正しい検査手順と検査方法
検査手順の重要性
自動車の検査を行なう上で、技術やノウハウの習得は最も大切なことです。次に大切なことは、その技術を活かすことです。これは簡単なことのようですが、いざ実車を目の前にした時に、持っているノウハウを活かしながら検査を行なうことは大変難しいことなのです。このノウハウを活かすためには、常に見るべきポイントに目を向け、決まった順番で各ポイントを見ていく「検査手順」が重要となります。検査には「正確さ」と「早さ」が必要です。自分流の検査手順を作る際には、確認しやすい姿勢や位置を見つけながら、無駄な動きを省くことを意識します。また、車種ごとの特性や確認ポイントを覚えることにより、短時間で正確な検査を行なうことができるようになります。できる限り同じ位置から、少ない姿勢の変化によってより多くのポイントを押さえることができれば、疲労感も少なくなるはずです。
離れた場所から車輌のイメージを掴む
検査は検査車輌を前にした時から始まっていると考えて下さい。自動車を2~3m離れた場所から全体を見ることにより、その自動車の持つイメージを掴むようにします。特に問題のない自動車もありますが、大きな事故を起こした自動車には何らかのヒントがでていることが多いのです。この第一印象や発見した怪しい部分は、その直後に行なう検査においてポイントを絞るという意味でも、時間を短縮させる意味でも、大変役に立つものです。
< 離れた位置からチェックするもの >
車体全体
- 各パネル類の色調の違い
- 各パネル間のチリの狂い
- 車体の姿勢
各部品
- ナンバープレートの曲がり
- ホイールの削れ、傷
- 灯火類の汚れ具合
これらのことをチェックすることにより、大きな事故を起こしている車輌が発見できることがあります。
フェンダーの色だけが他のパネルと比べ、違うことから、交換もしくは、板金塗装を行っていることが確認できる。
クォーターパネルとリアドアのちりが大きく狂っていることから、クォーターもしくはドアの建て付け不良や、センターピラーの狂いが考えられます。このように、各パネル間のチリの違いは大きな事故歴の発見に貢献します。また、ナンバープレートの曲がりや修正跡は車体前後に大なり小なりの衝撃を受けていると推測できます。アルミホイールは、リムの部分の削れは多いのですが、ディスク部の削れは足周りから大きな衝撃を受けていることが多く、ロアアームの曲がりや懸架装置取り付け部のダメージに注意しなければなりません。灯火類の内側は、排気ガスや熱によって汚れてきます。この汚れ具合の違いにより交換したか否かの判断ができます。
細かなチェックを行う
検査車輌を前にし、運転席のドアを開け、ボンネットやトランクのオープナーを引きますが、この間に片側の横事故の可能性が有るか、無いかはほぼ確認できます。前項までの、ひとつひとつのチェック項目やポイントを確認しようとすると、かなりのプレッシャーになりますが、それらを一連の動作の中に入れてしまえば、あまり重荷になるものではありません。当然、慣れるまでは意識的にチェックポイントに目を向けたり、マニュアルを読み直すことも必要になりますが、検査台数をこなすに従い、自然にポイントに目を向けられるようになります。次項より、具体的な検査手順の基本を解説いたしますので、これらに「プラスα」することによって検査手順を自分流にアレンジします。
検査手順実例
1.検査車輌から2~3m離れた場所から前述の「離れた位置からチェックするもの」に従い車輌全体のイメージを掴む。
2.運転席付近
①ドア交換・修正
② フロント・センターピラー交換・修正
③ フェンダー交換
④ ステップ交換・修正・修正機跡
⑤ 下回りのダメージ
⑥ ボンネット・ルーフ・ウインドウのダメージ
3.車体右前付近
① フェンダーのダメージ
② 前後ドアのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ 灯火類のダメージ
⑤ タイヤ山・ホイールのダメージ
4.エンジンルーム内
① ボンネットのダメージ
② フェンダー交換
③ トゥボードのダメージ
(車台ナンバー・色番号も確認する)
④ インナー交換・修正等
⑤ サイドメンバー交換・修正等
⑥ コアサポート交換・修正等
⑦ 第一メンバー交換・修正・突き上げ等
5.車体正面
① ボンネットのダメージ
② ルーフのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ グリルのダメージ
⑤ 下回りのダメージ
6.車体左前付近
① フェンダーのダメージ
② 前後ドアのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ 灯火類のダメージ
⑤ タイヤ山・ホイールのダメージ
7.助手席ドア付近
① ドア交換・修正
② フロント・センターピラー交換・修正
③ フェンダー交換
④ ステップ交換・修正・修正機跡
⑤ 下回りのダメージ
⑥ ボンネット・ルーフ・ウインドウのダメージ
8.左後ドア付近
① ドア交換・修正
② クォーター交換・修正
③ センター・ロックピラー交換・修正
④ ステップ交換・修正・修正機跡
⑤ ホイールハウス修正
⑥ 下回りのダメージ
⑦ トランク・ルーフ・ウインドウのダメージ
9.左後付近
① クォーターのダメージ
② 前後ドアのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ 灯火類のダメージ
⑤ タイヤ山・ホイールのダメージ
10.トランクルーム内
① トランク交換
② トランクフロア交換・修正
③ クォーター交換
④ バックパネル交換
⑤ サイドメンバー交換・修正
11.車体後正面
① トランクのダメージ
② ルーフのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ ガーニッシュのダメージ
⑤ 下回りのダメージ(ガソリンタンク・マフラー等含む)
12.右後付近
① クォーターのダメージ
② 前後ドアのダメージ
③ バンパーのダメージ
④ 灯火類のダメージ
⑤ タイヤ山・ホイールのダメージ
13.右横ドア付近
① ドア交換・修正
② クォーター交換・修正
③ センター・ロックピラー交換・修正
④ ステップ交換・修正
⑤ ホイールハウス修正
⑥ 下回りのダメージ
⑦ トランク・ルーフ・ウインドウのダメージ
以上が基本的手順です。
無理に1周で確認を終えようとせずに、最初の1周で「修復歴と交換」、2周目で「各パネルのダメージ」を確認する等、自分の行ないやすい手順にアレンジし、見落としの少ない手順を完成させて下さい。
尚、検査車輌の周りを何周もすることは、自身の判断に大きな混乱を招くことにもなります。3周以上車輌の周りを回ることは、時間がかかるばかりか、正確な判断をすることが出来なくなる可能性があります。また、検査には集中力が必要です。一台の車輌の検査はよほど急用がない限り途中で止めることは避け、10台以上も検査を行わなければならない場合には、途中で休憩を入れ、次の車輌のための集中力を貯えます。
下周りの確認等で、車体下に潜ることに抵抗があり、「洋服が汚れる」「面倒くさい」等の理由によって、手を抜いた検査をすると重大な失敗を招きます。「思わぬところ」に衝撃の影響が出るのが、近年の主流であるモノコックボディの特徴です。常に、疑いを持った検査と検査技術の向上を努め、日々の業務に臨むことが重要です。
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