オーバーヒートは車のトラブルのひとつで、最悪の場合にはエンジンに深刻なダメージを受けてしまいます。オーバーヒートに至る原因は実は冷却水漏れだけとは限りません。
オーバーヒートの原因や、前兆はあるのか?応急処置の方法や修理費用の目安などについて現役の整備士が解説します。
- 車のオーバーヒートとは?
- 車がオーバーヒートする前兆
- 車がオーバーヒートする原因
- 車がオーバーヒートしたときの応急処置
- オーバーヒートした場合の修理費用の目安
- オーバーヒートしないための日頃のメンテナンス
- 整備士のまとめ
車のオーバーヒートとは?
車のオーバーヒートは、エンジンが適切に冷やされずに過剰に熱くなってしまった状態を指します。
通常の使用過程でオーバーヒートを起こすことは基本的にないので、車になにかしらの不具合が発生している可能性が高いです。
多くは冷却水が漏れていることに起因しますが、必ずしもそうとは限らずさまざまな原因が考えられます。
エンジンが過熱した状態が続くと、エンジン内部が深刻なダメージを受けてしまい、エンジン本体の分解修理または載せ替えが必要になり、高額な修理が発生します。
車がオーバーヒートする前兆
車がオーバーヒートするときは、なにかしらの前兆があります。オーバーヒートの前兆として水温警告灯が点灯するといった状況によって分かりやすいものもあれば、エンジンのノッキングや異臭がするといった気付きにくいものもあります。
各、前兆について解説します。
メーター内の水温警告灯が点灯する
車のメーターはドライバーに車の状態をお知らせするために、さまざまな警告灯や表示灯が点灯・点滅するようになっています。
水温警告灯もそのひとつで、赤色で液面と温度計を表しています。
通常点灯することはなく、水温が異常に高温となったときに点灯してオーバーヒートをドライバーにお知らせします。
車の下に冷却水の漏れた跡がある
車の下に冷却水の漏れた跡があると、冷却水が減っていてオーバーヒートにつながる可能性があります。
たまにエアコン使用時の排水を、冷却水漏れと勘違いされる方もいらっしゃいますが、冷却水は着色されており、赤・緑・青といった色が一般的です。
車の周りで甘い異臭がする
冷却水には独特の甘い臭いがついています。
普段、嗅ぎ慣れない臭いが車内、車外問わず車の周りからしていると、冷却水が漏れている可能性があるので、オーバーヒートにつながるリスクがあります。
ヒーターが効かなくなる
冷却水が漏れるとヒーターが効かなくなります。
車のヒーターは、温まったエンジンの冷却水をエアコンのシステム内にあるヒーターコアと呼ばれる部品に循環させることで機能しているためです。
エンジンがノッキングする
エンジンのノッキングは、エンジンから「カンカン」「キンキン」「カラカラ」と甲高い音がすることを指します。(※多くの方がエンジン不調などと混同されますが異なります)
ノッキングの原因のひとつが燃焼室内の異常燃焼ですが、オーバーヒートによりエンジンが異常高温になることで、この異常燃焼を引き起こしてしまいます。
クーリングファンが高回転し続ける
オーバーヒートが起きると、クーリングファンが高回転し続ける場合があります。
ラジエーターを通る冷却水を冷却するため、ラジエーターに風を当てる役割をしているのがクーリングファンです。
クーリングファンは水温センサーで水温を計測して必要に応じて駆動します。
オーバーヒートすると水温センサーが高温を検知するので、冷却のためクーリングファンが作動し続けるような症状につながります。
何かしらの異音や警告灯の点灯がある
詳細は後ほど解説しますが、冷却水を循環させるポンプの役割をしている「ウォーターポンプ」が駆動していないとき、ウォーターポンプ以外の部分も不具合や悪影響が出ている可能性が高く、それによって異音や警告灯の点灯があります。
車がオーバーヒートする原因
車がオーバーヒートする原因は冷却水漏れとは限りません。
実はさまざまな理由によりオーバーヒートは引き起こされます。
冷却水が漏れている
もっとも考えられる原因は、冷却水が漏れてエンジンが冷やせなくなったことでオーバーヒートが起きたというものでしょう。
冷却水が漏れる可能性のある箇所は多岐にわたります。
- エンジン
- ウォーターポンプ
- ラジエーター
- サーモスタット
- ヒーターコア
- 冷却水タンク(リザーブタンク)
- ウォーターホース
