レストアとは?費用やオーバーホールとの違いを整備士が解説

レストアとは?費用やオーバーホールとの違いを整備士が解説

一般的なカーオーナーにとって、なかなか馴染みのない「レストア」という言葉。
古い車を現代でも乗ることができるようにするためにとても重要な作業のことを指します。
このレストアがどういったものなのか、費用や注意点、オーバーホールとの違いについて現役の整備士が解説します。

車のレストアとは

レストア(restore)は「再構築する」という意味を持ちます。
車のレストアとは、そのままでは使用することが困難な状態の車を、修理・部品交換などを実施して再び元のきれいな状態に戻し、安全に公道を走れる状態にすることを指します。
一般的な車のメンテナンスや整備とは異なり、普通の感覚では廃車になるような車も復活させます。
時には錆が酷くボディに穴の空いたような車でさえも、きれいに修復することもあります。
エンジンやトランスミッションといった機関だけではなく、フレームやボディ、内装にまで手を加えるため、レストアの際にはあらゆる部品を取り外して、ボディのみの丸裸状態とすることも珍しくありません。

レストアは主にクラシックカーを対象にしたもの

レストアという言葉は主にクラシックカーに対して使われます。
クラシックカーは「旧車」「ヴィンテージカー」「オールドカー」「ヒストリックカー」「ノスタルジックカー」…といったように、その趣の違いや解釈によりさまざまな分類がされ、それらに応じた言い方をしますが、いずれも製造後数十年経った古い車のことを指します。
明確に何年経てばクラシックカーという定義はなく、時代の移り変わりと共に該当する車も増えていくことになります。
参考までに、日本クラシックカー協会が主催するクラシックカーレースの参加規定は、2025年9月現在において以下のように規定されています。

「1975 年までに生産された車両およびその同型車に限り 1979 年までに生産された車両」

レストアにかかる費用や期間の目安

レストアは非常に高額かつ、時間を要する作業です。費用も時間も根気と覚悟が必要です。

レストアにかかる費用は数百万円単位の費用が必須か

レストアはそれぞれの車に応じてメニューが変わるだけではなく、長年の使用または放置された状況によって一台一台の車の状態が異なります。
同じ作業をするにしても難易度や手間が異なるため、明確な費用の目安を示すことが難しいです。
ごく一部分のみのレストア作業であれば、数十万円で済むような作業メニューもあります。ただし、一般的なレストア作業の難易度や所要時間を考慮すると、数百万円単位の費用がかかることがほとんどだと理解しておきましょう。

新車時の販売価格を超えるようなレストア費用がかかることも珍しくありません。
また、なかには特定の車種に向けて自動車メーカーが公式でおこなっているレストアプランがあります。(例:マツダのNAロードスターレストアサービス)


メーカーが実施するレストアという安心と信頼は大きいですが、こちらの場合だと費用はボディと外装だけでも「451万円〜」、フルレストアとなると「836万円〜」となっています。このレストアサービスに該当するマツダのユーノスロードスターは新車販売時の価格は200万円前後だったので、レストアが非常に高額な整備作業であることが伺えます。

レストアには長期間かかる覚悟を

すでに解説したように、レストアは非常に高額な費用がかかる作業です。
高額な作業ということは、それだけ作業人員の時間の確保が必要ということにもなり、レストアは長期間の作業が必須となります。

また、レストアに際して旧車は交換部品がすでに廃盤となっていることも多く、そういった部品は代替部品を探したり、場合によってはワンオフ製作する必要も出てきます。
当然、その都度作業がストップするかたちとなるのでおのずと作業期間が延びます。
先ほども触れたように部分的なレストアで、たとえばシートやルーフライニングのリフレッシュ程度であれば、場合によっては数週間〜1ヶ月でレストアが完了することもあります。
しかし、基本的にはレストアには短くとも数ヶ月、長くなると数年単位で時間がかかるケースも出てきます。
費用と同じくベースとなる車の状態、どのような作業をおこなうかで、かかる時間も千差万別です。

