エバポレーターとは?洗浄と交換について整備士が解説

エバポレーターはカーエアコンにとって必要不可欠な部品のひとつです。車を維持するなかで交換やメンテナンスが必要となることがあります。その理由や、交換や洗浄といった作業の費用目安について現役整備士がわかりやすく解説します。

エバポレーターとはカーエアコンの主要部品の一つ

エバポレーターとは?洗浄と交換について整備士が解説

エバポレーターは日本語で「熱交換器」または「蒸発器」と言います。主に冷房使用時に重要となるカーエアコンの主用部品で、直近にはエキスパンションバルブと呼ばれる部品がついています。
このエキスパションバルブをエアコンガスが通過すると、高温高圧のガスがエバポレーターに向かって霧化されます。
エバポレーターでエアコンガスが霧化=気化されるときに気化熱で周囲の熱を奪う働きを利用して、冷風が出る仕組みとなっています。
エバポレーターの見た目はラジエーターに似ていて、エアコンガスが通るチューブと風が通過するフィンが交互に合わさってできています。
エバポレーターのチューブ内には気化熱によって冷えたエアコンガスが流れているので、フィンを通過する風はその冷気によって冷やされます。

エバポレーターの交換に明確な推奨時期はない

エバポレーターを交換しなければいけない時期は明確にはなく、万が一エアコンガス漏れが発生したときに交換の必要が出てきます。
かならずしも年数が経過した古い車がエアコンガス漏れを起こすわけではなく、新しい車でも発生しうる不具合です。

エバポレーターの故障原因

エバポレーターの故障するパターンは主に「内部のエアコンガスの通路に詰まりが発生」と「エアコンガス漏れが発生」の2つです。

エバポレーターの詰まりの原因と症状

カーエアコンは長年使用するなかで、エアコンコンプレッサー内部の部品の摩耗や添加剤の影響等により、ガス中に不純物が混じることがあります。その不純物が局部的に堆積すると詰まりが発生します。

エバポレーターに詰まりが発生すると、詰まっているチューブにエアコンガスが流れなくなります。そうすると、エアコンガスが流れていないチューブ周辺を通過した風は冷やされません。
結果、吹き出し口の温度が左右で違うといった症状につながります。(例:運転席側の吹き出し口の風は冷たいに、助手席側の吹き出し口の風はぬるい)

エバポレーターからのエアコンガス漏れの原因と症状

エバポレーターは劣化や本体の不良等により、エアコンガスが漏れることがあります。
エアコンガスが漏れると、エアコンの効きが弱くなり最終的にはまったく効かなくなります。ガス量がエアコンの効きが悪いほどにまで減ると、作動時に室内で「シュー」という音が聞こえることがあります。
また、エバポレーターで漏れている場合には吹き出し口から普段、嗅ぎ慣れないエアコンガスやコンプレッサーオイル(エアコンガス中に含まれるオイル)の臭いがすることがあります。

その他のエバポレーターの不具合事例

基本的に、先に紹介した2つのパターンがエバポレーターの故障事例ですが、他にも特定の条件で発生の可能性のある事例があります。
極端に劣悪な環境で車を使用していると、エバポレーターのフィンに大量の汚れが付着し、エアコンの効きが悪くなったり、吹き出し口から出る風量が弱くなったりします。
特に農業や建築現場等で活躍する車にこのパターンが多く見られます。
これは貨物用の車の場合、乗用車のようなエアコンフィルターが装備として省かれている、または簡易的なもので済まされていることが要因のひとつです。
乗用車ではエアコンフィルターがあることで、システム内に埃やゴミが入らないようにしていますが、エアコンフィルターが無いと車内外から入ってきた埃やゴミがエバポレーターに直接入り込んできてしまうためです。
一般的な使い方でも、あまりに車内が汚いまま長年使用を続けていると、同様にエバポレーターに汚れが蓄積することもあります。

エバポレーターの交換費用の目安

エバポレーターの交換費用の目安は7万~15万ほどと、高額になるパターンが多いです。費用の内訳の多くは工賃が占めます。

エバポレーターがダッシュボードパネルの奥に位置するエアコンユニット内部にあるため、作業に時間がかかります。ダッシュボードパネル及びダッシュボードの骨組みを車両から降ろしてはじめてエアコンユニットへとアクセスが可能で、さらにエアコンユニットを分解してエバポレーターを取り出します。
エアコンユニット脱着に際しては、エンジン冷却水の抜き取り、エアコンガスの抜き取りが必要です。
このように作業工程が複雑かつ、時間がかかるのでエバポレーターの交換費用は高額になります。

エバポレーターの洗浄とは?

