締めすぎ注意!タイヤ交換時のホイールナットの締め付けトルクについて整備士が解説

締めすぎ注意!タイヤ交換時のホイールナットの締め付けトルクについて整備士が解説

タイヤの付け替え(履き替え)を自分でやっている、またはやってみたいという方に向けて、かならず理解しておいてほしいのが、締め付けトルクの問題です。
締め付けトルクに関する正しい認識がなければ、車を壊してしまうばかりではなく、事故にもなりかねません。
正しい知識を得たうえでタイヤの交換作業を進めていきましょう。

タイヤの締め付けトルクとは?

タイヤ(ホイール)の締め付けトルクとは、ホイールを固定するためのホイールナット、またはホイールボルトを締め付けるときの力の強さのことを指します。
締め付けトルクの強さはホイールの種類、ホイールナットまたはホイールボルトの種類やサイズで異なります。
よって、車種ごとにかならず規定の締め付けトルクが決められています。
国産の乗用車の場合、小さいトルクだと70N・m程度から、大きいものであれば140N・m程度のものまで、その車に合った規定トルクが設定されています。
国産車では現状、ホイールナットタイプを採用している車が多いので、この記事ではホイールナットという表記に絞って記載しています。

締め付けトルクの確認方法

ホイールナット、ホイールボルトの締め付けトルクは車載の「取扱説明書」に記載があります。
サービスデータ欄に、車のメンテナンスに関係する他の数値と一緒にまとめて記載があったり、タイヤ交換の手順・方法を解説したページに記載されていたりします。

しかし、中には取扱説明書といったユーザーの持つ資料にはあえて記載していない車種もあります。
その場合、整備士が車を整備するときに参照する「整備書(サービスマニュアル)」で確認する必要があります。
ただし、一般の方が見れるものではないので、正確な情報を得るのであれば、整備工場などで聞いて教えてもらうしかありません。(該当のメーカーのディーラー推奨)

ホイールナットの種類

ホイールナットは車種によってサイズや形状が異なります。
正確なものを使用しなければ、タイヤが外れるなど重大な事故につながる恐れがあります。

貫通型ナットと袋型ナット

ナットには貫通型と袋型があります。
その名のとおり、貫通型はナットを取り付けたときにハブボルトが貫通するもので、袋型はナットを取り付けるとハブボルトが見えないタイプです。
貫通型ナットは鉄チンホイールに使用されることが多いです。
注意点として社外品の部品を組み合わせる場合、ハブボルトが長くそれに対して奥行きの浅い袋ナットを使用すると、ナットが締まる前にハブボルトがナットの袋小路に接触してしまうことがあります。
この場合、当然ながら正しくナットが締め付けられていない状態となるので注意が必要です。

ねじ山のピッチの違い

ねじ山のピッチとは、ボルト及びナットのねじ山の間隔のことです。
一般的に車のホイールナットで使用されているものは2パターンあり、ピッチ径「P 1.25」のものとピッチ径「P 1.5」のものがあります。
異なるピッチのホイールナットは取り付けができません。
国産の主なメーカーごとで採用されているホイールナットのピッチは以下のとおりです。

  • P 1.25…スズキ、スバル、ニッサン
  • P 1.5…ダイハツ、トヨタ、ホンダ、マツダ、ミツビシ、レクサス

座面の形状の違い

ホイールナットの座面とはナットとホイール本体との当たり面のことを指します。
大きく分けて以下の3つの形状があります。
それぞれの座面タイプが、どの自動車メーカーで採用されているのかもまとめました。

  • テーパー座
    →テーパーナットを使用(すべてのメーカー、社外ホイールもほとんどがテーパー座を採用)
  • 球面座
    →球面ナットを使用(一部のホンダ)
  • 平面座(平座)
    →ストレートナットを使用(一部のトヨタ、レクサス)

それぞれに互換性はないので注意が必要です。
万が一誤ったホイールナットを取り付けてしまうと、走行中にタイヤが脱落してしまうリスクがあります。

ソケットサイズの違い

ナットを緩めるときに使う工具(ソケット)も、ナットの頭の大きさによって違いがあります。

  • 17mm
  • 19mm
  • 21mm

多くがこの3つのサイズのいずれかです。
ロックナットがあれば、個々に合った専用のアダプターを使用しないと脱着ができません。
また、通常のホイールナットは六角ですが社外品のナットの中には防犯の観点から形状が特殊なものがあります。(例:五角ナットなど)
この場合も、脱着には付属の専用アダプターが必須となります。

【補足】トルクレンチはあった方がいい?

