2009年4月『新グリーン税制』施行へ! ホンダ アコード2.2i-DTEC(6速AT) エクステリア フロント 画像

ディーゼルを取り巻く環境

 燃料電池車やハイブリッド車、電気自動車などの環境性能車が注目を集める中で、クリーンディーゼルもまた注目されている。2009年4月から始まる予定の次世代自動車に対する税制上の優遇措置においても、クリーンディーゼル車は対象とされ、税制上の優遇が受けられる。
 日本では、一昨年のメルセデス・ベンツEクラスに続いて、昨年秋には日産からエクストレイルのディーゼル、三菱からパジェロのディーゼルが発売され、改めて日本でもディーゼルエンジンを搭載した乗用車が販売されるようになったが、それまでは日本では乗用車用のディーゼルは死に絶えた状態にあった。
 これに対してヨーロッパでは、以前から環境性能の高いクルマとしてディーゼル車が認識されており、南ヨーロッパでは販売される乗用車の60%以上がディーゼルで、ドイツでも半分がディーゼル車というような状況にあった。ガソリンエンジンに比べると熱効率が高いディーゼルはC02の発生量が少ない分だけ環境に優しいというのがヨーロッパでの考え方だった。
 日本では、トラックの排気ガスの中に含まれていた煤を詰めたペットボトルを、石原都知事が記者会見で振って見せたこともあり、ディーゼルは環境汚染の元凶と見られてきたのがこれまでの状況だった。それが少しずつ変わる兆しが見えてきたところである。
 かつてはネガティブなイメージばかりが強く、うるさい、汚い、臭いと言われたディーゼルエンジンも、今では静かで滑らか、クリーンで燃費も良いというように、ポジティブなものに変わってきている。

2009年4月『新グリーン税制』施行へ! ホンダ アコード2.2i-DTEC(6速AT) エンジン 画像

コモンレールの技術が鍵

 ヨーロッパでは、環境性能の高さのほか、燃費の良さからくる経済性の高さ、さらにはスポーティさなどまでが、ディーゼル車を選ぶ理由とされている。それが日本にも伝わりつつあるが、これを支える基礎技術となったのがコモンレールとインタークーラー付きターボだ。
 ターボはガソリン車にも使われているのでここで改めて説明するまでもないと思う。コモンレールは、蓄圧機とでも訳したら良いだろうか。最新のクリーンディーゼルでは各気筒に一千数百気圧といった高い圧力で燃料を噴射するが、そのための圧力を蓄える装置がコモンレールだ。各気筒に配分する圧力をひとつにまとめているのでコモン(共通の)といった言葉が使われている。
 高い圧力で噴射することで、燃料の粒子を細かくすることができ、それが燃料の効率的な燃焼につながる。また電子制御の燃料噴射によってエンジンの1回転当たり1回の燃料噴射ではなく、数回に分けて噴射するのもポイント。これがより良く燃料を燃やすこと(排気ガスがクリーンになる)つながるほか、分けることによって1回ごとの爆発圧力が小さくなり、振動や騒音も小さくなる。
 このようにコモンレールを中心にした技術によって、ディーゼルエンジンのクリーン化や性能アップが図られた。ほかにも圧縮比の低減や極低温時の最適噴射、高効率なクールドEGR、ターボの最適化、多噴孔ノズルを持つ高精度インジェクターなど、いろいな技術を集大成した結果が最新のクリーンディーゼルなのだが、コモンレールが中心に位置するのは間違いない。
 コモンレールの技術は実は日本のデンソーが先に実用化したものだが、日本ではトラック・バス用にしか使われない状態が続いたのに対し、ヨーロッパでは前述のように乗用車用ディーゼルの比率が高かったため、ボッシュのほうがたくさんのコモンレールをさまざまなエンジンに供給する形になっていた。
 世界各国の排気ガス規制が強化される中で、コモンレールディーゼルターボもさらなる進化が求められているのが最近の状況だ。
 インジェクターにより高い精度を実現できるピエゾ素子を使うようになってきたのが最近の状況だし、2000気圧に対応する高圧ポンプも使われるようになってきた。さらにトラックを始めとする大排気量車では、尿素水を使ってN0xを低減する仕組みなどが考えられている。

