先行したホンダ インサイトに対して、後発のトヨタ プリウスが一気にまくって、大差……、という様相を呈したハイブリッド車対決。価格もホンダが驚きのロープライスで発表したかと思えば、トヨタも戦略的プライスで、真っ向勝負。
いうわけで、今や結果が出てしまった感じはするのだが、プリウスとインサイトの2台が世界においても最先端を行っているのは確か。この2台のハイブリッド車が日本にあるというのは世界遺産級だろう。それだけに、その内容をキッチリと踏まえて、対決させてみたい。

カタログ燃費は大きく違わないものの、実用燃費はかなり違うというし、そもそもシステム自体がまったく異なる。もちろん自動車であるからには、パッケージングや取り回しなどの実用性も含め気になるところだ。価格、燃費、造り。そしてデザインも含めて、トータルで判断して結局軍配はどちらに上がるのか評価してみよう!

この記事の目次 CONTENTS
トヨタ プリウスのファーストインプレッション
トヨタ プリウスの性能
トヨタ プリウスのエンジン&インテリア
ホンダ インサイトのファーストインプレッション
ホンダ インサイトの性能
ホンダ インサイトのエンジン&インテリア
モーターのみで走行可能なモードを備えるプリウス、条件下でしか作動しないインサイト

ライター紹介

自動車ライター&エディター

近藤 暁史 氏

某自動車雑誌の編集者から独立。その前はファッションエディター(笑)。とにかくなんでも小さいものが好きで、元鉄チャンで、今ではナローゲージを大人買い中。メインのクルマは19歳の時に買ったFIAT500。エンジンのOHからすべて自分でやり、今やもうやるところがない状態でかわいがっております。表向きは自動車ライターながら、業界唯一の省燃費グッズの評論家というのがもうひとつの顔。

トヨタ プリウスのファーストインプレッション

世界中のメーカーの追従を許さず独走態勢のプリウスもいよいよ3代目となる。一見すると、2代目とあまり変わっていないように思えるかもしれないが、全長で15mm長く(4460mm)、全幅も20mm拡大(1745mm)で、ひと回りほど大きくなった。迫力が増したフロントまわりや大胆なラインでハイデッキ感を高めたリヤまわりなどもあって、未来感は確実に高まっている。

驚くような大胆進化はないものの、着実にその内容に磨きをかけた

一方、内装は、センターコンソールの大胆な造形や、メーター類も操作系を含めて大きく変更されていて、ある意味走るのが楽しくなる。もちろんその走りも未来感に磨きをかけている。
肝心要のシステムは初代から熟成に熟成を重ねてきたTHS IIで、さらにその性能は高められている。エンジンは1.5リッターから1.8リッターにアップ。当然の如く、可変バルブタイミングやアトキンソンサイクル(異膨張率)などで燃費性能をアシストしている。

EVモード使用で航続距離が驚くほど伸長

もちろん、モーター自体の出力&効率も高められているのだが、モーターだけで走るEVモードで55km/hまでモーターのみで走ることができるようになったことは驚き。もちろん航続距離も伸長。55km/h以上になったり、バッテリー残量が少なくなるとエンジンがかかるのだが、その切り替わり時のショックはさらに改善され、低速時でもモーターとエンジンの継ぎ目というのはほんど意識しないほどに仕上がっている。

満足度の高いグレードはツーリングセレクション

ただし、足まわりに関しては、ホイールサイズも含めて予想以上にバリエーションが多く、購入時には注意が必要だ。できるなら、ツーリングセレクションを選んだほうが結局は満足度は高いだろう。Lグレードの38.0km/lというのは燃費スペシャル仕様。走りのフィーリングや装備も満足度は低い。

トヨタ プリウスの性能

トヨタ プリウスの性能について詳しく解説。

エコ&燃費:世界トップのエコ度と燃費

もはやわざわざ語るまでもないが、エコ度は当然、最高レベルを確保。
システムだけでなく、空力をコンマ単位で煮詰めるなどして達成した38.0km/Lというカタログ燃費も量産ガソリン車として世界トップだ。

安全性能:安全装備の標準化で唯一無二のクルマに

全席3点式シートベルトやサイド&カーテンエアバッグ、ヒルスタートシステムが標準で装備されるのは当たり前。ステアリングも協調制御して横滑りを防止するS-VSCなども全グレード標準となる。
これらの安全装備の標準化はプリウスの美点のひとつだ。

