損傷してしまい、取り返しのつかないことになりかねません。
基本的にエンジンオイルは定期的な交換が必要で、安易に補充することは危険です。
まずはレベルゲージでオイル量を確認して、エンジンオイルの入りすぎが疑われるときは、車屋さんに連絡をして指示を仰ぐようにしましょう。
ただし、一部の車種で適切なタイミングでエンジンオイルの補充を必要とされるパターンもあるので、その場合はあらかじめ車屋さんから手順などのアドバイスをもらうようにしましょう。
- Supervised by 整備士 ヒロ
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保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。