ミッションオイルの交換時期は?しないとどうなる?整備士が解説

ミッションオイルの交換時期は?しないとどうなる?整備士が解説

一般的に、マニュアルトランスミッション車に使用されているミッションオイルは、エンジンオイルと同様に定期的な交換が必要です。
しかし、エンジンオイルほど馴染みがないためか、交換時期や交換しないとどうなるのか意外と知られていません。この記事では、ミッションオイルについて解説します。

ミッションオイルとは

ミッションオイルは、ギアの潤滑材としての役割を持ち、マニュアルトランスミッションの中に入っているオイルです。ギヤオイルと呼ばれる場合もあります。
ミッションオイルは以下のはたらきをしています。

  • 潤滑
  • 冷却
  • 衝撃緩衝
  • 耐摩耗
  • 耐騒音
  • 防錆

交換しないとどうなる?

ミッションオイルを交換しないと、ミッションオイルのはたらき・効果を十分に発揮できなくなります。
その結果、以下のような不具合につながる恐れがあります。

  • ミッション内部の異音の原因
  • ミッション内部の部品の焼き付き
  • ミッション内部のギヤの破損
  • シフト操作時のミッションの入りが悪くなる

そのため、ミッションオイルの交換は大切です。ただし最近ではミッションオイルの性能が上がっており、交換不要とされるケースもあります。

ミッションオイルの種類

ミッションオイルの種類を分別するとき、大きく分けて「規格」の違いと「粘度」の違いがあります。どちらもミッションオイルの性能を示すうえで大切な指標となります。
使用するミッションオイルを選ぶときには、規格と粘度の両方をきちんと確認することが大切です。
また、ミッションオイルと似たもので4WD車の駆動力を前後に分配するトランスファという機構に使われるトランスファオイルや、左右の駆動輪の回転差を吸収するデファレンシャルに使われるデフオイル(ハイポイドギヤオイル)などがあります。
これらは、車種によってミッションケース内に組み込まれていることもあるので、その場合はミッションオイルがその役割をカバーします。

(例:FF車のデファレンシャル機構はミッションケース内にあるので、ミッションオイルが潤滑している)

ミッションオイルを選ぶときのポイント

ミッションオイルは交換メンテナンスがシビアな類ではないぶん、交換の際にはオイルの選び方が重要です。ミッションオイルを選ぶときに重要なポイントとなる「規格」と「粘度」について解説します。
また、ミッションオイル選びにおいて役立つ予備知識として「ベースオイル」についても触れたいと思います。

規格

国産車ではGL規格と呼ばれる、米国石油協会(API)の定めた規格が使用されることが多いです。
GL1〜GL6までありますが、基本的に乗用車で使用するミッションオイルは、GL3〜GL5の3種類におおむね分類されています。
数値の大きいものが、その車にとって必ずしも良いというわけではなく、車種に応じて指定されたGL規格のオイルを使う必要があります。

粘度

粘度はエンジンオイルと同様に数字で表記されます。
数字の後ろに「W」がつくものは低温時の粘度を示します。

例…75W-80、80W-90、75W
※数字がそのまま温度(℃)を示しているわけではありません。

1種類の数字のみが表示されているものを「シングルグレード」、大小2種類の数字で表示されるものを「マルチグレード」と呼びます。
GL規格と同様に、車種ごとに指定された粘度のミッションオイルを使用します。
スポーツ走行をする場合や、特別な用途を伴う場合はそれに応じて粘度を選択します。

ベースオイル

ベースオイルとは、ミッションオイルの主成分となるもので大きく分けて以下の2つがあります。

  • 鉱物油
  • 化学合成油

また、化学合成油は「全合成油(100%化学合成油)」と「部分合成油」に分けられます。
一般的に安価な順に「鉱物油→部分合成油→全合成油」となります。

鉱物油とは

鉱物油は、石油を精製する工程で取り出すことができるオイルです。
性能も寿命も化学合成油より劣る、もっともベーシックなオイルです。
しかし、リーズナブルかつ今でもメーカー純正オイルとして採用されているものもあるので、まったく問題なく使っていただけます。

化学合成油とは

全合成油は可能な限りオイルの中の不純物などを取り除いたもので、劣化に強い特性があります。
オイルの基本性能が高い分、高級なオイルとも言えます。
部分合成油は、鉱物油と化学合成油をブレンドしたもので、値段を抑えつつある程度の性能を持ったオイルです。

ミッションオイルの交換時期

ミッションオイルの交換時期・頻度はエンジンオイルとは異なります。
ミッションオイルの交換の目安は走行距離20,000km~60,000kmです。ただ、MT以外に一部ATでもミッションオイルが使用していたり、MTでも無交換が推奨されていたりする場合があります。MT、ATの場合について詳しく解説していきます。

