EV購入にあたっての懸念…。車両価格や航続距離はどうなの?

EV購入にあたっての懸念…。車両価格や航続距離はどうなの?

EVを購入する理由には、ランニングコストの安さや補助金といった税制優遇があるといったガソリン車よりお得感があることがあげられるだろう。一方でEV購入にあたって車両価格の高さや航続距離が短いことに懸念を持つ人もいるだろう。
EVが我が国の市場に出てきたのは2009年。三菱のi-Mievが我が国初のEV。それから15年、EVの種類も台数も劇的に増えている。
今回は、EV購入で懸念とされる車両価格や航続距離についての現在の傾向について紹介する。

車両価格が課題のEV。リーズナブルな価格のEVも増えてきている。

EV購入の懸念として、まず車両価格の高さがあげられる。
2023年に実施された野村総合研究所によるEVシフトに関する調査「野村総合研究所、世界4極で電気自動車の購入に関する消費者動向調査を実施」によると、日本では車両価格の高さでEV購入を躊躇するユーザーが50%もいることが分かっている。ただし、この割合は日本だけにとどまらず、アメリカやドイツでも同等の割合。中国だけは40%を切る。この数値が表すのは、国力だろう。
残念ながら日本の国力はいま弱い。それは、国民の収入に表れており、EV購入を考える時に所有しているガソリン車も、アメリカやドイツと比べると低価格のものが多い。アメリカやドイツは400〜500万円の車両価格のクルマが中心だが、日本は300万円以下が多くの割合を占める。基準になるガソリン車が廉価であれば、EVに求める価格もあまり高額ではないものを求めることになる。

 

しかし、EVはガソリン車に比べてどうしても高くなる。それはバッテリーの価格が高いからだ。EVは大量のバッテリーを必要とする。航続距離を伸ばそうと思えば、大量のバッテリーを搭載するしか解決策はない。もちろんこれは現在の話で、近い将来は全固体電池といったコンパクトで小型のバッテリーが登場するだろう。しかし、それまでは高価なバッテリーを大量に搭載するしか方法はなく、その結果車体価格も高額になるのを避けられない。

高価格EVの典型がヨーロッパのEVだ。ヨーロッパのメインブランドであるメルセデス、BMW、 アウディといったメーカーは、上級ブランドからEVを投入してきた。上級ブランドを購入するユーザーは少々の車体価格上昇は気にしない。そこに目をつけた。また、高級車は性能を上げることが低価格車より簡単だ。さらに高性能EVの投入で「他を圧する性能を誇る」という神話をつくることができれば、ブランド名をさらに向上させることが期待出来る。しかし、やはり価格が高すぎたきらいがあり、販売台数は予測値から離れている。

高価格路線の足踏みからか、ドイツの自動車メーカーはもとより、世界中のEVはよりリーズナブルな価格帯に落ち着きつつある。もとより自動車メーカーは販売台数を増やすことがビジネスを成功させる要である。価格を下げすぎて利益が出ないというのでは困るが、高価なクルマを少数売るより安価でも台数が出る方が良い。そこで、EVの分野においても多くのユーザーが手に入れられる価格帯のモデルが増えてきたのである。特に中国をみれば、その傾向は強く、そのおかげでEVの販売台数の割合は、他国に比べて遙かに高い数字を示している。

 

参考までに記しておくと、EVは購入時に国や自治体の補助金を利用出来る場合が多い。税金の優遇措置もある。こうした補助金を使うと、たとえ車体価格が高くても、かなり安価にEVを手に入れられ、お得感がある。ちなみに、2024年度の国からのEV補助金の上限は85万円。軽自動車やプラグインハイブリッド車は55万円だ。

EVの航続距離は未だに問題?

