マツダMX-30ロータリーEV試乗!マツダの魂、ロータリーエンジン復活

ロータリーエンジンが、マツダMX-30ロータリーEVに搭載された。約11年振りの復活だ。

新開発された8C型は、830㏄のシングルローターエンジンだ。ローターエンジンが復活したのは確かだが、MX-30ロータリーEVは発電用エンジンであり、駆動用ではない。生粋のロータリーエンジンファンにとっては、やや拍子抜けしてしまったかもしれない。

だが発電用とはいえ、ローターエンジンを再びマーケットに送り出したマツダの熱い想いは十分に感じ取れる。今回は試乗をとおしてMX30ロータリーEVの価格や航続距離などについて紹介する。

マツダMX-30の復活はPHEV化にあり

マツダMX-30ロータリEVの全景

なぜローターエンジンが復活したのか?その理由は、まさかの誤算からの大逆転だった。マツダは、BEV(電気自動車)であるMX-30 EVモデルの航続距離に関して、実用200km前後(カタログ値WLTCモード256km)のシティコミューターで十分と考えていた。

 

ところが、BEVシフトのスピードは、マツダが考えるより早かった。

欧州や中国・韓国のCセグメントBEVは、航続距離400km(=MX-30 EVモデルの約2倍)を超えるモデルが続々と登場した。さすがに、MX-30 EVモデルだけでは厳しい戦いになる。まさに、誤算だった。

 

そこで、マツダは選択肢のひとつとして、MX-30をPHEV化し、より航続距離を長くする企画を考えた。

 

ところが、PHEV化には大きな壁があった。MX-30はPHEVを想定して設計されていなかったため、PHEVに必要な発電用エンジンが入らなかったのだ。エンジニアによると、軽自動車用の3気筒エンジンでさえも、まったく入らない状態だったという。

 

そんな大きな壁を打ち破ることができたのが、ローターエンジンだった。

しかし、コンパクトなローターエンジンをもってしても、2ローターではボンネットの中に収まらない。しかし、1ローターなら、なんとか入ると結論がでた。そこで新開発されたのが8C型の1ローターエンジンだ。

高精度・高品質な8C型1ローターエンジンの開発

マツダMX-30 ロータリーEVの後景

8C型1ローターエンジンがスピーディに開発できた理由は、マツダがローターエンジンの開発を継続していたからだ。

加えて、生産技術も飛躍した。1ローターエンジンを新開発するために、数々の最新機器を投入している。従来の2ローターエンジンとは比べ物にならないほどの高精度・高品質な1ローターエンジンを生産できるようになった。

 

さらに機械による工作技術の進化に加え、マツダが長年にわたり積み上げてきた人の手による匠の技もプラスされている。マツダのローターエンジンへのこだわりが凝縮された逸品となった。

 

また、ローターエンジン使うことには、マーケティングとしてもメリットがある。マツダから想起するイメージは、未だにローターエンジンがトップレベルに入ってくるという。そのイメージをより強固にするためにも、MX-30ロータリーEVが開発された。

 

新開発のローターエンジンには、他のPHEVや水素などの代替燃料を使用している。マルチソリューション戦略への第一歩ともいえる武器に仕上がった。

MX-30  ロータリーEVの航続距離は107km

マツダMX-30 ロータリーEVのフロントフェイス

MX-30ロータリーEVは、ローターエンジンで発電した電力を使ってモーターで走行するPHEVだ。満充電でEV走行できる距離は107km(WLTCモード)と、EVとしてかなりの長距離を走行できる。これだけの距離をEV走行できれば、送迎や買い物、通勤などの日常的な使い方であれば、ガソリンを消費することはほとんどないだろう。

 

ただしノーマルモードでは、バッテリー残量が45%になるとハイブリッドモードへ移行してしまう。エンジンが始動し発電を開始してしまうため、ガソリンを頻繁に消費することになる。

そのため基本的にはEVモードに設定することをお勧めする。バッテリー残量がゼロに近付くまでEV走行してからノーマルモードにして発電させる使い方がよいだろう。自宅で充電すれば、ガソリンより安価な電力で走行でき、燃料費も抑えられるはずだ。

 

MX-30ロータリーEVのバッテリー容量は、17.8kWhだ。EVモデルと比べると約半分の容量となった。この減ったバッテリースペースにガソリンタンクを装着し、PHEV化している。

車重が重くなった分、モーターはパワフルに

マツダMX-30 ロータリーEVのリヤエンド

MX-30ロータリーEVに搭載しされている駆動用モーターの最大出力は170ps、最大トルクは260Nmだ。

試乗当初、MX-30ロータリーEVのモーターはEVモデルと同じモーターを流用していると思い込んでいた。

ところが、MX-30ロータリーEVには、専用モーターが装備されていた。MX-30ロータリーEVのモーター最大出力は145ps、最大トルクは270Nmと、EVモデルよりもかなりパワーアップしている。これはMX-30ロータリーEVの車重が、EVモデルに比べ130kgも重くなっているからだ。車重を補うためのパワーアップといえるだろう。

違和感の少ない加速感、走行性能のMX-30ロータリーEV

マツダMX-30 ロータリーEVのインパネデザイン

MX-30ロータリーEVの加速感は、EVモデルに似ている。

多くのBEVは、アクセルをラフに開けると、強大なトルクで強烈な加速をアピールする。ところが、MX-30ロータリーEVの加速感は、EVモデルと同様に穏やかだ。最大トルクは270Nmなので、速くはない。だが、遅いわけでもない。アクセル操作に対してリニアで、スムースに加速する。ガソリン車などから乗り換えても、違和感は少ないだろう。