- ハイブリッドシステム(ハイブリッド車の場合)
クーリングファンが回っていない
クーリングファンが故障して回っていないと、ラジエーターを通過する冷却水を十分に冷やすことができないので、オーバーヒートにつながります。
走行中は走行風が当たってある程度は冷えるので、クーリングファン故障時は特に夏場の停車中にオーバーヒートしやすいです。
真冬であればオーバーヒートにまで至らないケースもあります。
サーモスタットが開かない
サーモスタットは冷却水通路の途中にある、水路を切り替えるバルブのような役割を持つ部品です。
エンジンは温度が低すぎても高すぎても運動効率が悪くなるので、冷却水温度が低いときは早く温めるためにラジエーターへ冷却水を送りません。
逆に高温になると冷やす必要があるのでラジエーターに冷却水を送ります。
そのための水路の切り替えをおこなうサーモスタットが閉じたまま固着すると、ラジエーターに冷却水が循環しないので冷却水は熱くなる一方です。
最終的にはオーバーヒートにつながります。
ウォーターポンプの故障、または駆動していない
冷却水を循環するために駆動しているウォーターポンプが正常に働かなければ、オーバーヒートします。
ポンプの羽根が壊れていると冷却水をうまく循環させられません。
またウォーターポンプはエンジンの動力を利用したベルト駆動されているのが一般的で、ベルトが切れたりプーリーが脱落するような壊れ方をして物理的にポンプが回転しなくなるケースもあります。
この場合、エンジンルームからの異音の発生や、さまざまな警告灯の点灯を伴うケースがあります。
ハイブリッド車などを中心に、最近では電動タイプのウォーターポンプも採用されています。
電動タイプの場合、電気的な不具合によってポンプが駆動しなくなれば、冷却水が循環せずにオーバーヒートにつながる可能性があります。
ラジエーターが詰まっている
そもそもラジエーターが詰まっていると、流れる冷却水が十分に冷やされず、オーバーヒートになる可能性があります。ラジエーター内部の水路が錆などによって詰まると、中で冷却水が十分に流れません。
また、内部のみならず外側の状態も非常に重要です。
ラジエーターは冷却水の通るチューブとフィンが交互にレイアウトされていて、フィンを吹き抜ける風でチューブ内を通る冷却水の温度を下げています。
このフィン部分が汚れやゴミの付着で詰まってしまうと、内部では冷却水が問題なく流れていても、冷却水を冷やすための風がラジエーターのフィンの隙間を抜けないのでオーバーヒートのリスクがあります。
飛んできたゴミ袋がラジエーターの前に張り付いてしまって風が当たらない…なんてこともあり得るので注意が必要です。
ヘッドガスケットが抜けている
ヘッドガスケットとはエンジンを縦に二分割したヘッドとブロックの間に挟み込むガスケットです。
劣化や不具合によりヘッドガスケットによる気密が保てなくなる(ヘッドガスケットが抜ける)と、冷却水の通る通路がエンジンの燃焼室の熱や圧力の影響を直接受けてしまい、冷却水が熱で膨張して噴き返すような症状に繋がります。
結果、水温が異常高温になったり、噴き返した冷却水がオーバーフローして減ることで、オーバーヒートにつながります。
また逆にオーバーヒートが原因でヘッドガスケットが抜けることもあります。
ラジエーターキャップが壊れている
ラジエーターキャップが壊れてしまうとオーバーヒートを起こすリスクが高まります。
ラジエーターキャップは、冷却システム内を加圧することで沸点を上げて、100℃を超えても冷却水が沸騰してしまわないようにする役割を持っています。(沸騰するとエア噛みが発生したりして十分な冷却機能を保てなくなる)
また、水は熱くなると膨張して冷えると収縮するという特徴があります。
冷却システム内の体積変化→圧力の変化に応じて、高くなった圧力は冷却水タンク(リザーブタンク)を使って逃がし、圧力が下がりシステム内の冷却水が減ったときはリザーブタンクから冷却水を補充します。
これらの働きをコントロールしているのがラジエーターキャップです。
高負荷運転を続けた
エンジンに負荷の掛かる運転(高負荷運転)を続けたことでオーバーヒートをすることがあります。
たとえば、長い登り坂をエンジンの回転数が高いまま(通常より低いギヤ)で低速のまま走り続けるような運転が該当します。
速度が低いと、冷却のための風がラジエーターに十分に当たらず、エンジンの負荷(熱の発生)に対して、冷却が追い付かずにオーバーヒートになります。
