
シミー現象は車に起こる不具合現象のひとつであり、ステアリング(ハンドル)が持っていられないほどに左右に小刻みに震えるような症状が特徴的です。
珍しいこの現象がどういったときに起こるのか、その原因や対処法について現役の整備士が解説します。
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シミー現象とは?
シミー現象とは「shimmy=震える」を語源とした言葉で、走行中にステアリング(=ハンドル)が左右にブルブルと震える現象のことを指します。ステアリング機構はギヤボックスを介してタイヤにもつながっています。シミー現象発生時はステアリングの振動だけではなく、タイヤも振動しています。その結果、車体全体にも振動が伝わって大きな揺れが発生することもあります。
シミー現象は、路面の凹凸などをきっかけにその衝撃を受けたタイヤがアンバランスを起こし、きれいな回転ができなくなることで発生します。
シミー現象は危険な現象
シミー現象は酷くなると手でステアリングを持っていられないほどの振動が発生し、思いもよらない動きを車がすることもあることから、事故のリスクにもつながる非常に危険な現象です。
海外ではシミー現象のことを「Death Wobble=死のぐらつき」と呼ぶほどです。
ステアリングだけではなく、車体全体も振動することで感覚的に真っ直ぐ車を走らせることが難しくなります。
低速シミーと高速シミー
シミー現象は一般的に「低速シミー」と「高速シミー」に区別されます。
- 低速シミー…40〜50km/hで発生
- 高速シミー…100〜120km/hで発生
低速シミーの方が発生しやすく、なおかつ振動も大きくなる傾向にあるので、運転していても恐怖を感じる現象です。
高速シミーは低速シミーほどの大きな振れにはならないものの、小刻みな振動が続くような症状が多く、速度域が高いことから不安を感じる現象です。
また、ここでの速度域はあくまで低速と高速の呼び方の区別の目安なので、シミー現象そのものはどの速度域でも発生し得る現象です。
シミー現象の原因
シミー現象が起きる原因はタイヤ、ホイールの不良やステアリングなどの部品の摩耗などさまざまです。タイヤ交換や事故、部品の経年劣化、車をカスタムした後など原因が生じるタイミングもいくつかあるのでパーツ別に詳しく紹介します。
タイヤに原因がある
- タイヤにアンバランスがある
- タイヤの偏摩耗、溝の減少
- 車にタイヤが合っていない
タイヤそのものにアンバランスがあったり、偏摩耗があるとシミー現象を起こす直接的な原因となります。
タイヤのアンバランスはそもそもが粗悪品であったり、アライメント不良であれば偏摩耗などを引き起こしやすいです。
また、タイヤの種類・銘柄がそもそも車に合っていない場合にも、シミー現象発生の要因となることがあります。
ホイールに原因がある
- 正確にホイールバランスが取れていない
- ホイールに損傷がある
- ホイールが粗悪品でアンバランス
- ホイールスペーサーを取り付けている
タイヤを交換したとき、きれいに回転するようにホイールバランスを取ります。
ホイールバランスを取っていない、またはバランス調整に失敗していると偏心してしまい、アンバランスを引き起こします。
ホイールを縁石にぶつけたり、事故で衝撃を受けたのにそのまま使い続けていたり、認証マークのないような粗悪なホイールの使用も同様に回転がアンバランスになってシミー現象の原因となります。
また、タイヤとホイールが正確にバランス調整されていたとしても、カスタムのために装着したホイールスペーサーが原因で、ナックルのハブ面とホイールとで正確にセンター出しができておらず、タイヤの回転に振れが発生しシミー現象につながる恐れがあります。
ホイールスペーサーにも良し悪しがあるので、使用する場合には安全のためにもあまりに安価なものは避けるのが賢明です。
サスペンション機構に原因がある
- サスペンション部品の劣化・摩耗
- サスペンション部品のガタ
- サスペンション部品の不良
サスペンションは複数の部品によって構成されています。
これらの部品が使用による経年劣化、摩耗によってガタが発生していればそのガタがタイヤに伝わり、シミー現象につながることがあります。