エバポレーターを洗浄するサービスメニューが展開されていたり、エバポレーターを洗浄するためのカー用品が販売されています。
一般的に認知されているエバポレーターの洗浄は、ここまで解説してきたエバポレーターの故障原因の解決とは、まったく別モノです。

エアコンの臭いを解決するために洗浄

エバポレーターの洗浄は、エバポレーターに直接洗浄液を吹き付ける方法が多いです。
(エアコンフィルターを取り外したり、エアコンドレン等からアクセスします)
これにより、エバポレーターのフィン部分に付着した汚れやカビを洗い流します。
洗浄だけではなくカビの付着を抑制する除菌効果のあるものもあります。
あくまで、エバポレーターの外の汚れを落とすもので、エアコンガスが通過している中を洗浄するものではありません。

臭いの主な原因はカビなど

エバポレーターの洗浄は、エアコンの臭いが気になる人が検討する整備メニューのひとつです。
エアコンの臭いにはさまざまな原因がありますが、そのうちカビ臭いものはエバポレーターに発生したカビが原因となっていることがあります。
エバポレーターはすでに解説したように、気化熱を利用して冷たい風を作り出していますが、そのときの温度差で結露が発生します。
そのため、エバポレーターの直下には排水ドレンがあって、エアコン使用時に車の下にポタポタと水が滴り落ちてくるのは、エバポレーターの結露水なのです。
この結露水がエバポレーターに長時間付着して残ったままになると、カビ発生の原因となります。

洗浄してもエアコンが臭いまま…どうすれば良い?

エアコンの臭いの原因は必ずしもエバポレーターのカビとは限りません。タバコや、その他の生活臭といった原因も考えられます。
また、エアコンフィルターやエアコンの風が通るダクトに臭いが染み付いていることも考えられます。
エバポレーターの洗浄で臭いが消えない場合は、以下のことを試してみましょう。

  • エアコンフィルターの交換
  • スチームタイプの除菌・消臭剤を試す
  • 車内を天日干しする

スチームタイプの消臭剤を使うことで、車内全体だけでなくエアコンの風の通り道であるダクトなども消臭することができます。
また、天気の良い日に太陽が直接当たる場所でドアや窓を全開にして1日置いて天日干しすることで臭いが軽減されることもあります。
しかし、それでも臭いが消えないことは珍しくありません。
その場合には、臭いを消すには別のニオイで…ということで、好みの芳香剤を使って誤魔化す方法が効果的です。
臭いに悩んでいる方は一度、試してみてください。

エバポレーターの交換と洗浄の違い

すでに解説したように、エバポレーターの交換が必要なケースと、洗浄を勧められるケースとでは、そこに至る不具合や経緯がまったくの別物であることがほとんどです。
洗浄をするケースはエアコンの臭い対策、交換をするケースはエアコンの効き不良修理と理解しておきましょう。
ただしすでに解説したように、エバポレーターからエアコンガス漏れしている場合、吹き出し口からエアコンガス・コンプレッサーオイルの臭いがすることがあります。
この場合、エバポレーターの洗浄で臭いは消えません。
臭いの判断が難しいときは、整備工場で診断してもらうようにしましょう。

整備士のまとめ

エバポレーターの洗浄と交換はそれぞれまったく別の症状・不具合の結果、おこなうものです。
エバポレーターの洗浄をすれば、エアコンの効きが改善されるわけではありません。
仮にゴミや埃がエバポレーターのフィン部に詰まって効きが悪くなっている可能性はありますが、効きが悪くなるレベルの汚れであれば、エバポレーターの脱着を伴った清掃(交換と同等の作業)が必要でしょう。
また、エバポレーターの交換は大掛かりとなるケースが多く整備費用が高くなりがちで、作業時間も最低でも丸1日〜は必要です。
エバポレーターの交換と洗浄については、ネット上だと曖昧な情報も多いです。
信頼のできる整備工場でしっかりと診断と説明をしてもらい、納得のいくかたちで作業してもらうようにしましょう。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。