【コラム】「EV普及と環境問題への意識~EVが身近になった現代」舘内 端との対談(2/2)

※上図:左図:サクラ、右図:i-MiEVの車両画像

第一回の対談ではEVが認知される前の取り組みについて紹介しました。
今回は量産型EVの登場から現在にかけて、EV普及の経緯や我々がEVとどう付き合っていけばよいのかを考えてみました。

量産型EVリーフの登場は2010年。EVが認知され出す

赤井邦彦

赤井

EVが我が国で生活の中に入ってきたのは2010年に日産がリーフを発表したときだと思います。世界初の量産型EVで、日本での価格は376万4250円。2010年度のEV補助金78万円を使用した場合、298万4250円でした。この価格は高かったのですか、安かったのですか?

 

舘内 端

舘内

安かったと思いますよ。日産はよく頑張ったんです。

 

赤井邦彦

赤井

そうですね。我が国のEVの最初の最初は三菱自動車が2009年に発表したi-MiEVだったと思いますが、残念ながら販売台数が伸びず、2021年3月で生産終了をしています。期待されて市場に出てきたのですが・・・。

 

舘内 端

舘内

i-MiEVが成功していたら、日本のEVマーケットも変わっていたかもしれません。サイズは日本の道路にぴったり、経済性は抜群だった。バッテリーが車体の底部に置かれていて安定感も最高。しかし、電池の価格が高かったこと、走行距離が短かったこと、加えて我が国の充電施設が不備だったことなどから販売台数が伸びず、2021年で生産終了になった。

EV普及の課題は価格と航続距離

赤井邦彦

赤井

EVが普及するには一般ユーザーが購入してくれないとだめですよね。とにかく数が出ないと価格が上がるしメーカーに負担がかかるので、生産中止になる。ではどうすれば一般ユーザーが増えるのか? ニワトリと卵ですかね。

 

舘内 端

舘内

いまはまだバッテリーの価格が高いから、EVの価格も下がらない傾向。だから、自動車メーカーはアッパークラスからEVを入れてくる。1000万円のクルマを買う人は、1200万円になっても買うからね。しかし、我々庶民は250万円のクルマは買えても500万円のクルマを買うことには躊躇する。だから、メーカーにはもう少し頑張ってもらって安価なEVを出してもらいたい。いま、そういう傾向になってきたからね。

安価かつ小容量バッテリーの軽四EVの登場でEVはより身近に

赤井邦彦

赤井

実はEV素人の私は、バッテリーがそんなに高いものだとは知らなかったのです。それで、どうしてメーカーは軽自動車のEVを作らないのだろうって不思議だった。I-MiEV以来、軽四規格のEVってないでしょ。こんなに軽四が多く走っているのだから、それらを全部EVにしたらどんどん売れて、環境問題ももっとスムーズに解決するのではないかと考えていた。それで自動車メーカーの人に軽四EV化を言い続けていたのだけど、どうも反応が良くなかった。いま分かったのだけど、自動車メーカーの人に「こいつ、EVのこと何も分かってないな」って笑われていたのですね、私は。ああ、無知は怖いものないって言うけど恥ずかしいなあ。

 

舘内 端

舘内

いや、考え方は正しいよ。実際、自動車メーカーの人も軽四のEVは以前から狙っていたはずだよ。問題は航続距離。長距離を走ろうと思えば大容量のバッテリーが必要だけど、バッテリーの価格が高くなり、クルマそのものの価格が高くなる。そこで日産は考え方をシンプルにして、安価な小容量のバッテリーを搭載することにした。航続距離は短くなるが、軽四はあまり長距離を走らないという前提で開発したのだ。それがサクラ(2022年発売)。これがウケた。ユーザーはこういう軽四EVを求めていたわけだ。

 

赤井邦彦

赤井

やっぱり日本は軽四ですよね。航続距離は満充電で180Kmですが、それで十分ですもんね。

 

舘内 端

舘内

日本では、都市部や田舎ではあまり長距離を走らないからね。これがヨーロッパだと成立しない。ヨーロッパでは長距離を速く移動する手段がクルマだから。軽四が登場しない理由だよね。特にドイツはアウトバーンをすっ飛んでいく。いまはEVでも可能になったけど、そこで使われるのは高級EV。メルセデスやBMW、アウディといったメーカーの最上級クラスEV。クルマの利用背景から、ヨーロッパのメーカーはアッパークラスからEVを導入したのだ。

 

赤井邦彦

赤井

では、ヨーロッパのメーカーは小型のEVには興味を持っていないのですか?

