輸入車のなかでも高い人気を誇るメルセデス・ベンツGLC。2023年には、2代目にあたる254型が日本で発売された。そして2025年3月、新たなエントリーグレードとして「Core(コア)」が追加設定された。
「Core」は、価格を抑えたエントリーモデルで、これまでのベースモデルから標準装備の内容を見直すことで、手の届きやすい価格帯を実現している。
今回は、その新グレード「GLC220d 4MATIC Core」に試乗。走行性能や従来グレードとの違いについて詳しく解説する。購入時の参考にしてほしい。
中古車情報
- とにかく売れている!GLCがメルセデス・ベンツの主役に
- リーズナブルなCore投入で、更なる販売台数増を狙う!
- GLCの魅力は「AIRMATICサスペンション」と「リアアクスルステアリング」だったのに・・・
- タッチパネルは悪くないが…利き手が右手だと少々不便に感じる理由とは?
- 走り出してすぐに感じる、マイルドハイブリッドの“上質な仕事”
- 通常サスペンションも上出来。ただし限界は見える
- 約184万円差なら…やっぱりCoreも「アリ」!
- 中古車なら、新車Coreの予算で「全部入り」が狙える!
- メルセデス・ベンツGLC 価格とスペック
とにかく売れている!GLCがメルセデス・ベンツの主役に
中高年世代にとって、メルセデス・ベンツと言えばSクラスやEクラス、Cクラスといったセダンを思い浮かべる人が多いはず。実際、Gクラスなど一部の例外を除けば、かつてのメルセデス・ベンツはトラディショナルなセダンが主力モデルだった。
しかし近年、メルセデス・ベンツは大きく変わった。保守的なメーカーというイメージが強かったものの、意外にも時代の変化に対する対応は早く、トレンドを的確に見極めては、次々と最適なモデルを市場に投入している。
今回試乗したGLC(254型)も、まさにその象徴的な一台だ。初代GLC(253型)は、2016年に日本導入されたCクラスベースのSUV。外観や走りに、Cクラスとの共通点が多く見られた。スポーティな走行性能を特徴とし、初期モデルはやや硬めの乗り味だった。
2016年ごろから、メルセデス・ベンツはSUVラインアップの拡充を加速。GLSやGLE、GLAといったGLシリーズを明確に分類し、さらにGLBや電動モデルであるEQE SUVやEQS SUVも投入。SUVメーカーとしての地位を確立していく。
GLC(253型)が登場した当時は、まだ輸入車市場においてSUVブームは到来しておらず、セダンが主役の座にあった。しかし、JAIA(日本自動車輸入組合)の販売台数ランキングを見ると、2017年度には早くも14位に入り、翌2018年度には10位へとランクイン。着実に存在感を高めていった。
そして、大きな転機となったのが、2023年に登場した2代目GLC(254型)だ。輸入車市場もSUVブームが本格化する中、GLCは2023年度の販売台数で8位に急上昇。さらに2024年度には3位にランクインする快挙を達成した。
ランキング上位には、2位にVWゴルフ、4位にVW Tクロスといったコンパクトカーが並ぶ中、800万円超のGLCがベスト5に食い込んでいるのは異例だ。しかも、同ブランドのGLAやGLBといったコンパクトSUVを抑え、今やメルセデス・ベンツでもっとも売れているモデルとなっている。
リーズナブルなCore投入で、更なる販売台数増を狙う!
こうした強力な追い風を受け、メルセデス・ベンツはさらなる成長に向けた戦略的な一手を打った。装備内容を見直し、価格を57万円抑えた新グレード「GLC 220 d 4MATIC Core」(新車価格:819万円)を追加投入したのだ。戦略的な価格設定により、さらなる販売台数の拡大を狙ったモデルと言える。
国産車では、こうした廉価グレードはモデル末期に投入されることが多く、装備の簡略化が目立ち、「安かろう悪かろう」と感じることも少なくない。
しかし、このGLC 220 d 4MATIC Coreは一味違う。ベースとなるGLC 220 d 4MATICと比較しても、装備差はごくわずか。主な違いは内装のマテリアル程度で、機能面ではほとんど同じ内容となっている。これで57万円も安価になるのであれば、むしろ“買い”と言える。メルセデス・ベンツの思い切った戦略が光る。
では、なぜ装備をほとんど変えずに、ここまで価格を抑えられたのか。その理由のひとつが、オプション構成のシンプル化だ。ボディカラーはブラック、ホワイト、シルバーの3色のみ。オプションも「AMGラインパッケージ」や「パノラミックスライディングルーフ」など、ごく一部に限定されている。
こうした絞り込みにより、在庫の管理効率が向上し、無駄なコストを削減できる。また、受注生産を減らすことで納期短縮も実現。納期の長期化は販売機会の損失に直結するため、これを防ぐことも販売強化において重要な要素だ。直接的な利益だけでなく、販売プロセス全体でのコスト最適化という狙いもあるのだろう。
GLCの魅力は「AIRMATICサスペンション」と「リアアクスルステアリング」だったのに・・・
今回試乗したGLC 220d 4MATIC Core。実は筆者、2023年にベースモデルであるGLC 220d 4MATICにも試乗済みだ。ただし、その時の試乗車は、装着可能なオプションをすべて搭載した“全部乗せ”仕様。とくに印象的だったのが、エアサスペンションの「AIRMATICサスペンション」と、後輪操舵システムである「リアアクスルステアリング」だ。
この2つの装備は、GLCの走行性能を語る上で“必須”とさえ感じるほど高く評価できるポイントだった。