MT車の場合の目安

MT車の場合、日常使いであればミッションオイルは走行距離20,000〜60,000kmごとの交換で問題ありません。
ミッションオイルは、エンジンオイルほど交換のインターバルにシビアにならなくても大丈夫です。
また、新車時は初期の部品の馴染み具合で摩耗粉(鉄粉)が多く発生するという理由で、初回の交換のみ新車から1,000km〜10,000km程度の早いタイミングでの交換を推奨している場合もあります。
一方で一部、無交換でアナウンスされている車種もあります。
特に、最近の車およびオイルは精度や質が良くなっているので、メンテナンスが不要でも問題ないものもあります。
くわしくはディーラー等で確認してみるとよいでしょう。

AT車の場合の目安

AT車にはミッションオイルはありません。
一般的にAT車と呼ばれるモデルには、大きく分けてATとCVTがあり、それぞれにATF、CVTFと呼ばれるフルード(オイル)が使用されています。
交換目安時期は、メンテナンスフリーで無交換とされていることが多いです。
交換する場合は2〜3万kmごとを目安に定期的に交換します。
また、長い距離未交換の車でいきなり交換すると、逆に車の故障につながる恐れがあります。その場合は、あえて未交換のまま乗り続ける方が良いケースもあります。
(例:10万kmで初めてATFを交換しようすると車屋さんに断られた…などもあり得ます)
ATFやCVTFのメンテナスに関しても、ディーラーや整備工場に相談して、車に応じたメンテナンスを実施するようにしましょう。

AT車について補足

一部、一般的にAT車と呼ばれる車にも、構造上マニュアルトランスミッションと同じものが採用されている車があります。
MT車だと人間が操作するものを機械が自動で制御・操作することで、AT車と同じように走ることができるものです。
このタイプには当然ながら、ミッションオイルが使用されており、交換の目安時期はMT車のミッションオイルと同様の扱いとなります。

例:スズキのAGS、フィアットのデュアロジックなど

ホンダ、トヨタなど各メーカーのミッションオイル交換目安

各メーカー、車種ごとにミッションオイルの交換目安時期がおおむね設定されています。
【標準】と【シビアコンディション】が分かれているケースがありますが、日本国内ではシビアコンディションに当てはまることがほとんどです。
交換目安時期は、車載の取扱説明書のサービスデータ欄に記載されていることがあるので、確認してみましょう。
記載のない場合は各ディーラーに問い合わせればわかります。
トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ…等の国産自動車メーカーはシビアコンディションにおいて「40,000km〜100,000km」程度の範囲内でミッションオイル交換時期を設定していることが多いです。

各メーカーの代表的な車種の具体例

車種 標準 シビアコンディション
トヨタ 86(ZN6) 無交換 無交換
マツダ ロードスター(ND5RC/NDERC) 無交換 6万km
スズキ ジムニー(JB64W) 無交換 7.5万km
スバル インプレッサ、WRX等 4万km 4万km
ダイハツ コペン(L400K) 10万km 10万km

ミッションオイルの交換費用の目安

ミッションオイルの交換費用は5,000円〜8,000円ほどです。費用の内訳として国産乗用車の場合でミッションオイルの部品代が2,500〜5,000円、工賃が2,000円〜5,000円、必要に応じてガスケット代として数百円程度が平均的な目安となります。
スポーツカーや高価格帯の車種になると、専用の高性能オイルを使用していることもあるので、その場合は費用が高くなる傾向にあります。

ミッションオイル交換は自分でしないほうがいい

ミッションオイルの交換は、エンジンオイルの交換より難易度が高いです。
注入口にオイルを入れる時には、基本的に専用の工具などが必要なことも多いです。
また、オイル量が規定量入っているかのチェックは、この注入口からオイルが溢れ出た後に止まることを確認して行う手法が一般的です。
当然ながら、車両が水平状態でなければ正しい規定量を確認できません。
すでに解説したミッションオイルの種類の選択も重要なので、自分で交換することはおすすめしません。
基本的には、整備工場で交換依頼するようにしましょう。

まとめ

意外とそこまでシビアなメンテナンスの必要のないミッションオイルですが、交換の際は使うオイルの規格や粘度を確実に確認する必要があります。
交換作業は、プロの整備士が在籍する整備工場やディーラーにメンテナンスを依頼するのがベストです。
また、メーカーとして「無交換」設定されていてもオイルが劣化しないわけではないので、定期的に交換すること自体はなんの問題もありません。
愛車の健康のためにも、整備士からミッションオイルの交換を提案されたときには、交換してあげると良いでしょう。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。