乗用車であればジムニーなどに採用されているサスペンションシステムにある、キングピンベアリングの摩耗などはよくあるシミー現象の原因のひとつです。
また、特に社外部品に交換するときは注意が必要で、車に合ったものを正しく選ぶことが重要です。
ステアリング機構に原因がある
- ギヤボックスにガタがある
- タイロッドにガタがある
ステアリング機構はハンドル操作をタイヤに伝達する役割があるので、このステアリング機構にガタのある場合にもシミー現象の原因となることがあります。
ガタの発生は経年劣化によるジョイントやギヤ部分の摩耗、締結しているボルトナット等の緩みなどが考えられます。
カスタムに原因がある
細かく説明すると、ここまですでにお伝えしてきたシミー現象の原因に含まれる内容ですが、車のカスタムがきっかけでシミー現象が発生することもあります。
また、近年流行りのリフトアップ車はノーマル状態と比較すると、ふらつきやすく直進安定性が低下します。
その結果、シミー現象が起きやすくなることがあります。
アライメント不良に原因がある
各部品が適切に組み付けられ、個々の部品に問題がなくても、四輪アライメントの不良が原因でシミー現象が発生することがあります。
アライメントがズレる原因としては、足廻りの整備をおこなったり、事故をしたときが挙げられます。
しかし、車が正常な状態でも経年劣化でサスペンションなどにヘタりが見受けられるようになったときにもアライメントは影響を受けます。
足廻りの整備をおこなったときは、アライメント測定と調整をかならずおこなって補正するようにしましょう。
シミー現象が起きたときの対処法
シミー現象が発生したときは、まず焦らず落ち着き、ステアリングから不用意に手を離さないことが大切です。
一般道での対処法
一般道で周囲に余裕のある状況であれば、ハザードを点滅させてブレーキを踏み、徐々に減速させます。
急ブレーキや急ハンドルは危険なので絶対にやめてください。
路肩があれば路肩に停車します。
その後、自走で移動する場合は周囲に注意を払いながら改めて走行を開始します。
自走が危険と判断した場合には、JAFや保険のロードサービスを利用して整備工場まで搬送してもらうか、担当の整備工場に連絡をして判断を仰ぎましょう。
レッカーを待っているときも含め、そのまま停車を続けると危険を伴う可能性があるので、場合によっては三角表示板や非常用信号灯(非常用発炎筒)を車両後方に設置して、周囲の車に走行注意を促します。
また、見通しが悪いところであったりスピードの出る場所など、道路状況によっては必要に応じて車から離れて安全な場所で待機することも大切です。
高速道路での対処法
高速道路でのシミー現象は高速シミーが原因であることが多いでしょう。
追越車線を走行中であれば、安全を確認しながら走行車線に戻ります。
その後、シミー現象が収まるスピードまで焦らず徐々に減速します。
一般道と同じく急ハンドルや急ブレーキを避け、周囲に走行車両が多い混み合った状況であれば、異常を知らせるためにもハザードを点滅させたほうがよいでしょう。
シミー現象が収まり、一定の速度であればシミーの再発がないことか確認できたら、走行するスピードに注意を払いながら、次のSA/PAまたはICまで走行して安全な場所に一旦退避しましょう。
その後、ロードサービスや整備工場に連絡を入れて、どうするべきかの判断を仰ぎましょう。
どうしてもシミー現象が収まらず、高速道路上で停車を余儀なくされた場合、一般道と同じくハザードを点滅させながら路肩になるべく寄せて停車します。
道交法により高速道路上で停車するときは、運転者に停止表示器材の表示義務があるため、かならず車両後方に三角表示板を設置します。
その後、速やかに車から離れてガードレールの外などに避難してから、ロードサービスや整備工場に連絡するようにしましょう。
シミー現象の修理費用の目安
シミー現象を修理するための費用は、3万円~10万円が目安です。ただし、シミー現象の原因はさまざまです。原因の特定が難しい場合には、追加費用がかかる可能性もあります。ここでは具体的な例をもとに修理費用の目安をご紹介します。
タイヤ交換やホイール交換をする場合