取材時実測燃費

22.8km/L

トヨタ プリウス価格帯

205.0〜327.0万円

トヨタ プリウス Sツーリングセレクションのスペック

トヨタ プリウス Sツーリングセレクションのスペックは以下の通り。

ボディサイズ(全長x全幅x全高) 4460×1745×1490mm
車両重量 1380kg
エンジンタイプ 直列4気筒DOHC
総排気量 1797cc
エンジン最高出力 99ps(73kw)/5200rpm
エンジン最大トルク 14.5kg-m(142N・m)/4000rpm
モーター最高出力 82ps(60kw)
モーター最大トルク 21.1kg-m(207N・m)
ミッション 電気式無段変速機
10・15モード燃費 35.5km/l
サスペンション(前/後) ストラット/トーションビーム
ブレーキ(前/後) ベンチレーテッドディスク/ディスク
税込価格 245.0万円

トヨタ プリウスのエンジン&インテリア

トヨタ プリウスのエンジン&インテリアについて詳しく解説。

排気量の改善で高速燃費が大幅に改善

ハイブリッドのシステム自体は従来と共通のもの。ただし排気量は1.8リッターへと拡大され、高速燃費を大幅に改善した。

ツーリングセレクション(写真)は17インチ、その他は15インチのタイヤを装着する。17インチ仕様はしっかりしたハンドリングだ。

未来感たっぷりのインテリア

大胆な造形のインテリアは未来感たっぷり。カラーはミディアムグレーに加えて水色系のアクア(写真)が設定されるのにも注目だ。

メーターは従来同様、センターメーターを採用。ナビ画面と共用だったエネルギーモニターは、こちらに表示されるようになった。

大胆な造形のセンターコンソールが印象的だが、小物の収納なども豊富で使い勝手はいい。視界も広く、運転はとてもしやすい。

リヤシートは頭上の空間も拡大され、大柄な男性でも不満のないスペースが確保されている。足元の余裕もかなりのもので快適性は高い。

プリウスは電気式の無段変速機を採用する。シフトレバーはスイッチのような小さなもので、パーキングはボタン式となっている。

プリウスは通常モードに加えてパワー/エコ/EVと合計4種類の走行モードを持つ。パワーモードでは想像以上に元気な走りが味わえる。

ラゲッジは開口部も広く、容量も十分確保されている。ラゲッジアンダーボックスも大きめのものを装備し、使い勝手はいい。

リヤシートの収納はとても簡単だ。フロアもフラットで使いやすく、大きな荷物でも余裕で積み込むことができる。

ホンダ インサイトのファーストインプレッション

ホンダの先代インサイトといえば、ハイブリッドのハシリの時期に登場したこともあり、省燃費プロトタイプといった趣だった。その後、ホンダはシビックにハイブリッドを採用して熟成を重ね、2代目インサイトへとつなげてきた。登場よりかなり以前からそのスタイルがネットなどで見られたが、同じ5ドアハッチバックスタイルということもあり、プリウスにデザインが似ているというのは正直なところだろう。ハイブリッドとなると、自然にこうなる……、というのがホンダの言い分ではあるが。

メーター類やインジケータなどで、楽しくエコドライブをアシスト

そのハイブリッドシステムもトヨタとは大きく異なる。IMAという方式を以前から採っているが、インサイトももちろん採用する。簡単に言ってしまえば、プリウスがモーターとエンジンを並列で配置&使用するのに対して、こちらはエンジンとミッションの間にモーターを挟み込んだ形で、モーターを大出力化できないため、あくまでもアシストに徹する。
電動ターボのようというか、電動アシスト付き自転車のようだ。その分、コストも安く、189万円からというプライスは我々を大いに驚かせたし、エンジンへの負荷を効率的に低減できる高速走行であれば、かなり燃費はよくなる傾向にある。

ECONモードで自然とエコ運転が可能に

またエアコンなども一体制御するECONモードを備えていて、それをオンにすれば、違和感なく、自然にエコ運転が可能になる。その乗り味は、重量がかさむので仕方がないことであるのだが、かなり硬め。
しかも5ナンバーということもあり、車内はタイト目だ。基本的に1.3リッターのi-VTECエンジンは元気に回るので、スポーティなコンパクトカーといってもいい走りを楽しむことができる。この点はプリウスにはない楽しさだ。

