この記事の目次 CONTENTS
「有人の自動運転」で実験はかなり進行中
社会インフラとして期待
特に高齢者との親和性は高い
私道を使うことで「無人運転」の実験が進む

ライター紹介

CAR-TOPICS編集長

村田 創 氏

大学卒業後新車ディーラーにて5年勤務。その後、中古車のガリバーへ入社。車一筋20年以上のベテランが新車から中古車まで幅広く解説します。

「有人の自動運転」で実験はかなり進行中

「究極の自動運転」を実現するために必要な走行データを公道で収集するため、アメリカでは既に「有人の自動運転」タクシーが走り回っている。

安全確保のために「緊急時だけ運転するドライバー」が待機しているが、タクシーの中が「近未来交通テーマパーク」になっていると言って差し支えない。最先端技術を投入した高額な高級車とあまり縁がなくても、このタクシーに乗車すれば同等以上の体験ができるのだから、人気が集まるのはもっともである。

百聞は一見に如かず、分かりやすい動画のURLをご紹介しておこう。
https://www.youtube.com/watch?v=OKJK3_XIGD4

社会インフラとして期待

自動運転カーは「最先端技術の集大成」というだけでは終わらない。人々の暮らしを支えて心に寄り添うような人間味に満ちた社会インフラとして期待されている。アメリカには一般的な老人ホームだけでなく、地域一帯を高齢者向けのコミュニティにしているところがあって、そこで始まった走行試験が高齢者の間で好評を得ているのでご紹介しよう。

カリフォルニア州サンノゼにある高齢者コミュニティThe Villagesでは約4000人が暮らしていて、Voyage社はここを選んで自動運転カーの走行試験を開始した。同社はウェブ講座を展開するUdacity社からスピンアウトして設立された。

特に高齢者との親和性は高い

ここの住人はゆっくり歩いているか、自転車や自動車の代わりにゴルフカートに乗っているので、普通の街中よりも自動運転を実験しやすい。グーグルやアップルから転職してきた優秀なエンジニアたちが、テクノロジーを検証して改良していくのに適した環境が備わっている。

一方、高齢者は敏捷さが衰えて運転が難しくなると、行きたいところに行き、友達に会いに行くというような自活力が目に見えて衰えてしまう。しかし自動運転で連れて行ってもらえれば、有り難いことにそうならないで済むと歓迎している。

私道を使うことで「無人運転」の実験が進む

Voyage社はフォード・フュージョンを改造した2台を配車し、速度40km/hで総延長24kmのコースを自動運転させている。公道上で適用されるさまざまな法規制を一気にクリアすることは現実的ではないので、コミュニティ敷地内の私道でひとつずつ課題をクリアしていけることは同社にとってメリットである。

自動運転の開発競争に続々参入している他社も、公道上では車の流れが混雑していたり、速かったり、時には危険なので、特定ルート上の試験走行を選択している場合が多い。自動運転シャトルバスを開発しているフランスのNavya社はアメリカではミシガン大学構内を、Appleの場合は所有地に立っている建屋の間を、試験ルートに選定している。

4000人が暮らすコミュニティで「無人運転」の実験

Voyage社のキャメロンCEOは次のように述べている。

「サンノゼ高齢者コミュニティでは公道に近いレベルで、多数の交差点、横断歩道、複数車線、回り道、工事現場、歩行者、Uターン箇所、片道通行、動物、車両、その他の様々なものと遭遇します。」

「このような複雑な道路環境のもとで日々走行距離を重ねることにより、急速に多くのことを学び改良を繰り返しています。今はまだ小さなコミュニティ内の私道で技術を磨いている段階ですが、大都市でも通用するレベルに到達するのは遠いことではありません。」

「公道で無人の自動運転」がまだ安全でない現在、開発手法は対照的な2通りがある。公道を重視する「公道で有人の自動運転」と、無人を重視する「私道で無人の自動運転」である。自動運転を過度に標榜していた会社の車が公道で重大事故を起こし、規制当局と軋轢を生じた事実を重く見て、Voyage社は無人の自動運転を安全に行える方法として後者を選んだと見られている。

投資対象として見る人も

興味深い話として挙げておきたいのは、自動運転のタクシーやシャトルバスは高齢者コミュニティのアンケートで希望サービスのトップランクを占めるだけでなく、資産運用の投資対象として有望視している高齢者さえ現れているということである。このあたりは、アメリカらしいといっていいだろう。