ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

日本カー・オブ・ザ・イヤーとは?

2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤーが、「スバル レヴォーグ」に決定した。

日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会により運営される、この賞。
前年の11月1日から当年の10月31日までに日本国内において発表された乗用車が、対象車となる。
そして対象車の中から、実行委員会より選出された上限60名の専門家などによる投票結果で、受賞車が決まる。

もし日本メーカーの車が受賞した場合は、海外メーカーの車でもっとも多く得点を得たクルマに「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」が与えられる。

その他、「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」、「テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー」、「パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」、「K CAR オブ・ザ・イヤー」と、4つの特別賞が設定されている。

スバル レヴォーグの日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞理由は?

公式授賞理由

「スバルグローバルプラットフォーム」とフルインナーフレーム構造の組み合わせで類い希な操縦性と快適性を高次元で両立。

日常域での扱いやすさを重視した新開発1.8L 直噴ターボエンジンはリーン燃焼という新しい技術トライとユーザー目線の開発姿勢で支持を集めた。

インテリアも大型センターインフォメーションディスプレイや、フル液晶メーターで構成された先進的なデジタルコクピットを採用するなど大きく進化し、2020 年代のベンチマークにふさわしい仕上がり。

3D 高精度地図データと、GPS や準天頂衛星「みちびき」などの情報を活用した高度運転支援システム「アイサイト X(エックス)」を設定しながら、装着車で 317 万円(税抜)スタートというコストパフォーマンスの高さも評価した。

三つ巴の戦いに! 看板モデルがしのぎを削った日本カー・オブ・ザ・イヤー

2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー争いは、激戦が予想された。
なぜなら、各社の看板モデルが続々と登場したからだ。

とくに注目されたのが、トヨタ ヤリス系(ヤリス、ヤリスクロス、GRヤリス)と、ホンダ フィット、スバル レヴォーグだ。

接戦が予想された争いだったが、結果はレヴォーグが437点を獲得し、2位のフィットに117点差をつけて圧勝した。
ここまでの大差となった理由には、配点方法も大きく影響している。

各選考委員は25点の持ち点を、対象車10車(10ベスト)のうち、5車に配点する。
そのうち最も高く評価するクルマに1台に、必ず10点を与えるルールだ。
専門家は上限60名のため、最も得点を集めた場合は600点になる。
レヴォーグは437点を獲得しているので、全得点の70%以上を集めたのだ。
つまりレヴォーグの勝因は、より多くの選考委員から10点を得たこと。

ただ、それだけでは勝てないのが日本カー・オブ・ザ・イヤーだ。
いかに、0点を減らすかというもの重要なのだ。

今回、レヴォーグに0点をつけた選考委員は3名と少ない。
しかし、フィットに0点をつけた選考委員は6人、ヤリス系は、7人が0点をつけている。
0点をつけた人数の差も、レヴォーグの得点数の伸びにつながったのだ。
また、レヴォーグに10点をつけていない選考委員も、その多くが5点以上の高得点を配点した。
これも、レヴォーグが得点を伸ばした理由だ。

純ガソリン車として、最後のカー・オブ・ザ・イヤー受賞かもしれないレヴォーグ

圧勝したレヴォーグだったが、事前の予想では「レヴォーグが不利」といった意見もあった。
その理由は、電動化技術が入っていないため。

時代は、CO2減を求めている。
ライバル車であるヤリス系やフィットは、ハイブリッド車がメインのモデルだ。
一方、最新モデルなのに電動化技術が入っていない純ガソリン車であるレヴォーグ。
なかなか10点を入れにくいのでは?というのだ。
加えて奇しくも、日本政府は「2030年代半ばにガソリン車販売禁止」という方向性も示していたタイミングだった。

ところが、レヴォーグは、そんな前評判を覆して圧勝した。
優れた走行性能や予防安全性能、運転支援機能が想像を超えたレベルに達していて、電動化技術が入っていないことを十分に補ったのだ。

これから世界的に環境問題は、より大きなウェイトを占めていく。
EVやPHEVなどクルマの電動化は、急速に進んでいくだろう。
こうなると、来年のカー・オブ・ザ・イヤー選考から、環境問題を重視した評価になることが予想できる。
もしかしたら、レヴォーグは日本カー・オブ・ザ・イヤー最後の純ガソリン車受賞モデルになるのかもしれない。

2020 – 2021 日本カー・オブ・ザ・イヤー得点表

1位 スバル レヴォーグ 437点
2位 ホンダ フィット 320点
3位 トヨタ ヤリス/ヤリスクロス/GRヤリス 300点
4位 プジョー 208/e-208 141点
5位 ランドローバー ディフェンダー 105点
6位 アウディ e-tron Sportback 65点
7位 マツダ MX-30 63点
8位 アルピナ B3 25点
9位 BMW 2シリーズグランクーペ 24点
10位 日産キックス 20点