わたし自身も、ジムカーナと呼ばれるモータースポーツをしていたとき、特に気温の高い真夏はオーバーヒート寸前になるような状況に何度か遭遇したことがあります。
冷却水通路でエア噛み
なんらかの原因で冷却水通路内にエア噛みが発生していると、冷却水がうまく循環できなかったり、いくべきところに行き届かないことでエンジンの冷却がうまくできずにオーバーヒートにつながるケースがあります。
エア噛みは冷却水の交換や、冷却関連の部品を交換した後に起こりやすいです。
また、車種やエンジンによってエア噛みしやすい車とそうでない車があります。
車がオーバーヒートしたときの応急処置
車がオーバーヒートしたとき、焦らずにできる応急処置をお伝えします。
安全な場所に停車する
まず何より車とドライバーの安全を確保することが大切です。
オーバーヒートに気が付いたら、周囲に注意しながら安全な場所に車を停車します。
このとき、ハザードを点灯させてください。
可能であればエンジンルーム内の熱をすこしでも逃せるために、停車後は安全確認をしたうえでボンネットを開けることができれば尚のこと良いでしょう。
状況に応じて、発炎筒や三角表示板を車両後方数m先の目に付くところに配置することで、後続車に自車の緊急停車を伝えることができれば完璧です。
エンジンを止める
オーバーヒートしている状態だと、エンジンを掛けたままにしていても十分に冷却されず、さらに酷い状況につながる可能性が高いのでエンジンを止めます。
場合によっては、JAFや保険会社のレッカーサービスを利用して整備工場に運んでもらうことをおすすめします。
冷却水が入っていればヒーターを全開にしてみる
オーバーヒートの前兆に気付いて早めに車を停車した場合を含めて、冷却水の漏れが見受けられず冷却水タンク内に冷却水が入っていることを確認したら、一度ヒーターをMAX HOTかつ風量最大でつけてみてください。このとき、エンジンの負荷を減らすためA/CボタンはOFFにしてください。
ヒーターはエンジンの冷却水を利用しているので、ヒーターを使うことで冷却水の熱が奪われ、冷却水の温度を下げる効果があるためです。
これによって、オーバーヒートを回避することができるかもしれないので試してみるのも良いかもしれません。
冷却水を補充する
もし冷却水が漏れていることがオーバーヒートの原因であれば、冷却水を補充して応急的に走れるようにすることもできます。
応急処置であれば補充するのは専用の冷却水ではなく、普通の水でも構いません。
オーバーヒートして冷却水の補充をする場合は、ラジエターキャップを開けて直接補充します。
冷却水タンク(リザーブタンク)からの補充だと、冷却システムに十分行き渡らないためです。
当然、漏れの加減によってはほとんど効果のないケースもあるので、よく確認しながら作業をおこないましょう。
(※輸入車を中心に冷却水タンクに直接ラジエーターキャップが取り付けてある車もあります)
【補足】熱い時にラジエーターキャップは絶対開けないこと
ラジエーターキャップは、冷却水の沸点を上げるために冷却システム内を加圧しています。
まだエンジンルーム内が熱いときにラジエーターキャップを開けると、圧力差で中の冷却水が噴き返す可能性があります。
大怪我につながる恐れもあるので、熱いときにラジエーターキャップを開けないようにします。
どうしても冷めるまで待てないときは、厚手のタオルなどでキャップを覆いながら、キャップを押す力8〜9割、回す力1〜2割で慎重にキャップを回して、すこしずつ押す力を弱めながらキャップを外すことで被害を最小限にとどめることも可能です。
オーバーヒートした場合の修理費用の目安
オーバーヒートした場合の修理費用は少額から高額なものまでさまざまです。
一覧にまとめました。
交換・修理する場所 | 修理費用の目安 | 部品の壊れ方の例 |
---|---|---|
エンジン | 15万円〜100万円 | ヘッドガスケット抜け、冷却水漏れ オーバーヒートによるエンジンダメージ大 |
ウォーターポンプ | 1.5万円〜15万円 | 冷却水漏れ、プーリー損傷、インペラ損傷 |
ラジエーター | 3万円〜10万円 | 冷却水漏れ、詰まり |
サーモスタット | 1.5万円〜5万円 | 冷却水漏れ、閉固着 |
ヒーターコア | 3万円〜12万円 | 冷却水漏れ、詰まり |
冷却水タンク(リザーブタンク) | 8,000円〜2万円 | 冷却水漏れ |