 

舘内 端

舘内

いや、そんなことはないよ。ドイツのVW(フォルクスワーゲン)はID2all という小型EVを開発、2025年には発売する。このEVは走行距離が450Kmにもなるクルマで、ヨーロッパの人が満足する距離を走り切ることが出来る。つまり、ヨーロッパでも人々は小型EVに興味を持ち始めたのだ。

環境問題に意識を持ってEVに乗る。技術課題の解消によってはさらに身近に

赤井邦彦

赤井

思うに、ヨーロッパの人たちは日本人より遙かに環境問題に敏感ですよね。それは企業でも同じで、自動車メーカーは期限を切って生産するすべてのクルマをEVにするというところが多い。日本でもホンダが2040年までに新車販売のすべてをEVとFCV(燃料電池車)にする目標を掲げていますが・・・。

 

舘内 端

舘内

うん、ヨーロッパの人は環境問題に非常に敏感だね。地球環境を守るためにEVに乗る、という心構えだ。そうした考えは、国も同様で、自動車メーカーをリードする形でそれぞれの国が時間を切ってEV戦略を進めている。EVはやれ航続距離だ、やれバッテリーだ、って言っている場合じゃないって彼らは知っているのだよ。ヨーロッパ全体の2023年のEVシェアは14.6%にもなっている。日本はたった1.6%だよ。

 

赤井邦彦

赤井

絶望的ですね。日産サクラはその弱体環境にくさびを打ち込めますかね?でも、とにかく地球の環境問題は待ってくれない。それを止めるなら何でもしなきゃいけない、ということですよね。

 

舘内 端

舘内

そう。だから「日産が軽四のEV出したのだからうちはやめだ」、なんて言ってないで、「日産が出来たならうちだってできる」という気持ちで、自動車メーカーは日本の誇る軽四EVをどんどん出せばいいのだよ。ダイハツ、スズキ、スバル、マツダ・・・世界に誇る軽四トラックを生み出している我が国の自動車メーカーが足並み揃えて軽四EVに力を入れれば、環境は相当良くなると思うね。

 

赤井邦彦

赤井

政府からの補助金だって永遠に続くものじゃないでしょうから、それがなくなる頃には一般ユーザーが手軽に買えるEVが市場に溢れかえっているっていう様になればいいですよね。

 

舘内 端

舘内

もちろん解決しなきゃいけない問題はいくつもあるけどね。例えばバッテリーだけど、各社が開発を急いでいる全固体電池が普及すれば、現行のリチウムイオン電池と比べてサイズや重量が遙かに小さくなり、軽四のEVが多数出てくることになる可能性は高いよね。

 

赤井邦彦

赤井

全固体電池が早くEVに実用出来るようになればいいですね。そうなれば軽四王国の日本は凄いことになる。

EV普及を見据えて、供給される電気にも関心を持ってほしい

舘内 端

舘内

バッテリー自体もそうだけど、そこに充電するプロセスも地球環境を考える上でますます重要になるね。例えばいまの自家用EVは夜のうちに自宅で充電できるというのが謳い文句だけど、EVが大々的に普及して誰もが夜の間に充電するとなると、火力発電が今以上にフル稼働することになる。そうすればCO2の発生量も当然増えて、環境に対して良くない。

 

赤井邦彦

赤井

ということは、風力やソーラーといった再生エネルギーの使用が必要ということですね。

 

舘内 端

舘内

EVユーザーが家で充電するとき、あるいは充電施設で充電するとき、いつもこの電気はどこで作られているんだろうっていう考えを持って欲しいね。

 

赤井邦彦

赤井

日常生活でクルマを使っているときユーザーは、なかなかそこまで考えられない。ガソリン満タンにしようとか、電気満充電にしようとか、自分たちの欲求を満たしてくれることがまず目の前にある。でも、その向こう、遙か向こうだろうけど、そこで何が行われているか考えて行動すれば、必ず世の中は良くなるということですね。

 

舘内 端

舘内

そう、意識が必要だ。もちろんガソリン車に乗っている時もそうだったはずだけど、ガソリンスタンドで給油しているときにはそこまで考えが及ばない。しかし、EVを所有して家庭で充電すると、それは自らが直接的に関わっているように感じる。自分で充電ホースをクルマに差し込んで電気を流す。その電気は家庭に配られた電気であり、取り付けられた充電器から流れてきている。電気を使っていることを直接的に感じることが出来るわけだ。

 

赤井邦彦

赤井

EV自体の技術進化と共に、EVを取り巻く環境にも考えを及ばせなくてはならないということですね。それは誰かに任せるということではなく、EVユーザー自身の責任にもなってくるわけですね。

 

舘内 端

舘内

初めてEVに乗る人も、様々なことに興味を持って欲しいですね。地球を救うためにEVに乗るのだ、って宣言出来るようにね。

 

赤井邦彦

赤井

僕も気を引き締めてEVの勉強をします。今日は有り難うございました。(終わり)

ライター紹介

赤井邦彦事務所 代表

赤井 邦彦 氏

自動車ジャーナリスト。自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとしてF1をはじめとする記事を雑誌に寄稿、自動車関連の書籍も多数出版。1990年に事務所設立、自動車関連広告のコピー、国内外の自動車、EV関連について執筆活動中。