マツダMX-30 ロータリーEVのメーター

違和感の少なさを演出している装備のひとつが、回生ブレーキの強弱をコントロールできるパドルだ。エンジンブレーキのように少し減速させたい場合、パドル操作ひとつで回生ブレーキを強めにかけることで速度を調節することができる。ブレーキを踏まなくてもよいので、街中での走行では、かなり便利だった。

もちろんEV走行中は、静粛性も高い。

重心高が低く安定性のあるMX-30ロータリーEV

マツダMX-30 ロータリーEVの運転席

次は操縦安定性だ。

MX-30ロータリーEVは床下に大きく重いリチウムイオン電池を搭載している。EVモデルと同様だ。そのため重心高は低く、カーブではピタッと安定した走りを披露する。とくに高速道路の大きなカーブではとても気持ちよく曲がっていく。

 

ただ、急カーブなどでは少し重さを感じた。ボンネット内にエンジンを搭載したことで、フロントがややヘビーになっているからだ。

マツダMX-30 ロータリーEVの後席

乗り心地も良好だ。

トーションビーム式の嫌なゴツゴツ感も軽減されていて、前席は概ね快適といえる。だが後席は、大きな路面の凸凹や連続する凹凸があるときに、少し突き上げ感が強めにでる傾向があった。

マツダMX-30 ロータリーEVの荷室

ローターエンジンは今後の進化に期待

マツダMX-30 ロータリーEVのエンジンルーム

ノーマルモードで走行中、バッテリー残量が約45%位になってきたところで、話題の8C型1ローターエンジンが始動した。PHEVの中には、気にしていないとエンジンがかかったことに気付かないようなモデルもある。だが、MX-30ロータリーEVの1ローターエンジンは、しっかりと存在感をアピールしていた。

 

期待のエンジン音は、音量そのものが小さいのでノイジーではないものの、ガーという単調な音だった。これが1ローターの音なのかと、少々惜しく感じた。

エンジンの振動も気になるレベルではないものの、それなりに感じられる。2ローターエンジンは、それぞれの振動を打ち消し合い、スムースさが際立った。だが1ローターエンジンでは、振動がそのまま伝わるようだ。

 

正直、1ローターエンジンへの期待値が高過ぎたのかもしれない。だがボンネット内にエンジンを入れることが大前提だったのだから仕方がない。

今後の熟成や進化に期待しつつ、世界で唯一のロータリーエンジンを復活させたことを評価すべきだろう。

ハイブリッドモードの燃費が物足りない

マツダMX-30 ロータリーEVの給電口

また、ローターエンジンに興味がない人にとっては、ハイブリッドモードでの燃費が悩ましい。MX-30ロータリーEVのハイブリッド燃費は、FFで15.4km/L(WLTCモード以下同)だ。1クラス上である、4WDの三菱アウトランダーPHEVが16.2~16.6km/L。同様に1クラス上の、トヨタ RAV4 PHEVは、4WDで22.2km/Lとなっている。クラスが下のMX-30ロータリーEVが燃費で負けているのだ。

 

ハイブリッドでこの燃費だと、購入時の大きな足かせになってしまうだろう。燃費向上の伸びしろはあると言うが、その差は大きい。

個性的なMX-30 ロータリーEV

マツダMX-30 ロータリーEVの内装

試乗したことで、MX-30ロータリーEVは「個性の塊」であると強く感じた。ベースとなるMX-30も、観音開きのドアにかなり個性的な内外装デザインをもつ。そこに、ローターエンジンが搭載されているのだから、強烈なオリジナリティを誇るモデルといえる。ローターエンジンファンや、マツダへのロイヤリティが高いユーザーにとっては、とても魅力的だ。

 

その一方で、かなり個性的であるがゆえに、明確に好き嫌いがハッキリ出るクルマでもある。とくに、実用性重視というユーザーであれば、選択しない可能性が高いモデルだろう。

 

そのため、MX-30ロータリーEVは、クルマとして良いとか悪いとかを超越し、シンプルに好きか? 嫌いか? で選ぶクルマと言えそうだ。好きなら、満足度は天井知らずだろう。プライドを持って乗れる愛車となるはずだ。

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マツダMX-30 Rotary-EV価格

MX-30 Rotary-EV

4,235,000円

Industrial Classic

4,785,000円

Modern Confidence

4,785,000 円

Natural Monotone

4,785,000円

特別仕様車Edition R

4,917,000円

マツダMX-30 Rotary-EV燃費、航続距離などスペック

代表グレード

MX-30 Rotary-EV FF

全長×全幅×全高

4,395mm×1,795mm×1,595mm

ホイールベース

2,655mm

トレッド(前/後)

1,565mm/1,565mm

最低地上高

130mm

車両重量

1780kg

エンジン型式

8C-PH

エンジンタイプ

1ローター

総排気量

830cc

エンジン最高出力

53kW(72ps)/4,500rpm

エンジン最大トルク

112N・m(11.4kgm)/4,500rpm

モーター型式

MV型

モーター最高出力

12kW(170ps)/9,000rpm

モーター最大トルク

260N・m(26.5kgm)/0-4,481rpm

電力用主電池

リチウムイオン電池

燃費(WLTCモード

15.4km/L

充電電力使用時走行距離

107km

駆動方式

前輪駆動(FF)

サスペンション

前:ストラット、後:トーションビーム

タイヤ 前後

215/55R18

最小回転半径

5.3m

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員