事故や損傷により1本だけ明確な異常がある場合を除いて、タイヤやホイールを交換するときは4本まとめて交換することが望ましいです。
軽自動車のタイヤで、信頼性もある国産メーカーのタイヤであれば、種類とサイズによっては工賃も含めて3万円〜で交換できます。
また、ホイールもセットの場合だと6万円〜程度です。
タイヤホイールのサイズが大きくなるほど、また選択する銘柄が高級なものになるほど費用は高くなるので、費用の目安は車種によって大きく異なります。
キングピンベアリングの交換費用の目安【例:ジムニー】
ジムニーのシミー現象の原因としてよく挙げられるキングピンベアリングの劣化・ガタを修理(キングピンのオーバーホール)する場合、片側につき3万円〜が費用の目安となります。可能であれば左右同時に交換することが望ましいので、6万円〜の修理費用が必要になります。
シミー対策キット取り付け費用の目安【例:ジムニー】
上記の具体例で挙げたジムニーには、シミー現象を起こりにくくするキットが社外品として販売されています。
キングピンをオーバーホールするときに、同時に取り付けるケースがほとんどで、先ほど解説した費用に部品代をプラスし、左右で7.5万円〜程度の費用がかかります。
サスペンションやステアリング部品の交換
シミー現象の原因として考えられるサスペンションやステアリング機構の部品の交換をする際は、該当箇所の部品を交換するために脱着する部品も多く、ほかの部位にも劣化が見られる場合には、まとめて部品の交換を提案されるケースが多いです。
整備にかかる工賃も高くなる傾向にあるので、安く収まる場合でも5〜10万円程度の修理費用を準備しておきましょう。
具体的な費用目安を示しにくいところなので、見積書を元に納得のいく整備をしてもらいましょう。
四輪アライメントの測定
シミー現象の修理をおこなったときの、最後の仕上げとして四輪アライメントの測定・調整はぜひ行っていただきたい整備メニューです。
車の骨盤矯正のようなもので、適正なアライメントに調整することで、タイヤの偏摩耗やハンドルセンターのズレ、車体流れなどが改善されることもあり、より安全・安心して車に乗ってもらうためにも必要な整備です。
四輪アライメントにかかる費用は1.5万円〜です。
【補足】シミー現象とジャダー現象の違い
シミー現象とジャダー現象は同一の現象として語られることも多く、症状としてステアリングの振動や車体振動の発生があることから混同されがちな2つの現象ですが、厳密にはまったく異なる現象なので注意が必要です。
ブレーキジャダー現象
シミー現象は段差や凹凸路を乗り越えた時などをきっかけに発生しますが、ブレーキジャダー現象はブレーキを踏んだときに振動します。
酷いものはシミー現象と同じくステアリングが小刻みに左右に振動したり、直接ブレーキペダルに感じる振動があり、車体も振動する症状が発生します。
ブレーキローターの歪みや錆が原因であることが多いです。
クラッチジャダー現象(駆動系ジャダー)
ジャダー現象は、トランスミッションに関わる駆動系部品の不具合により発生することもあります。
エンジンからの動力がうまくトランスミッション側へ伝達されないために振動が発生します。
発進時や加速時、変速時に発生することが多く、車体全体が大きく振動するのが特徴です。
整備士のまとめ
シミー現象はなにも知らない人が体感すると、非常に危険で怖い思いをする現象です。
シミー現象は特徴としてSUVなどの車高の高い車で発生しやすい傾向にあります。
昨今のアウトドアブームで、日常使いとしてジムニーや古いランドクルーザーなどの本格的な4WD車に乗るひとも増えており、あなたも知らぬ間にそのリスクを身近に抱えているかもしれません。
シミー現象が発生したときは、車が不具合やトラブルを抱えている合図かもしれないので、早めに整備工場で診断やメンテナンスをしてもらい、安心して車に乗れるようにしましょう。
- Supervised by 整備士 ヒロ
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保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。