レストアをする場合の注意点

レストアは一般的ではない特殊な作業です。それゆえに、さまざまな注意点があります。

時間とお金がかかることを覚悟する

時間とお金が多くかかることを理解し、長い目でレストアが終わるのを見守る覚悟が必要です。
旧車は多かれ少なかれ、不具合や劣化などの問題のある箇所を抱えています。
早く乗りたい気持ちを抑えつつ、レストアを通して確実に車をリフレッシュしてもうことが大切です。

予定通りに進まないことを理解する

レストア作業が予定通りに進み、予定通りの見積もり金額で作業も終わり、予定通りに納車されることはまずないと理解しておくことが大切です。
古い車の隅々まで分解して状態を確認していくので、想定していないイレギュラーな状況がレストアには付きものです。
また、使用する部品はどうしても純正にこだわりたいという方もいると思いますが、状況によっては困難、または不可能なケースもあることを理解しておきましょう。

業者と密なコミュニケーションを取る

費用も時間も予定通りに進まないといっても、中にはそこに漬け込んであまりにも作業進捗が悪かったり、相場より明らかに高額な費用を請求されることもあるかもしれません。
大切な愛車にどのような姿になってほしいかその想いと、業者にとってのできる・できない、できるとしてもどういった形でのレストアになるのか、コミュニケーションをとってすり合わせをすることがとても大切です。
レストアを依頼するときは後々のトラブルを避けるためにも、しっかりと時間をかけた打ち合わせを実施し、業者とオーナー双方で信頼関係を築くことを心がけましょう。

レストアしたとしても古い車にトラブルはつきもの

レストアをしたからといって、車が新車と同様に完璧な状態になるわけではありません。
たとえ見た目がきれいになったとしても、生産されてから数十年経った古い車であることに変わりはありません。
現代の車とは勝手の異なるところも多く、レストアをしたとしてもそこはあくまで旧車、トラブルはつきものと理解しておくことが大切です。

レストア前後で車の状態をしっかりと確認する

レストアはさまざまな部品の脱着を伴います。
フルレストアともなれば車の骨格だけの状態になることもあります。
作業内容をできるだけ把握し、無用なトラブルを避けるためにもレストア前後の車の状態をしっかりと確認しておくことが大切です。
状態の確認は業者も同席のうえ、一緒に確認していくことが好ましいです。

レストアした旧車を購入する場合の注意点

すでにレストアされた旧車を購入する場合、現車での確認は必須という前提条件のもと、どのような点に注意すれば失敗しないのか解説します。

レストア内容を確実に把握できている業者を選ぶ

レストアは非常に繊細な作業です。
販売している旧車がどこまでどのようなレストアが施された車両なのか、全く把握できていないようなお店から購入することはおすすめしません。
そうなると実際にレストアをおこなった業者が直接、車両も販売しているところで購入するのが好ましいと言えます。
そうでなくとも、前オーナーからしっかりと情報を引き継いで、次のオーナーに責任を持ってレストア内容を伝えることができる業者を選びましょう。

パワートレインの状態をチェック

エンジン、トランスミッションは車にとっての心臓部分です。
違和感なくアイドリングし、アクセルを踏んだときの吹け上がりも良好かチェックしましょう。
トランスミッションはMTであれば、問題なくギヤシフト操作ができるか可能な場合はチェックしておきたいです。
ATの場合は、シフト操作時に過大な変速ショック等がないかチェックします。

油脂類の状態をチェック

車に使われている油脂類が極端に汚れていたり、錆が混じっていないかなどをチェックします。
冷却水に錆が混じっていると、冷却水経路内に錆が発生している可能性が高く、これらの錆は冷却水のシステム内で詰まりを起こし、その結果オーバーヒートや冷却水漏れの原因となります。
また、各オイル類の汚れ具合によって車のメンテナンス状況が見えてくるので、油脂類の状態をしっかり確認して、その車が適切なメンテナンスがされてきたかどうかを見極めることが大切です。