EV購入を足踏みさせる理由のひとつに、航続距離に関する心配がある。EV購入を躊躇する理由には、価格が高い、充電施設が少ないといった理由が上位に来るが、航続距離が短いという先入観を持つ購買客がいる。では、EVの航続距離はガソリン車に比べてそんなに短いのか? 確かに初期(10年前?)のEVの航続距離は短かった。だがここ数年で航続距離は確実に伸び、ユーザーはそれを実感している。ちなみに航続距離は搭載しているバッテリーの容量による。
 
EVの航続距離が短さを心配する理由のひとつに、充電スタンドが少ないという点が上げられる。ガソリン車を購入するときに航続距離を心配する声がないのは、ガソリンスタンドがあちこちにあるからだ。搭載燃料が減るとスタンドで補充すれば良い。ところが現状のEV用の充電スポットの数では、不安があるのは当然だろう。充電スタンドが手短なところに点在していれば、EVの航続距離に対する心配はなくなる。電池切れになる前に充電できるからだ。EVにはもうひとつの問題がある。充電に一定の時間がかかるということだ。自宅に充電設備を設けて夜間などクルマを使わないときに充電することでこの問題も解決する。EV購入時に販売店から推奨され、ほとんどの人が自宅に充電設備を設置するのは当然だろう。しかし、出先での充電に関しての心配がいまもネックになっていることは確かだろう。

だが、この問題は一度EVを所有してみると大方が杞憂であることが判明するはずだ。EVを所有しているとマイカーの電費と航続距離はおおよそ分かるし、充電施設の場所は当然調べている。それに、EVが増えてきたいまは充電施設の数も急速に増えている。そうした背景を反映してか、航続距離を気にしないEV購買層が増えてきている。いよいよEVが市民権を持ち始めたと言うことだろう。

中古EV市場はどうなっている?

次に、中古車市場に目を向けてみよう。中古EVは増加傾向にある。新車EVの販売が増えているのだから当然と言える。ただ、市場で中古車EVが活発な動きをしているとは言い切れない。中古EVの増加を促すには、いくつかの垣根を越えなければならない。その重要なひとつの垣根が、中古EVに搭載されているバッテリーの残存価値を見極める基準作りだ。

EVのリセールバリューがそれほど高水準ではないのは、中古EVのバッテリー価格を正確に把握できないからだ。EVではバッテリーの価格が20〜30%を占める。よって中古EVの価格を設定する場合、そのバッテリーの状態が大きく影響する。これをバッテリーの残存価値というのだが、それを確かめるには車体から取り出して構成部材の劣化状況を調べるのが理想的だ。しかし、実際にはバッテリーの搭載位置等の関係から難しく、走行距離、使用年数などから割り出すしかない。その場合、劣化の度合いを多めに見積もるため、結果、リセールバリューは低くなる。

 

しかし、テスラのようにEVのデータを多く持っているメーカーの調査では、バッテリーの劣化は推測よりかなり低いことが分かっている。よって、そのことがEV業界全体の常識として浸透すれば、中古EVの価格はある程度上昇するはずである。また、バッテリーの劣化が少ないことが分かれば、新車EVは高価で手が出ないという人たちにも,EV購入の道が開かれる。

EV市場が活況を呈するには、中古EV市場が拡大する必要がある。ガソリンエンジン車がいまのように普及した理由に、中古車市場の活況が寄与している。新車は高価で手が出せないという学生を初めとする若年層のユーザーは、中古車を安価に手に入れることでクルマ生活に親しんできた。同じような環境がEVの世界でも構築されないと、EVの普及は期待薄になる。それには、ユーザー個人が不安や心配事を抱えて中古EVを購入するのではなく、中古車業界が手を取り合って、EV初心者から経験者まで丁寧なサポートをするようなシステムの構築が待たれる。購入時のサポート、中古バッテリーの状態管理、保険、整備、車検、買い取り・・・新車販売に付属したこうしたサービスを中古EVでも展開して欲しい。
中古車展示場の最前列にEVが並び始めた時、我が国のEV市場も活気を呈してきたと言えるのではないだろうか。(おわり)

ライター紹介

赤井邦彦事務所 代表

赤井 邦彦 氏

自動車ジャーナリスト。自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとしてF1をはじめとする記事を雑誌に寄稿、自動車関連の書籍も多数出版。1990年に事務所設立、自動車関連広告のコピー、国内外の自動車、EV関連について執筆活動中。