エンジンオイルのグレードとは?表記の見方や規格の違いを整備士が解説

エンジンオイルのグレードとは?表記の見方や規格の違いを整備士が解説

車のメンテナンスには必須のエンジンオイル交換ですが、エンジンオイルにはかなりの種類があり、グレードだけではなく規格の表記や粘度も様々です。
この記事では、初心者でも分かりやすくエンジンオイルの種類を理解できるように、必要十分な範囲内で現役の整備士が解説していきます。

エンジンオイルの表記でグレードと粘度がわかる

エンジンオイルはボトルや缶に入った状態で市販されていますが、そこに表記されている特定の数字やアルファベットから、そのエンジンオイルのグレードや粘度が分かります。
また、エンジンオイル選びにおいては「グレード」と「粘度」さえ抑えていればOKです。

グレードをアルファベットで表記

エンジンオイルのグレードはアルファベットと一部数字も使って表記されています。

グレード表記の例:SN、SP、DL-1など

これらについては後ほど、くわしく解説します。

粘度を数字で表記

エンジンオイルの粘度の表記

粘度はエンジンオイルの硬さを表すもので、数値とアルファベットで表記されています。

粘度表記の例:5W-30、0W-20、10W-60など

WはWinterの略で寒いときの粘度を表します。
数字が2種類表記されているのは、低温時と高温時の粘度特性を示すためです。
数字が小さいほど低温時の特性に優れ、数字が大きいほど高温時の特性に優れています。
数字の小さいオイルほどオイルが柔らかく、数字が大きいほどオイルは硬くなります。
いわゆる、省燃費用オイル(エコオイル)と呼ばれているものは、エンジン(機械)の抵抗になりにくい柔らかいオイルのことを指します。
最近の車は、こうした柔らかいエンジンオイルの使用を指定するのがトレンドです。

エンジンオイルのグレードとは?主な規格と特徴

エンジンオイルのグレードを表す規格には以下のようにいくつか種類があります。

  • API規格
  • ILSAC規格
  • JASO規格
  • ACEA規格

日本国内でスタンダードなものは、ガソリンエンジンであれば「API規格」、ディーゼルエンジンであれば「JASO規格」です。

API規格(1番身近なグレード表記)

API規格はガソリエンジン用オイルは頭に「S」がつき、ディーゼルエンジン用オイルは頭に「C」がつきます。
その後ろにつくアルファベットがAから順に大きくなるに従って、最新の車に適応した新しいオイルになります。
API規格は、ガソリンエンジンのオイルを購入する際に参考にします。
一般的に扱われているエンジンオイルは、「SL」「SM」「SN」「SP」の4種類で2024年現在、最新グレードは「SP」です

ILSAC規格(省燃費性を評価する規格)

ILSAC規格は、API規格のエンジンオイルに省燃費性能の評価を加えたものです。
API規格のみのエンジンオイルと比較して、より厳しい評価基準をクリアしている証だと言えます。
日米の自動車工業会が共同で制定した規格で、API規格と併用して記載されています。
2024年現在「GF-1」〜「GF-6」まであり、GF-6に対応するのは最新のAPI規格 SP相当になります。

【参考】

対応するILSAC規格 API規格
GF-5 SN
GF-4 SM
GF-3 SL

JASO規格(クリーンディーゼル車にはこれ!)

国内で販売されている乗用車において、クリーンディーゼルエンジン車に使用するエンジンオイルは、JASO規格の【DL-1】という表記があるものを選ぶ必要があります。
ガソリンエンジンと比べて、クリーンディーゼルエンジンは、オイル管理が非常にシビアです。
DL-1以外のものを使用すると、エンジンにトラブルが発生するリスクが高まるので注意しましょう。
今後は2021年に新たに制定された【DL-2】を採用する車も今後、増えてくるでしょう。
JASO規格は、日本自動車技術会規格が制定した規格です。

ACEA規格(環境基準に厳しい欧州)

欧州自動車工業会が定めるACEA規格は、環境性能やエンジン保護性能に重点を置いて制定されているのが特徴です。(API規格は省燃費性能に重点を置いている)
私たちにとって身近なAPI規格と異なり、カテゴリーによっては、ガソリン/ディーゼルエンジン共用のものもあるので、エンジンオイル選びにはある程度の知識が必要で、少しややこしいです。
国産車でもACEA規格をベースに、使用エンジンオイルを定めているものが一部ありますが、まだまだ少数派ですので、この記事ではくわしく解説しません。

エンジンオイルのグレードによる違いは?具体例も解説

エンジンオイルのグレードによる違いは性能です。
新しいものになるほどに、改良された高性能なエンジンオイルで、基本的には最新の車に適したエンジンオイルになっています。

参考:ガソリンエンジン用オイルの種類(API規格)
「SA」「SB」「SC」「SD」「SE」「SF」「SG」「SH」「SJ」「SL」「SM」「SN」「SN Plus」「SP」

SPとSNの違い(API規格)

API規格の中でも最新のSPは、一つ前のSNから10年振りとなる2020年に新たに制定されたグレードのエンジンオイルです。エンジンオイルのグレードは、その時代の車に合ったベストな改良や進化を経て制定されています。