インポート・カー・オブ・ザ・イヤーは「プジョー208」

公式授賞理由

高剛性ボディとしなやかに動くサスペンションの組み合わせで実現した、クラスを超えた上質な乗り心地と、ドライバーの意のままにライントレースするハンドリングが秀逸。

フランス車らしい内外装の高いデザイン性と精緻な作り込みも魅力で、発進時から豊かなトルクを発揮しガソリン車同様のフットワークを持ちながら、400万円を切る車両価格のEVモデル「e-208」を選べる点も評価した。

考察

今年は、10ベスト内に5台もの輸入車が選ばれた。
しかし、そのうち3台は500万円を超えるモデルだ。
比較的、一般の人でも購入できそうな価格帯のモデルは、プジョー208とBMW2シリーズグランクーペのみだった。

この2台がインポート・カー・オブ・ザ・イヤー候補とされていたが、実際は208とディフェンダーの戦いになった。
そして、評価が割れ、208は141点という低い得点にとどまってしまった。
国産モデルに得点が集中してしまったことも、点数が伸びなかった要因だ。

ただ、最近では輸入車であっても、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しているケースが珍しくない。
そう考えると、208には他の輸入車を圧倒するほどの魅力が欠けていたともいえるのだろう。

デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーは「マツダMX-30」

公式授賞理由

SUVスタイルながら、観音開きの「フリースタイルドア」の採用などで、新しいスペシャリティカーを提案。
インテリアにはコルク素材やリサイクルファブリック、「プレミアムヴィンテージレザレット」と呼ばれる人工皮革を採用するなど、サスティナビリティとデザインの両立も評価した。

考察

MX-30とデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを争ったのは、EVのホンダeとディフェンダーだった。

どのモデルも、かなりユニークな存在。
ただ、ホンダeはEVということもあり、500万円弱という高価な価格帯だった。
また、ディフェンダーも同様に高価な価格帯のモデル。
やはり、一般の人にでも手に入りやすい価格のモデルであることが優先されたかたちとなった。

テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーは「アウディ e-tron Sportback」

公式授賞理由

高度な回生システムを備えた発電&蓄電テクノロジーを採用。
EV特有のノイズを一切排除し、プレミアムモデルらしい快適性を実現した。

大型スクリーンを奢ったインテリアやデジタル式の「バーチャルエクステリアミラー」の設定もEV専用車らしい演出。
前後輪の電気モーターによる強力な駆動力、実用的な405㎞の航続距離も評価を集めた。

考察

近未来EV感を、最新の技術を使って表現したe-tron Sportback。
確かに、テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーに相応しいモデルである。

ライバルは、ホンダeやレヴォーグなど。
厳しい戦いを制して受賞した。
ただ、e-tron Sportbackのように1,300万円以上するモデルであれば、最新テクノロジーが満載であっても、それは当然のことともいえる。

パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーは「BMW アルピナB3」

公式授賞理由

どんなシーンでも最高のパフォーマンスを発揮するスポーツサルーン。
ハイスピード域を難なく走りきるポテンシャルを持ちながら、日常域での扱いやすさは感動を覚えるほど。

エンジンも足回りもこの上なくスムーズ。
20インチという大径のホイール&タイヤを履きながら、しなやかな乗り味も評価した。

考察

アルピナB3とパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーを競ったのは、ヤリス系だ。
おそらくGRヤリスとの対決だったが、アルピナB3が圧勝した。

このモデルも1,200万円を超える高額車だ。
これだけ高額なら、走行性能に優れていても当然。
400万円台で手に入るGRヤリスのコストパフォーマンスは、あまり評価されなかったようだ。
一般人感覚とは、ややかけ離れた結果ともいえるだろう。

K CAR オブ・ザ・イヤーは「日産ルークス」「三菱eK クロス スペース/eK スペース」

公式授賞理由

実用性の高いスーパーハイトワゴンながら、コントロールのしやすい、安定感の高い走行性能で軽自動車の水準を引き上げた。

内装の質感やシートの座り心地も評価を集めた。

さらに登録車と同等性能の先進安全運転支援システム「プロパイロット/マイパイロット」の採用も大きな魅力になっている。

考察

K CAR オブ・ザ・イヤーは、日産ルークス、三菱eK クロス スペース/eK スペースとスズキ ハスラー、ダイハツ タフトとの非常に厳しい戦いが行われた。
まさに、三つ巴の戦い状態。

その接戦を、日産ルークス、三菱eK クロス スペース/eK スペースが制した理由のひとつが、同車のみに10点を投じた選考委員が多かったことだ。

ただ、K CAR オブ・ザ・イヤーを今年から設定したことにより、10ベストカーには軽自動車が1台も選ばれていない。
10ベストカーの中から日本カー・オブ・ザ・イヤーが選ばれるため、軽自動車の日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞は無くなったともいえる。