タイヤを交換する(付け替え・履き替え)とき、トルクレンチを使うことは必須です。
仕事に慣れたプロの整備士でもかならず使用します。
このあと解説しますが、ホイールナットは「とにかく強く締まっていればいいんでしょ?」というものではありません。
巷では、トルクレンチの使用を怠ったことでのタイヤの脱落、またそれによる死亡事故も発生しています。
繰り返しになりますがホイールナットの締め付けには、絶対にトルクレンチを使ってください。
わたしの職場では、タイヤの脱着時のトルクレンチによる締め付けトルクの確認は、作業者だけではなく別の整備士によるWチェックも必須としています。

トルクの締め方

ホイールナットを正しいトルクで締めるときの方法を解説します。
また、既定の締め付けトルクを守らなかったときに起こりうる危険性についてもお伝えします。

安全なトルクでホイールナットを締める手順

以下の手順でホイールナットを締め付けていきましょう。

【事前確認】対角線上でホイールナットを締める

ホイールナットを締めるとき、次に締めるホイールナットは対角線上にあるものとします。
これにより、均等に力を加えながら締めることが可能です。(例:5穴タイプは星形の順で締める)

①ハンドツールで仮締め

ホイールナットを締めるとき、タイヤを取り付けたあとにタイヤが浮いている状態で、ハンドツールを使用してすべてのホイールナットがホイールの座面に当たるまで締めます。
かならず守ってほしい注意点として、ハンドツールはあくまで手を使ってのみ使用します。
工具に足を掛けたり、またそのときに全体重をかけて締めるようなことは絶対にしないでください。

②タイヤをすこし設置させた状態で増し締め

タイヤが浮いた状態よりも、すこし力を加えやすいタイヤが接地した状態で一度、仮締めと同じ要領でホイールナットを増し締めします。
ジャッキを完全に降ろすのではなく、タイヤがわずかに接地し、工具を使って締めるときにタイヤがその力で回らない程度の状態で行うことがポイントです。
これにより、完全な設置状態よりも均等にトルクを掛けることができます。

③トルクレンチを使用して規定トルクで締め付け

最後の仕上げに、トルクレンチを車に合った規定トルクに設定して、ここまでの締め付けと同じ要領でホイールナットを締めます。
先ほどタイヤが着地した状態で締めたときから、トルクレンチを使ってすこし増し締め感がある程度がベストです。
これはオーバートルクによる締めすぎがないことを確認するために重要なことです。
また、設定したトルクで締め付けが確認できたのにもかかわらず、心配だからとトルクレンチで何度も繰り返し締めると、締めすぎてしまうこともあるので注意しましょう。

【注意!】トルクの締め付けが緩い、締めすぎのリスク

締め付けが緩いときのリスク

もしホイールナットの締め付けが緩いと、最悪の場合は走行中にタイヤが脱落して走行不能になってしまう可能性があります。
その前段階として、走行中にタイヤ付近より異音が発生したり、一部のホイールナットが無くなっていたり、緩んでいることがあります。
タイヤの脱落事故は今も昔も変わらず発生しており、時折ニュースでも取り上げられて、脱落したタイヤが歩行者に直撃して死亡事故にまで至るケースもあります。

締めすぎたときのリスク

緩みが怖いからとホイールナットを締めすぎても危険があります。
締めすぎることを「オーバートルク」と呼びますが、オーバートルクによりハブボルトに大きな負荷が掛かり、最悪の場合はハブボルトが折損してしまうことがあります。
締めたときに、ハブボルトがねじ切れてしまうこともあれば、作業時は一見なにごともないように見えても、時間の経過とともに負荷が掛かって折損することもあります。
折損前に気付くことがあっても、ボルト・ナットのねじ山の損傷やボルトのねじれが発生していれば、それらの部位は交換が必須となります。
最悪のケースだと、ホイールナットの締め付けが緩いときと同様に、タイヤの脱落が発生するリスクがあります。

整備士のまとめ

寒い時期の前後にスタッドレスタイヤの履き替えがある地域などでは、タイヤを自分で交換することも珍しくありません。
一見、身近で簡単な作業に思うかもしれませんが、それゆえに注意点について軽視されがちです。
繰り返しになりますが、ホイールナットは緩くても、逆に締めすぎても危険で、適切なトルクで締めることが重要です。
他人事では決してないので、取り返しのつかないことにならぬよう、タイヤを交換するときはかならずトルクレンチを使った締め付けトルクの管理をおこないましょう。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。