この記事の目次 CONTENTS
内燃エンジン車をベースとしたEVがBMW iX3。戦略的価格にも注目!
BMW iX3の概要
効率より走る楽しさを優先!? リヤドライブ化されたiX3
ix-3の走行性能
ix-3の乗り心地
市街地での電費はイマイチ!? 
高速道路での電費は、まさかのカタログ値超え!?-試乗時
電費向上のポイントは「コースティング」?
不満なのは充電環境。150kW出力の高速充電器に期待!
BMW iX3価格・スペック

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

電気自動車(EV)は補助金が適用されるが、航続距離や電費が不安で購入を迷っている人も多い。そこで今回はBMW-iX3を約500km走行し、EVは実生活で使えるのかを試してみた。BMW-iX3の航続距離と電費が気になっている方は参考にしてほしい。

内燃エンジン車をベースとしたEVがBMW iX3。戦略的価格にも注目!

EVのモデルは専門車と既存モデル踏襲がある

全世界的にEV(電気自動車)化が急加速している。過渡期の現在、EVは大きく分けて2通りに分けられる。

ひとつが、EV専用車だ。エンジン系統を積むことを想定せずに、EVに特化したモデルである。デザインや性能面にEVらしさが凝縮されている。
しかし、まだまだ販売台数が少ない。そのため、コストがやや割高になり、車両価格も高めになる傾向にある。

もうひとつが、既存のモデルをEV化したものだ。同じ車種で、エンジンを搭載したモデルとEVが混在する。
最初からEV化を想定して開発されているため、基本骨格など多くの部分をエンジン搭載モデルと共通化できる。コスト面のメリットがあり、価格も少し安価。
ただし、デザインや居住性、走行性能面などでは、EV専用車レベルには届きにくい傾向にある。
今のところ、どちらも一長一短だ。明確な優劣が付けにくい状態でもある。

BMW iX3の概要

iX3

今回試乗したBMW iX3は、BMWのSUVであるX3をベースにEV化したモデルだ。

iX3の外観

ベースがX3なので、外観デザインは、ほとんどX3といえる。

iX3のフロントフェイス
iX3のリヤエンド

EVにはグリルが必要ないが、デザイン的にキドニーグリルを外すことはできない。そのため、グリルは蓋のようになっている。内燃エンジン搭載車と区別するためにブルーのアクセントがプラスされている以外、ほぼX3と同じだ。

iX3のフロントシート
iX3のリヤシート
iX3の荷室

インテリアも、内燃エンジン搭載車であるX3とほとんど同じだ。

iX3のシフトレバー

違いはシフトレバーまわりにブルーのアクセントが加えられたくらいである。

iX3のメーター

メーターも基本的なデザインはX3だが、タコメーターの代わりにePOWERメーターや電費計が設置されるなど、EV専用の情報が加わった。

iX3のインパネ

iX3に乗り込むと、いつも通りのBMW車という安心感がある。その一方でEVらしさや未来感という部分に欠けているとも言える。内燃エンジン搭載車と共通化されている部分が多いため、EVであるという特別感を出すのが難しい。

だがiX3の場合、EVらしさを出すために中途半端に差別化するよりは、完成度の高いX3モデル踏襲の方がずっとマシとも考えられる。

iX3(EV) 862万円
X3 30e(PHEV) 870万円

その結果、iX3はEVながら、PHEVより安価な価格設定になっている。
しかも、新車なら国の補助金は65万円支給されるのだ。(2022年8月22日現在)

iX3のボンネット

iX3の使い勝手で唯一気になったのが、ボンネットの中だ。開けると、大きなカバーがドーンと鎮座している。エンジンがあったスペースだ。この部分を小物入れなどにし、活用出来るとより良かった。

効率より走る楽しさを優先!? リヤドライブ化されたiX3

BMWは、前後重量配分50:50にこだわるメーカーだ。
ところが、iX3は43:57となっている。もはや、MR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)やRR(リヤエンジン・リヤドライブ)などのスーパーカー並みだ。