「AIRMATICサスペンション」は、走行状況に応じて車高を自動で調整するエアサスシステム。高速走行時には車高が約15mm下がり、安定感がグッと向上する。標準モードでは非常に快適な乗り心地を提供し、「スポーツ」モードに切り替えると引き締まった走りに一変。ロールを無理に抑えるような不自然さはなく、荷重移動も分かりやすいため運転しやすい。ステアリングからのインフォメーションも明確で、車重があり重心も高めのGLCでも、山道をハイペースで駆け抜けることができた。
一方、「リアアクスルステアリング」は、後輪操舵により低速では小回り性を、高速では直進安定性を高めるシステム。いたずらにクイックな動きを演出するのではなく、あくまで黒子的に効き、自然な操作感をサポートしてくれる。
GLC 220d 4MATICの最小回転半径は5.5m。これは全長4,720mm、全幅1,890mmというボディサイズを考えれば、十分に扱いやすい数値だ。しかし、「リアアクスルステアリング」装着車では、なんと5.1mにまで縮小。ちなみに、1クラス下のトヨタ カローラクロス(全長4,455mm)の最小回転半径が5.2mなので、その小回り性能がいかに優れているかが分かるだろう。狭い路地が多い日本において、この5.1mという数値は大きな武器となる。
だからこそ、今回のGLC 220d 4MATIC Coreに「AIRMATICサスペンション」と「リアアクスルステアリング」が装備されていないことには、少々物足りなさを感じてしまった。装備を絞って価格を抑えたという意図は理解できるものの、GLCの走行性能の“核”とも言えるこの2つの装備が選べないというのは、惜しいと言わざるを得ない。
タッチパネルは悪くないが…利き手が右手だと少々不便に感じる理由とは?
運転席に乗り込むためにドアを開けると、まず目に飛び込んでくるのが、最新の第3世代MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)だ。
12.3インチのコックピットディスプレイと、11.9インチの縦型メディアディスプレイが組み合わされた先進的なインパネは、まるで近未来のコクピットのような印象を受ける。
11.9インチの縦型メディアディスプレイには、AI機能が搭載されており、ユーザーの使用状況や習慣に応じて、関連性の高い情報や操作メニューを自動で表示。深い階層のメニューまでたどる必要が減り、操作性が向上しているのが特長だ。
ただし、個人的にいつも少し気になる点がある。それは、タッチ操作がすべて左手で行う必要があること。右利きの人にとって、左手でディスプレイを操作するのは直感的ではなく、思った以上に神経を使う。特に走行中に画面をタッチする際、つい指先を注視してしまい、安全面でやや不安が残るのも事実だ。
直感的に操作したいエアコンやオーディオ、ドライブモードなど、日常的に使う機能については、物理的なスイッチやダイヤルを残しておいてくれた方が、安心感があると感じた。
走り出してすぐに感じる、マイルドハイブリッドの“上質な仕事”
運転席に座り、走り出す。搭載されているのは、2.0L直列4気筒ディーゼルターボエンジンに、48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインだ。スターターと発電機の機能を一体化したISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を採用している。
このエンジン、非常に実用的かつ扱いやすいのが印象的だ。本来、ディーゼルターボエンジンは過給遅れ(いわゆるターボラグ)が気になる場面もあるが、そこをマイルドハイブリッドのモーターが絶妙にサポート。モーターは瞬時に最大トルクを発生できる特性があるため、アクセル操作に対する反応が非常にリニアだ。踏み込んだ瞬間にスッと加速し、ドライバーの意図にピタリと応えてくれる。
エンジンの回転フィールについては、BMWのようにガソリン車ライクなスムーズさとまではいかないものの、回転上昇に伴ってしっかりと力強く加速していく印象。トルクの出方も自然で、日常域から高速クルージングまでストレスのない走りを実現している。
静粛性にも注目したい。車外ではディーゼル特有の「ガラガラ音」がやや聞こえるものの、車内にいる限りその音はほとんど気にならない。遮音・吸音処理がしっかり施されており、高速走行時でもキャビン内は極めて静か。耳を澄ませば、かすかにエンジン音が聞き取れる程度で、同乗者との会話や音楽鑑賞も快適に楽しめる。
通常サスペンションも上出来。ただし限界は見える
ワインディングロードに差し掛かると、GLC 220d 4MATIC Coreの素性の良さが見えてくる。装備こそ「AIRMATICサスペンション」や「リアアクスルステアリング」といった先進機能は搭載されていないものの、ドライバーの操作に対してクルマは忠実かつ正確に応えてくれる。
とはいえ、やはりその差は明確だ。「AIRMATICサスペンション」装着車では、速度域を問わず常に路面に吸い付くような“オン・ザ・レール感覚”を味わえ、乗り心地もしなやかで快適だった。対して通常サスペンションのCoreでは、速度が上がるにつれて車重の影響が出やすくなり、車体の揺れがやや収まりにくくなる場面も。安定感が少し薄れ、特に中高速コーナーでは動きの重さを感じることがある。
こうしたネガティブな挙動を解消するために用意されたのが、「AIRMATICサスペンション」や「リアアクスルステアリング」といった高機能装備なのだから、違いがあるのは当然とも言える。
ただし、だからといってCoreの足まわりが劣っているわけではない。むしろ通常サスペンションとしては上出来の仕上がりだ。競合車と比較してもGLC 220d 4MATIC Coreの操縦安定性や快適性は高く、スポーティさと快適性をバランスよく両立している点は特筆に値する。
約184万円差なら…やっぱりCoreも「アリ」!