ホンダ インサイトの性能

ホンダ インサイトの性能について詳しく解説。

エコ&燃費:カタログ値で勝負するには弱い

ハイブリッドと言っても、プリウスとはまったく異なり、シンプルなもの。トヨタいうところのマイルドハイブリッドなのだが、確かに燃費アップという点で見ると、弱い。30.0km/Lというのはあくまでもカタログ値だ。

安全性能:リーズナブルで魅力的だが安全装備はオプション

サイド&カーテンエアバッグを全車にオプションながら用意。横滑りを防止するVSAは最上級グレードのLSに標準で、ほかにはオプション設定だ。後席の中央にも3点式シートベルトとヘッドレストが装備されている。このように安全装備をオプション化してリーズナブルに見せるという手法は、ユーザーにとってメリットはない。

取材時実測燃費

14.9km/L

ホンダ インサイト価格帯

189.0〜221.0万円

ホンダ インサイト LSのスペック情報

ホンダ インサイト LSのスペック情報は以下の通り。

ボディサイズ(全長x全幅x全高) 4390×1695×1425mm
車両重量 1200kg
エンジンタイプ 直列4気筒SOHC
総排気量 1339cc
エンジン最高出力 88ps(65kw)/5800rpm
エンジン最大トルク 12.3kg-m(121N・m)/4500rpm
モーター最高出力 14ps(10kw)/1500rpm
モーター最大トルク 8.0kg-m(78N・m)/1000rpm
ミッション CVT
10・15モード燃費 28.0km/l
サスペンション(前/後) ストラット/車軸式
ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム
税込価格 221.0万円

ホンダ インサイトのエンジン&インテリア

ホンダ インサイトのエンジン&インテリアについて詳しく解説。

プリウスとは異なるシンプルなハイブリッドシステム

インサイトのハイブリッドシステムは、プリウスよりもシンプルなもの。モーターはあくまでもエンジンをアシストするのみだ。

最上級グレードのLS(写真)のみ16インチ仕様となり燃費は28.0km/Lだ。その他のグレードは15インチで30.0km/Lをマーク。

使い勝手はいいが、やや物足りない印象のインテリア

プリウスと比べると普通な印象のインテリアだ。視界も良くスイッチ類の使い勝手もいいが、質感に関してはやや物足りない印象だ。

メーターのデザインは2段式の特徴的なものを採用した。文字盤の色やインジケーターなどでエコドライブをアシストしてくれる。

運転席まわりのスペースには大きな不満はない。シートはいかにもホンダらしいスポーティなもので、サイドの張り出しも大きめだ。

足元のスペースはいいのだが、頭上の余裕はほとんどない。また乗り降りするときに頭をぶつけないように気を遣うのも気になる部分だ。

ミッションはCVTを採用する。モーターのアシストのおかげもあり良好な燃費を実現している。走行感覚は普通のクルマと変わりはない。

オデッセイでも採用されるECONモードを備えている。このボタンを押すだけでエンジンなどの制御を変更しエコドライブをサポート。

プリウスと同じくハッチバックボディで、容量は十分ある。開口部の広さはやや劣るが、実用上大きな不満を感じるほどではない。

ラゲッジアンダーボックスを装備し、使い勝手はいい。ただシートを収納した時に、わずかに段差ができてしまうのが残念なところ。

モーターのみで走行可能なモードを備えるプリウス、条件下でしか作動しないインサイト

トヨタ プリウスは大きなモーターとバッテリーを搭載し、モーターのみで走行可能なEVモードを備えている。通常走行時はエンジンとモーターを制御し、エンジン/モーター/エンジン+モーターを最適な組み合わせで使用して優れた燃費を実現してくれる。また足まわりのセッティングは標準車とツーリングセレクションでは大きく異なり、ハンドリングの良さを重視するならツーリングセレクションがおすすめだ。

それに対してホンダ インサイトは、ごく限られた条件下以外、モーターだけで走行することはできない。ただ、エンジンに負荷がかかる発進時や加速時などはモーターがアシストしてくれるので、1.3リッターとは思えない加速感と良好な燃費を両立させている。乗り心地は硬めなので、人によっては不満を感じるかもしれない。

(PHOTO/ 森山良雄 モデル/ 佐藤まいみ