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一枚の名車絵 第10回 フェアレディZ(S30型)Z432


現在もなお日産のラインナップに輝かしく存在する、フェアレディZ。その初代はS30型と呼ばれ、1969年に登場しました。それまでのMGなどに似た英国車的なクラシカルな2シーターオープンカーだったフェアレディの名前を引き継ぎましたが、実際にはまったく違うコンセプトで開発されました。北米で売れていたフェアレディですが、さらなる販売台数増のためには、まったく新しいスポーツカーが必要だったのです。

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そしてデビューしたフェアレディ“Z”(北米ではフェアレディの名前はつかない)は、ジャガーEタイプなどのような欧州製スポーツカー、GTカーに比肩するデザインやスペックを持ちつつも価格は大幅に安価、というスポーツカーでした。そのコンセプトは見事にあたり、予想以上の大ヒットを記録することとなります。でもその一方で、北米における英国スポーツカーを駆逐してしまったことも事実ではありました。


◆その名は4valve3carb2cam

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フェアレディZには登場時、2つのパワーユニットが用意されました。まずひとつは日産を代表する直6ユニット、L型の2リットルエンジンL20です。燃料供給装置はSUツインキャブで、130ps(ハイオク仕様)を発生していました。そしてもう一方はスカイラインGT-Rに搭載されていた2リットルエンジンのS20型DOHC24バルブエンジンです。こちらはトリプルのウェーバー・キャブを備え、160ps(ハイオク仕様)を絞り出していました。

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Z432はL20搭載のZと外観上で大きな差はノーマルのスカイラインとスカイラインGT-Rほどにはありませんが、ひとめでわかる違いはフロントフェンダーの「Z432」というエンブレムと、後方左下から飛び出るエクゾーストパイプが縦2本になっていることで、すぐに判断することが出来ます。Z432の名称は、S20型エンジンの特徴である4バルブ、3キャブ、2カムを意味しています(カッコイイ!)。


◆418台にとどまったプリンスと貴婦人の邂逅


copyright_izuru_endo_2016_05_Z432_1280_655(クリックで拡大)フェアレディZは純粋なスポーツカーでしたが、標準搭載されたL20型エンジンはセドリックなどにも積まれる、ごくふつうの実用ユニットです。ゆるゆると回りシャープさにも欠きましたが、そのかわり低速からモリモリとトルクがわき上がり、とても乗りやすいエンジンでした。

いっぽうS20型はプリンス開発のレースで勝つために開発された扱いにくいカリカリのスポーツエンジンでした。フェアレディZのイメージリーダーとはなりましたが、レースで圧勝し続けたスカイラインGT-Rに積まれていた名エンジンという栄光を持ってしても販売台数はのびず、1973年までにわずか418台の製造にとどまりました。ただし、これは5速MTを搭載した上級版「Z-L」が105万円だったの対してZ432は182万円もしたためだったことも理由かと思います。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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