試乗を終えての率直な感想は、「やっぱり“ドライバーズパッケージ”と“AMGラインパッケージ”を装備したGLCがベストだよね」というものだった。
「AIRMATICサスペンション」や「リアアクスルステアリング」がもたらす快適性と操縦安定性は、まさに別格。クルマ好きとしては、やはり惹かれる。
しかし、この2つのパッケージオプションを追加すると、車両価格はなんと約1,003万円。GLC 220d 4MATIC Core(819万円)との価格差は、約184万円にもなる。もはやスーパーハイト系の軽自動車が1台買えてしまう価格差だ。
昨今の物価高騰、将来の年金不安、そして何かと見通しが不透明な社会情勢。そんな現実を前に、「プラス184万円でオプションを追加しますか?」と問われれば、誰もが即答できるわけではないだろう。
だからこそ、GLC 220d 4MATIC Coreが設定された理由が、試乗を終えた今、あらためてよく分かる。走りの質や高級感はしっかり維持しつつ、価格を現実的な水準に抑えたこのグレードは、現代のニーズに非常に合致している。
高級車でありながら“ちょっと手が届きそう”な選択肢。それがGLC 220d 4MATIC Coreなのだ。
中古車なら、新車Coreの予算で「全部入り」が狙える!
GLC 220d 4MATICの中古車相場を調べてみた。
※2025年9月時点での調査データ。
対象モデル:GLC 220d 4MATIC(AMGラインパッケージ+ドライバーズパッケージ装着車)
- 年式:2024年式(約1年落ち)
- 中古車相場:約780万~890万円
- 当時の新車価格:約1,038万円
- 新車価格比:約75~86%
つまり、わずか1年落ちの高年式中古車で、「AIRMATICサスペンション」と「リアアクスルステアリング」を装備したフルオプションモデルが、新車のGLC 220d 4MATIC Core(819万円)と同等、あるいはそれ以下の価格帯で購入できる可能性があるのだ。
この事実を前にして、「中古車って、やっぱりお得だな」とあらためて感じた。新車では高額なオプションが、中古車ではあらかじめ装備された状態で流通しており、追加費用なしで“全部入り”が手に入るのは、中古車市場ならではの醍醐味だ。
GLCのリセールバリューについて見ると、2024年式という高年式SUVでありながら、新車価格比は75~86%とやや控えめ。国産の人気SUVでは、1年落ちでも新車価格比90%以上を維持する車種が多い中、GLCの中古相場は相対的にお得感がある。
これは、高所得層を中心に「どうせ買うなら新車で」というニーズが根強い一方で、中古車市場では価格が落ちやすいためだろう。その分、しっかり探せば、高年式・高装備のGLCを“新車Coreの予算”で手に入れることも十分可能となる。
GLCの高年式中古車は、今まさに「買い」のタイミングと言える。
メルセデス・ベンツGLC 価格とスペック
- GLC 220 d 4MATIC Core (ISG) 新車価格: 8,190,000円
|
代表グレード |
220 d 4MATIC Core(ISG搭載モデル) |
|
全長×全幅×全高(mm) |
4,720 × 1,890 × 1,640 |
|
ホイールベース(mm) |
2,890 |
|
トレッド(前/後)(mm) |
1,625 / 1,640 |
|
最低地上高(mm) |
180 |
|
最小回転半径(m) |
5.5 |
|
車両重量(kg) |
1,930 |
|
荷室容量(L) |
560 ~ 1,680 |
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駆動方式 |
4WD(4輪駆動) |
|
トランスミッション |
電子制御9速AT(9G-TRONIC) |
|
タイヤサイズ(前後) |
235/60R18 |
|
エンジン型式 |
654M |
|
エンジン種類 |
直列4気筒ディーゼルターボ |
|
総排気量(cc) |
1,992 |
|
最高出力(kW[ps]/rpm) |
145[197]/3,600 |
|
最大トルク(N・m/rpm) |
440 / 1,800~2,800 |
|
モーター型式 |
EM0023 |
|
モーター最高出力(kW) |
17 |
|
モーター最大トルク(N・m) |
205 |
|
電力用主電池 |
リチウムイオン電池 |
|
WLTCモード燃費(km/L) |
18.1 |