ラジエーターキャップ | 1.000円〜4,000円 | 加圧弁・負圧弁の故障 |
ウォーターホース | 3,000円〜 | 冷却水漏れ、詰まり |
クーリングファンモーター | 3万円〜5万円 | ファンモーターの故障 |
※いずれも、冷却水の交換、または補充費用が別途必要になるケースがあります。(目安5,000円〜1.5万円)
オーバーヒートは放置すると熱による歪み等でエンジンに深刻なダメージを伴うことがあり、オーバーヒートの原因を修理したとしても、車を安全に乗り続けることが困難になっているケースがあります。
場合によってはエンジンの載せ替えや分解修理が必要にもなり高額修理は免れません。
これを機に乗り換えを検討される方もいらっしゃいます。
オーバーヒートしないための日頃のメンテナンス
オーバーヒートしないためにできる日頃のメンテナンスでもっとも重要なのは、自分の乗っている車に対して正しい知識と実績のある整備工場で定期点検を受けることです。
いつも同じお店でメンテナンスしてもらうことが大切
点検・整備はいつも同じ整備工場を利用できればベストです。
定期点検とは車検時の「24ヶ月点検」、車検と車検の間の1年のタイミングでおこなう「12ヶ月点検」のことを指します。
同じ整備工場でメンテナンスを続けることで、お店側もメンテナンスに際して必要な過去の整備履歴(整備カルテ)等の把握が容易となり、予防も含めたベストな整備提案ができるためです。
自分の車に詳しいスタッフがいることが大切
特定の車種に対して知識があるかないかで、その車の弱点や気を付けるべきポイントを把握した上で点検を進めることができます。
この点は、特にディーラーに優位性があります。
たとえば、わたしの扱っているメーカーのとある車種は、7年ほどでサーモスタットが劣化して冷却水漏れを引き起こします。
オーバーヒートのトラブルを未然に防ぐため、それまでに必ずお客さまにサーモスタット交換の提案をします。
一方で、以前扱っていたメーカーの車ではそのようなスパンでサーモスタットを交換することはありませんでした。
これらは特定の車種を日々数多く扱うディーラーだからこそ、持っている知識の例です。
もちろん、ディーラーに限らずとも博識な整備士スタッフのいる整備工場であれば、なんの問題もありません。
ドライバーの義務!運行前点検を心掛ける
運転免許を取得する際に、教習所でボンネットを開けておこなう運行前点検について習ったことを覚えている方もいるはずです。
こまめに愛車の健康状態を自分自身で気に掛けることが、日頃のメンテナンスにおいて重要です。
オーバーヒートの原因はその多くが、冷却水漏れに起因します。
簡単にできる冷却水に関係する日常点検として以下のようなものがあります。
- LLCタンク(リザーブタンク)の冷却水量は適切か
- エンジンルームの下の地面に冷却水が漏れた跡がないか(冷却水=緑・赤・青といった着色された水)
- 冷却水が漏れたときに臭う、甘い異臭はしていないか
思い出したときだけでも結構なのでこれらを点検するだけでも、万が一のときの異変にすこしでも早く気付くことができるかもしれません。
もし分からないから自分には無理だという方は、多くの整備工場では定期点検だけではなく半年ごとに独自の点検を設けていたりするので、これらを活用してこまめにプロの目線で車をチェックしてもらう習慣をつけておくことをおすすめします。
整備士のまとめ
オーバーヒートに関する修理は、まとまった費用の掛かるケースが多いです。
そのため、部品の劣化で冷却水漏れのリスクが考えられる箇所の予防整備を提案をしても、修理費用を聞いて「いま正常であれば先延ばしで…」となるケースが実際には多いです。
オーバーヒートは応急処置でなんとか走行できることもあれば、それが難しいケースもあるので、外出先などで万が一のときには非常に困ります。
最悪の場合、車の乗り換えも想定しなければなりません。
過走行や低年式の車で冷却水漏れなどのリスクが高まっている車の場合、定期的な点検を疎かにせず、時にはまとまった出費を伴う予防整備の必要性があることを理解しておきましょう。
- Supervised by 整備士 ヒロ
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保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。