オイル・水漏れがないかチェック

油脂類の汚れ具合のチェックと合わせて、漏れがないかも要チェックです。
車検に通らないような漏れであれば修理が必須です。
旧車だとすでに解説したように、修理するための部品がすでに廃盤であることも多く、代替品や流用品で対応したり、専門の業者に依頼して現物修理しなければいけないこともあります。
せっかく買った車が、修理のためにしばらく乗れない…なんて悲しいことにならないように、油脂類の漏れの状態は確実にチェックしておきましょう。

ボディや下廻りの錆の状態をチェック

車にとって錆は天敵です。錆が発生すると、そこから周囲を巻き込んだ腐食につながっていくので、ボディやシャシー・フレームの錆の状態をしっかりと確認しましょう。
旧車だと錆が進行してフロアに穴が空いてしまい、車内からその穴越しに道路が丸見え…なんてこともあります。
錆による腐食が酷いと車検にも通りません。

サスペンション等の足廻りの状態をチェック

サスペンションの良し悪しは乗り心地に直結します。
ボディやシャシー等の錆の確認と合わせて、サスペンションなどの足廻りの可動部分の錆の状態も見ておきましょう。
また、これら足廻り部品のガタの発生やブッシュのヘタリ具合、ショックアブソーバーからのオイル漏れが無いかも可能な範囲でチェックします。

灯火類の状態をチェック

灯火類に割れやヒビ割れがないかチェックします。
輸入車などの場合、中には日本の法規制に適合しないものがついている恐れもあります。
ただし、国産車であっても灯火装置の基準は現在の新車と当時の車とでは異なる点もあるので、その点は理解と注意が必要です。

エアコンの効きをチェック

エアコンを搭載している車であればエアコンの効きもチェックします。
レストアするような旧車でオリジナルのエアコンシステムのままであれば、現在では製造が禁止されている「R12」ガスが使われているケースがほとんどで(1990年代中頃まで使われていた)、エアコンを修理する場合には現代の車よりも高額になってしまいます。
中には後々のメンテナンスや部品調達のしやすさを考慮し「HFC-134a」という現代の車で使われているシステムにレトロフィットさせてある旧車もあります。

異音や異臭の有無をチェック

可能な範囲で異音や異臭の有無をチェックします。
異音や異臭が、ここまで解説してきたチェックすべき注意点の異変に気付くヒントになるかもしれません。

車内のカビの有無をチェック

旧車は何十年も使われてきた車です。
なかには、しばらく乗られずに放置されていたような車両もあります。
そこで特に放置歴のあるような車は、車内にカビが発生していないかも念入りにチェックしましょう。
場合によってはクリーニングの必要なケースもあります。

【補足】レストアとオーバーホールの違い

レストアと混同されやすい言葉として「オーバーホール」があります。レストアが機械部品のみならず、内外装や車のフレームといった車全体を対象として使われる言葉に対して、オーバーホールは主に機械部品に対して使う言葉です。
(例:エンジン、トランスミッション、エアコンコンプレッサー、オルタネーター、スターターなど)
オーバーホールは、普段では分解しないところまで綿密に部品の中身を点検したうえで、修理・清掃・給油・内部部品の交換等をおこないます。
車の修理をおこなうときに、新品同等の性能でありながら安価なリビルト品をおすすめされることがありますが、このリビルト品はオーバーホールを実施した部品です。

レストア作業の中に、必要に応じてオーバーホール作業を行うことがあると理解していただければよいでしょう。

整備士のまとめ

レストアは一般的な整備工場ではおこなっておらず、非常に専門性の高い特殊な作業です。
そのため、一般のカーオーナーにとってはあまり身近ではなく、お金も時間も必要な道楽のようなものです。
また、そのクオリティの良し悪しを見定めるのも難しいことが多く、だからこそ旧車のオーナー同士のつながりや口コミ、業者との密なコミュニケーションを通して、信頼のできるレストア業者と繋がることが重要です。
レストア済みの車両を購入するときも同様です。
さまざまな苦労を伴いますが、レストアした旧車に乗れる格別感は言葉では言い尽くせません。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。