SPとSNのグレードの違いは大きく2つあります。

  • LSPI対策
  • 耐チェーン摩耗

LSPIは簡単に言うとエンジン内部で、本来点火・燃焼するタイミングより早期の、意図しないタイミングで燃焼してしまう現象です。
最近の新型車で多く採用されている直噴型エンジン、およびダウンサイジングターボエンジンで、特に発生リスクのある現象です。
この現象はエンジンにとって深刻なもので、最悪の場合はエンジンの損傷に至ることもあります。そのような事態を予防するために、エンジンオイルにはLSPIの発生回数を大きく抑える性能を持たせることができます。
SNとSPの違いはこれら以外に、以下のようなものも含まれます。

  • SN規格における基本性能の強化
  • 使用時の省燃費性能維持の強化
  • これまでなかった低粘度オイルの本格制定

最新のエンジンオイルが良いとは限らない

最新のエンジンオイルが必ずしも、エンジンにとって良いとは限りません。
旧車に、最新グレードのエンジンオイルや現在のトレンドである粘度の低いエンジンオイルを使うと、エンジンにダメージを与える可能性があるので注意が必要です。(例:1980年代に販売されていた車に、SPの低粘度オイルを使う)

逆に最新の車に、以前に制定されたグレードのオイルを使った場合にも、同じようにエンジンにダメージを与えたり、本来の性能を十分に発揮できないことがあります。(例:最新の車にSLの粘度の硬いオイルを使う)

エンジンオイルは高いオイルも安いオイルも変わらない?

エンジンオイルは同じ粘度、同じグレードでも販売価格は商品によって千差万別です。
オイルはベースオイルと添加剤から構成されていますが、それらの種類によってオイル性能の良し悪しと、販売価格に差が生まれます。
エンジンオイルの高い/安いは、人に例えると安いお米を食べるか、高級なお米を食べるか…というのと同じです。
普通に使う分にはどちらのオイルを選択しても問題はありませんが、今後のエンジンの健康状態に差が生まれる可能性があるということです。

値段よりも大切なのはオイルがエンジンに合ったものかどうか

高いオイルが優れたオイルなのは当然ですが、安いオイルを使ったからといって、エンジンがすぐに壊れるといった心配はありません。
大切なことは、オイルのグレードや規格、粘度がエンジンに合ったものであるかどうかです。これらのポイントを抑えたうえで規格の基準をクリアしたオイルであれば、基本的になんら問題はありません。

値段よりも大切なのはオイル交換を怠らないこと

オイルは使うほどに劣化します。そのため、値段が高いオイルを使っていても、オイル交換を怠っていればなんの意味もありません。
使うオイルそのものの値段が高い/安いという問題よりも、オイル交換を怠らないことのほうが大切です。
わたし自身は、日常生活で使う車には安くも高くもないスタンダードなオイルを3,000〜5,000kmの一般的なスパンでかならず交換しています。
また、過去にモータースポーツに使用していた愛車はシビアな使用環境だったため、高級なオイルを3,000kmごとに交換していました。

【補足】エンジンオイルのベースオイルと添加剤の特徴

エンジンオイルの成分は大きく分けて8割の「ベースオイル」と2割の「添加剤」で構成されています。
配合される添加剤の種類によって、オイルの特徴や値段が大きく変わります。

ベースオイルの種類

ベースオイルはAPI規格で、5つのグループに分類されています。これを解説すると専門的な話でややこしくなってしまいます。一般的に浸透しているものとしては以下の3つの種類で分類されています。

  • 鉱物油

    →一般的に安いオイルに使われている。

    石油から蒸留・精製して不純物を取り除いたオイル。合成油と比較すると劣化が早い点がデメリットだが、自動車メーカーが扱う純正オイルとして使われていることもあるので、必要十分な性能は備えている。

  • 部分合成油
    →鉱物油と化学合成油をブレンドすることで鉱物油のデメリットを補ったオイル。化学合成油よりリーズナブルな点がメリット。
  • 化学合成油
    →もっとも不純物が取り除かれた性能の高いオイル。その分、値段が高い傾向にある。しかし、良い点ばかりではなくデメリットとしてエンジン内部のシール剤を膨潤させたり、逆に収縮させてしまう効果を持つ添加剤が含まれていることもある。(部分合成油も同様のデメリットが含まれることがある)

添加剤の種類

エンジンオイル全体で見ると、1割が粘度調整剤(粘度指数向上剤)で残り1割にその他のさまざまな添加剤が含まれています。
エンジンオイルの性能を維持・向上するための添加剤の種類には、以下のようなものがあります。

  • 粘度調整剤
  • 酸化防止剤
  • 清浄分散剤
  • 摩耗防止剤
  • 流動点降下剤
  • 腐食防止剤
  • 防錆剤
  • 消泡剤等
  • 油性剤
  • 金属不活性剤
  • 摩擦調整剤
  • 着色剤

※一部、性能が重複するものや呼び方が異なるものがあります

高価なエンジンオイルには、高価で高性能な添加剤が使用されています。

整備士のまとめ

本格的に解説をはじめると、かなり長くなってしまうほどにエンジンオイルは奥が深く、正確に理解することは整備士であっても容易ではありません。
よって、オーナーの方が間違いないエンジンオイル選びをするのにもっとも確実な方法は、車載の取扱説明書やメンテナンスノートに記載された、サービスデータにあるエンジンオイルの種類を参考にすることです。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。