こうした重量配分にはなるのは当然である。iX3はフロントのエンジンが無く、リヤにモーターを積むRRとなっているからだ。
2WDのEVに多い駆動方式はFF(前輪駆動)であり、iX3のようにリヤ駆動のクルマは珍しい。多くのエンジニアに言わせると、FFの方がより効率的にエネルギーを回生できるからだという。
確かにその通りなのだが、BMWはFRにこだわるメーカーだ。単純なエネルギー回生だけでなく、「EVでも後輪駆動の走る楽しさを提供したい」という想いが強いのだろう。BMW初のEV専用車だったコンパクトカーi3も後輪駆動だった。単なる効率より、走る楽しさを重視するのがBMWだ。

 

ix-3の走行性能

走り出すと、フロントの軽さに驚く。X3はSUVの中でもかなり回頭性の高いモデルだが、iX3は想像を超えたハンドリングだ。
ボンネット下にエンジンが無いぶん、フロントがとても軽い。ステアリング操作をすると、ノーズは驚くほどクルリとイン側を向く。
軽いと言っても、iX3の車重は2,200kgもある。X3 に2.0Lディーゼルエンジンを搭載した20dの車重が1,880kgなのに対し、iX3は320kgも重い。なのに、iX3のハンドリングは軽快なのだ。
これは、床下に積まれた駆動用リチウムイオンバッテリーにより、低重心化されていることも影響している。重いのに軽快感があるという、なんとも言えないハンドリングに魅了された。とにかく、走っていて楽しい。

ix-3の乗り心地

乗り心地も良好だ。最初、街中では少し硬さを感じたものの、慣れてくると意外と快適だ。大きな凹凸でも、ドンドンという尖った衝撃が、トントンと軽い衝撃に変換されている。タイヤの路面追従性もよく、カーブでは早めにアクセルを開けられる感じがする。

静粛性も高い。低速域で耳を澄ませばわずかにEV特有のキーンとした高周波な音が聞こえるが、中・高速域になるとほとんど聞こえなくなる。同乗者との会話明瞭度も高く、話が弾む。

市街地での電費はイマイチ!? 

iX3の給電口

気になるのが電費だ。今回は500km近く走行した。
まずは、低速域での電費だ。一般道の走行距離60kmの内、20kmは渋滞でノロノロ走行した。残りの40kmも50km/h以下のスピードで、平均速度は20.4km/hと低かった。

こうした状況下での電費は4.9km/kWhとなった。この電費値には、少々驚いた。以前、62kWhのバッテリー容量をもつ日産リーフe+で一般道の電費をチェックした際は7.5km/kWhを記録した。
だが、iX3の車重は2,200kgなのに対して、リーフe+は1,680kgと、車重差が520kgもあるので仕方ない。

iX3でECOプロモードを使っていれば、さらに電費はアップし、少なくとも5.0km/kWh台に入ったと考えられる。ちなみに、電費5.0km/kWhでもバッテリー容量は80kWhもあるので、実質の航続距離は400km前後だ。街中とはいえ、これだけ走れば十分といえる。

高速道路での電費は、まさかのカタログ値超え!?-試乗時

街中電費では、少々ガッカリ感があった。しかし高速道路では、想像を超えた電費を記録した。
高速道路は、中央高速を中心にECOプロモードで約300km走行し、平均速度は72.8km/hだった。この区間の平均電費は、なんと6.6km/kWhを叩き出したのだ。全開加速など色々と電費に悪い走りも含めたこの結果は、衝撃的だった。エコ運転に徹すれば7.0km/kWh台に届きそうだったからだ。

EVの多くは、高速道路では電費が悪化傾向になる。電力をたくさん使い空気抵抗も大きくなるからだ。
リーフでは、おおよそ100km/hを超えてくると電費は落ち始め、120km/hのクルージングになると、どんどん電費は悪化した。
ところが、iX3は高速域になっても電費の落ちが少ない。一般道では4.9km/kWhという少し物足りなさを感じた電費が、高速道路になるとドンドン向上したのだ。かなり衝撃的な結果となった。電費を6.6km/kWhとして航続距離を計算すると528kmになりカタログ値を楽々超えてしまった。

