車のファンベルトとは?故障の原因や交換費用について整備士が解説

車のファンベルトとは?故障の原因や交換費用について整備士が解説

車のファンベルトは、エンジンの補機類を駆動するための非常に重要な部品のひとつで、消耗品なので定期的な交換が必要です。また現在ではドライブベルトや補機ベルトと言った呼び方をされることがほとんどです。
呼び方が異なる理由や、ファンベルトの交換時期の目安やその前兆、交換時の費用について現役整備士が分かりやすく解説します。

ファンベルトとは?

ファンベルトは従来、縦置きエンジンにおけるクーリングファンを駆動するためのベルトを指します。
エンジンにはファンベルトだけではなく、オルタネーターを駆動するベルトやエアコンのコンプレッサーを駆動するベルト、油圧パワステポンプを駆動するベルトも使用されており、いずれもエンジンの外側についているベルトです。

厳密にはファンベルトは使われていない

現在ではエンジンのレイアウトは横置きが主流となり、クーリングファンはベルト駆動からモーター駆動へと変化していきました。よって現在販売されている新車において、実際にファンベルトが使われている乗用車は基本的にありません。

ベルトを指す名称はさまざま

では何故、ファンベルトという呼び方がいまも世間的に浸透しているのでしょうか。
現在の車は1本または2本の少ない本数のベルトで共通してオルタネーター、エアコンコンプレッサー、ウォーターポンプを駆動するものが多く、これらは補機類と呼ばれていることから「補機ベルト」や「ドライブベルト」という名称が一般的です。
しかし、昔からの名残でエンジンの外に付いているベルトは正式な意味合いを問わず、ファンベルトと呼ぶ人が少なくありません。
これは一般ユーザーのみならず、車屋さんも含めてです。
ファンベルト以外にも、「Vベルト」という呼び方を使う人もいます。
Vベルトはファンベルトが使われていた時代のスタンダードなタイプのベルトで、アルファベットの「V」字に似た形状からその名がきています。
現在は「Vリブドベルト」と呼ばれる、断面に山と谷のある形状のベルトが主流ですが、こちらも昔からの馴染みで今でもVベルトと呼ぶ人がいます。
本来の意味とは異なりますが、この記事では現代の車においての俗称として、ファンベルト・Vベルト・ドライブベルト・補機ベルトを同一のものとして、引き続き解説していきます。

ファンベルトが故障した際の前兆や症状

ファンベルトの故障=(ベルトが切れたとき)の前兆として異音が発生したり、エアコンが効かないといった症状が起きたりする場合があります。起こりうる前兆や症状ごとに詳しく解説します。

【前兆】キュルキュル音

ファンベルトの劣化が進むとキュルキュル音(ベルト鳴き)が発生することがあります。これは、ファンベルトが劣化により硬化することで、プーリー(滑車)を滑ってしまうときに出る音です。
ベルトに張力を与えるテンショナー不良、またはベルトの張り具合が弱いことや、プーリーに発生している錆が原因である可能性もあるので、キュルキュル音が発生したときは早めに整備工場で点検してもらうことをおすすめします。
また、キュルキュル音はゴム素材であるベルトが硬くなっている朝一番かつ、冬の寒い時期や雨上がりの後に発生しやすいです。

【前兆】パタパタ音など

ファンベルトが切れる前に、部分的に裂けたベルトがベルトの回転による遠心力で周囲の部品に当たり、そのときの打音で「パタパタ」「カタカタ」「バタバタ」といった音がエンジンの音と同期して発生することがあります。
危険な状態なので走行は控えて、保険やJAFのレッカーサービスを利用することをおすすめします。

(実際に経験した事例:裂けたベルトがエンジン回転数を検出するセンサーに当たって損傷させてしまい、走行中にエンストを起こしてその後エンジンが掛からなくなった)

オーバーヒート

ファンベルトは、エンジン冷却水を循環させるためのウォーターポンプを駆動しています。
ベルトが切れると冷却水が循環できなくなるので、熱くなった冷却水が冷やされずに高温になってしまい、エンジンのオーバーヒートにつながります。

※一部除く。最近では電動タイプのウォーターポンプもあり。また、タイミングベルトの車はタイミングベルトでウォーターポンプを駆動しています。

バッテリーが充電されない(警告灯点灯)

ファンベルトは、発電を行うオルタネーターを駆動しているので、ベルトが切れると一切バッテリーに充電できなくなります。
発電ができないと、メーター内に赤いバッテリーマークの警告灯が点灯します。
その他にもヘッドライトやメーターがチラつく・暗くなる、ナビ・オーディオの電源が落ちるといった電装品のさまざまな不具合が発生します。
そのまま乗り続けていると、走行に十分な電力が無くなってしまうので、最終的には走行不能になりエンジンも掛からなくなってしまいます。

エアコンが効かない

エアコンコンプレッサーは冷媒ガスを圧縮する部品で、ファンベルトで駆動されています。
ベルトが切れると、コンプレッサーが働かなくなるのでエアコン(冷房)は一切、効かなくなります。
EVやハイブリッド車は電動コンプレッサーを採用しているケースがほとんどなので、影響はありません。

パワステが効かない(油圧式の場合)

最近ではほとんどの車が電動パワステですが、油圧式パワステの場合は、油圧を発生させるパワステポンプがファンベルトで駆動されています。
ベルトが切れると油圧が発生しないのでハンドルアシストが行われず、ハンドルがとても重たくなってしまいます。

ファンベルトが故障する原因

ファンベルトは消耗品です。車の使用過程において、いつかは必ず交換の必要が出てきます。
ファンベルトはゴム製のため経年劣化で硬化・ひび割れ・痩せ・伸びが発生するためです。
これらの状態を放置したままにすると、劣化したベルトがエンジンからの力に耐えられなくなり、最終的にはベルトが切れることもあります。
そうなると走行不能となり、ほかの不具合を誘発するリスクがあります。

ファンベルトの交換時期の目安

ファンベルトの交換時期の目安は5〜7年または走行距離4万km〜です。
ファンベルトを交換しなければいけないタイミングは、ベルトのリブ山が劣化で擦り減って痩せてきていたり、ベルトにひび割れが発生してきたとき、ベルトが伸びてきたときです。
予防整備の観点からベルト鳴き等の症状が発生するまでに交換して、ベルト切れの最悪のパターンを防ぎましょう。
ファンベルトの状態によりますが、新車から数えて2回目またな3回目の車検のタイミングで交換するのが良いでしょう。

ファンベルトの交換費用の目安

ファンベルトの交換費用の目安は1万円〜2万円です。
また、状態によってはベルトテンショナーの同時交換をおすすめされることもあり、その場合には3万円〜4万円程度が目安です。
ファンベルトの交換は、車種によって整備性が異なります。中には交換の際にSST(専用の特殊工具)を使用するケースもあるので、交換工賃に幅がある傾向にあります。
また、テンショナーを交換する場合にはベルト単品より部品価格が高額となるために、トータルの交換費用はベルトのみの交換と比較すると倍以上となります。

整備士のまとめ

ファンベルトの交換は故障につながるような不具合が発生したときではなく、消耗品のひとつとしてベルト鳴きなどが発生する前に交換するのが一般的です。
これは万が一、ファンベルトが切れてしまうようなことがあると、走行できなくなるおそれがあるためです。
そのためにも、ファンベルトの状態の確認を含めた定期的な点検を、信頼のおける整備工場で実施してもらい適切なタイミングで車のメンテナンスを行えるようにしましょう。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。