2009年4月『新グリーン税制』施行へ!ボッシュ コモンレールシステム

それぞれに魅力的なディーゼル

 今回ボッシュに取材する中で、ボッシュのコモンレールシステムを採用したディーゼル車に試乗することができた。その印象をざっと紹介しよう。
●メルセデス・ベンツB200CDI(CVT)
 直列4気筒2.0Lで16バルブDOHCのディーゼルエンジンにインタークーラー付きターボを装着し、ボッシュの第二世代コモンレールシステムとの組み合わせで103kW/300N・mのパワー&トルクを発生する。パワーはガソリンの自然吸気エンジン並みだが、トルクは300N・mという強大なものを持つ。
 このトルクを1600回転から3000回転までの幅広い回転域で発生するので、発進からスムーズで力強い走りを実現する。スムーズさにはCVTも貢献しており、ガソリン車とは違った走りのフィールを実現する。
 ガソリンの2.0Lエンジンは2034ccあって、わずかな違いで自動車税が高くなるが、ディーゼルは1992ccなので余分な税負担が発生しないのも良い。日本でも売れる可能性を持つと思う。
●BMW535d Mスポーツ(6速AT)
 直列6気筒3.0Lの24バルブDOHCエンジンにインタークーラー付きツインターボを装着したモデル。これもボッシュの第二世代コモンレールシステムを採用する。200kW/560N・mのパワー&トルクだから、3.5Lエンジン並みのパワーとV型8気筒5.6Lエンジン並みのトルクを持つエンジンだ。
 この6気筒エンジンのスムーズさはいかにもBMWといった印象。ディーゼルなので回転上限は抑えられているものの、そこまでの吹き上がりのスムーズさがBMWらしい。ヨーロッパでディーゼルエンジンがスポーティとされるのは、回転上限まで吹き上がる時間が短い分だけ素早い加速が得られるからだ。80〜100kmh加速など、区間加速のタイムを図ってもコモンレールディーゼルターボはヘタなガソリンよりも速いのでスポーティとされるのだ。
 アクセルペダルから足をを離したときのエンジンブレーキの効き具合も上々で、なかなか気持ち良いエンジンだった。
●アウディA4カブリオレSライン3.0TDIクワトロ(6速AT)
 V型6気筒3.0Lの24バルブDOHCのディーゼルエンジンにボッシュの第三世代コモンレールシステムとインタークーラー付きターボを装着したモデル。174kW/450N・mのパワー&トルクは同じ排気量のBMW535dに比べるとやや見劣りするが、それでもガソリンの3.0エンジン並みのパワーとV8エンジン並みのトルクを発生するエンジンだ。第三世代のコモンレールとなるため、ピエゾ式のインジェクターを採用している。
 6気筒エンジンとしては車外騒音がやや大きめな印象もあったが、室内ではエンジン音もほとんど気にならないレベル。トルク感いっぱいなので、アクセルを踏み込む必要がなく、走りの気持ち良さは高いレベルにある。
●アコード2.2i-DTEC(6速AT)
 ヨーロッパでは、フルモデルチェンジを受けたばかりの現行アコードにも最新のディーゼルエンジンが搭載されている。直列4気筒2.2Lの16バルブDOHCで、ボッシュの第三世代コモンレールシステムとインタークーラー付きターボを装着する。
 動力性能は110kW/350N・mで、トルクに関しては3.5Lのガソリンエンジン並みの実力を発揮する。何よりもホンダのクルマらしいのは、タコメーターの針が元気良く動くこと。回転上限を見なければ、ガソリン車ではないかと思うくらいの針の動きだ。
 ヨーロッパ基準では、郊外で21.7km/L、市街地でも13.7km/Lの燃費というから相当なもの。65Lの燃料タンクを持つので郊外と市街地を合わせれば満タンでざっと1100kmくらいの航続距離を持つことになる。これもディーゼル車の魅力の要素である。

2009年4月『新グリーン税制』施行へ! メルセデス・ベンツB200CDI(CVT)  エクステリア フロント 画像

日本のディーゼルの今後は

 試乗した4台のディーゼル車は、いずれも日本でも十分な商品性を持つと思う。ただ、外国の自動車メーカー各社も検討しているとはいえ、ベンツに続いてディーゼル車の発売に踏み切るにはまだ時間がかかりそうだ。また、一時は導入の意向を示していたトヨタやホンダもここにきてややトーンダウンした感じだ。
 日欧どちらのメーカーにとっても、クリーンディーゼルを導入することで環境イメージの向上は図れるものの、商売的には多くの販売台数を見込めないというのが本音としてありそうだ。
 実際、ディーゼル車を導入したからといってその分だけ需要が拡大するわけではなく、現在売れているクルマの一部がディーゼルに置き換わるだけの話だから、メーカーとしても商売的には積極的になりにくいのは分かる。経営的な効率を考えたらこれまで通りガソリンだけで商売したほうが有利だ。また一時はガソリンとの価格差が拡大していた軽油も、最近ではわずかな価格差にとどまっている。これがディーゼル車の経済的な優位性を薄れさせており、このこともメーカーの判断に影響しているようだ。
 ただ、ヨーロッパのようにディーゼルばかりが売れるような状況はともかく、ガソリンもディーゼルもバランス良く売れるような状況が望ましいと思う。日本には有力な環境技術としてハイブリッドがあり、トヨタやホンダはこれに熱心だが、ディーゼルにももう少し力を入れても良いのではないか。
 すでに販売されたディーゼル車は、エクストレイルにしてもパジェロにしても、SUVだから許されるレベルの振動や騒音だ。メルセデス・ベンツE320CDIは6気筒エンジンを搭載する高級車ということもあって、静粛性のレベルはとても高いが、日本でクリーンディーゼルの乗用車を本気で売ろうと思ったら、メルセデス・ベンツ並みの静粛性も必要だろう。

達人プロフィール: 松下 宏
職業:自動車評論家
中古車の業界誌から自動車誌の編集者を経て、自動車評論家に。誰でも買える価格帯であり、小さくて軽く、そして燃費がよいということを信念として評論。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員としても、その信念は変わらない。そのため、大本命といわれている車種さえ外して...

 

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