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一枚の名車絵 第19回 ランチア ストラトス HF(Lancia Stratos HF)


スーパーカーに胸を熱くした「スーパーカー世代」にはおなじみのクルマ、ランチア・ストラトス。ですが、ランボルギーニ・カウンタック、ミウラ、フェラーリ・BB、そしてデイトナといったほかのスーパーカーとは根本的に設計の考え方が違うことは、あまり知られていないかもしれません。

その違いとはストラトスがあくまでもラリーで勝つため「だけに」開発されたクルマである、ということです。ノーマルのロードバージョン(ストラダーレ)よりはむしろ緑と赤のアリタリアカラーのラリー仕様ストラトスの印象が強いのも、ほかのスーパーカーでは類を見ません。


◆全ては勝つための必然


ランチアは1960年代後半、V4エンジンを搭載した前輪駆動(FF)車であるフルビアHFでラリーを戦い、好調な成績を残していました。このフルビアにかわりランチアのラリーウェポンとしてストラトスは開発されたのです。短い全長とホイールベース、そして広い全幅の極端なディメンション、視界を確保する大きなフロントウインドウ、整備性を考え大きく開く前後カウル、戦闘力の高いミッドシップレイアウト(MR)などは、すべてラリーで勝つために導きだされた設計です。

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ダラーラ原案のシャーシ設計を含めストラトスの内外装デザインなどを手がけたベルトーネの当時のチーフ、マルチェロ・ガンディーニがみごとな手腕でまとめあげたエクステリアによって、ストラトスはさらに魅力あるクルマに仕上がっていました。

運転席の後部に横置きにマウントされるエンジンはフェラーリから提供されたディーノ用V型6気筒2.4リットル。もともとディーノのV6エンジンはF2用に開発されたレース用エンジンのためラリー参戦に向けてチューニングされており、最高出力はディーノの195psから190psに落とされた代わりに中低速向けのセッティングとなっています。ラリー参戦のワークス仕様では、最終的には4バルブ化され300psにまでアップしていました。


◆華やかな存在感とは裏腹に・・・


カウンタックやBBの最高速度が「300km/hだ!」「302km/hだ!」と騒ぎ、パワーと最高速度の信仰が強かったスーパーカーブーム時代。ストラトスの最高速度は230km/h、パワーも190psにとどまっていたものの、そのデザインと存在感、ラリー仕様のカッコよさなどから人気は高く、クルマ好きやスーパーカーファンならずともストラトスの知名度の高いのではないかと思います。

copyright_izuru_endo_2017_m019_stratos_1280_679(クリックで拡大)しかし、商売的には決して成功したモデルではありませんでした。レース参戦のホモロゲーションを獲得するための生産規定台数は500台で、この台数はたしかにクリアはしたのですが、ラリー用ベース車という特殊性もあったこと、フェラーリからのエンジン供給が遅れたこと、1973年のオイルショックの影響などもあり、ストラダーレの販売は苦戦。

しかもランチアの親会社となったフィアットは、いくら強くても販売に影響しないスーパーカーのストラトスよりは、市販のセダンを走らせたほうが高い宣伝効果が見込めると判断。1974年~76年には3年連続で世界ラリー選手権のコンストラクタータイトルを獲得し、今後も熟成が期待されたにもかかわらず、ストラトスでのラリー参戦を中止する判断を下しています。

知名度もあり、戦績も高い華やかな顔の裏にある悲劇の一面も、ストラトスの魅力なのかもしれません。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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