電費向上のポイントは「コースティング」?

iX3の電費には、高速移動が多いドイツのクルマらしさが出ていた。

高速道路での電費の良さをアシストしているのは、コースティングだ。コースティングとは、ガソリン車でいうと、アクセルオフ時にクラッチを切る、ニュートラルにするなどして惰性で走行することを指す。
iX3は、アクセルをオフにすると、ほぼコースティング状態になるのだ。

国産EVの多くは、高速道路でアクセルをオフにすると、軽い回生ブレーキがかかり速度が落ちる。ガソリン車からの乗り換え時に違和感が無いように作られたもので、いわゆるエンジンブレーキのような感覚だ。回生ブレーキによる減速なので、その間は充電されている。

iX3は回生ブレーキをかけずにコースティングする。アクセルを戻してもあまり減速せずに走り続けるのだ。とはいえ、路面や空気抵抗などがあるので、徐々に速度は落ちる。だが、回生ブレーキを使ったモデルとは明らかに速度の落ち具合が少ない。iX3は、このコースティングで高速での電費を稼いでいるのだ。

コースティングで電費を稼いでいることが分かると、運転の仕方も変わってくる。前方にクルマが見えたら、早めにアクセルオフするのが基本だ。コースティングさせながら、ゆっくりと近付くと電費アップに効果がある。

また、回生ブレーキの設定をアダプティブにしていると、車間がかなり近くならないと回生ブレーキが作動しない。街中では便利なのだが、かなり強めの回生ブレーキによる減速が行われる。これだと電費は非効率だ。上手くコースティングさせた方が、結果的に電費はよくなると感じた。

タイトなカーブが連続する山道や街中では、Bレンジがお勧めだ。いわゆる1ペダルドライブが可能になる。停止まで出来るので、アクセルとブレーキの踏みかえ回数が大幅に減り、疲労も少なく電費にもよい。

不満なのは充電環境。150kW出力の高速充電器に期待!

BMW iX3は、電費や航続距離、走行性能に関しては文句なしの高いレベルに仕上がった。

唯一不満を感じた点が、充電だ。
40kW出力の急速充電器を約26分使って充電できた電力は、わずか15.2kWhだった。この電力だと、電費6.6km/kWhの場合、わずか100kmしか走れない。
56kWの急速充電器では、約15分で10.9kWh入った。これだと、30分の充電で21.8kWhとなるはず。電費6.6km/kWhで計算すると、約144km走行できることになる。

iX3のような大容量バッテリーを搭載するEVに対して、急速充電器の出力が足りていないのだ。iX3は最大150kWの出力をもつ急速充電器に対応しているので、150kW出力の急速充電器が増えてくれば、より快適なEVライフが送れるはずだ。

BMW iX3価格・スペック

BMW iX3価格

BMW iX3 M Sport 8,620,000円

*国の補助金 650,000円(2022年8月1日現在)

BMW iX3電費、ボディサイズなどスペック

全長×全幅×全高 4,740mm×1,890mm×1,670mm
ホイールベース、最小回転半径 2,865mm、5.7m
車両重量、車両総重量 2,200kg、2,475kg
最低地上高 179mm
定員 5名
トランクルーム 510L
駆動方式 後輪駆動(RWD)
電動機型式 HA0001N0
蓄電池種類、容量(Ah) リチウムイオン電池、116Ah
総電圧(V)、総電力量(バッテリー容量) 345V、80kWh
最高出力 210kw[286ps]/6,000rpm(EEC)
最大トルク 400Nm[40.8kgm]/0-4,500rpm(EEC)
一充電走行距WLTCモード国土交通省審査値 508km
タイヤサイズ(フロント、リア) 245/45R20、275/40R20
DC高速充電ステーションでの充電時間 50 kW 10 %-80 % 83分