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一枚の名車絵 第12回 アルファロメオ アルファスッド スプリント(ALFA ROMEO ALFASUD SPRINT)


唐突ですが、イタリアの産業ほぼすべてに関係していると言ってもいいほどの巨大企業フィアットが民営で、走りのイメージが色濃いイタリアのアルファロメオが、かつて事実上の国営企業だったなんて、信じられますか?しかも、その国営時代で生産していたクルマは、コストのかかる凝りに凝った設計を持っていたなんて!

1960年代、長靴型と形容されるイタリアでは南北での経済格差が大きく、農業主体だった南部の近代化、工業化が急務とされました。そこで当時国営だったアルファロメオに白羽の矢が立てられ、南部ナポリ近郊のポミリアーノ・ダルコに工場が造られました。そこで生産されるアルファロメオは、「アルファロメオの南=ALFASUD」と命名され、華々しく登場したのです。1971年のことでした。


◆夢のハンドリングを実現した設計とジウジアーロデザイン


アルファスッドは、戦前は超高級車を、そして戦後は方針を転換し高性能な量産車メーカーとして名を馳せたアルファロメオのクルマが手がけるだけあって1リットル級の小型大衆車、ファミリー・サルーンでとしては類を見ない設計のクルマでした。低重心化をはかったフラット4(水冷)エンジンで前輪を駆動し、ハンドリングに影響するバネ下重量の増加を嫌ったインボードディスクブレーキを備え、リアサスペンションもワッツリンクとパナールロッドという珍しい構造を採用。これによって、当時の自動車雑誌で「夢のような」と称されたハンドリングを実現しました。なお、アルファスッドが備えていた凝った設計のいくつかは、後継の33では採用されませんでした。

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そのメカニズムをくるむボディは、ジウジアーロが線を引いています。ハッチバックの傑作であり、祖であるゴルフ1が出る5年も前に、アルファスッドは(当初ハッチバックではなかったけれど)1.5ボックスのボディ形状を採用し、全長4mを切る小さな車体の中に、クラスを超越した室内空間を実現していたのでした。

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当初1.2リットルだったエンジンは、非力という評価を受け1.3リットル、1.5リットルと進化。また、1973年にはハイパワーなスポーティ版「ti」も追加され、小型高性能車としても有名になりました。1976年にはジウジアーロによる別設計のクーペ・ボディを載せた「スプリント」も登場、1980年にはバンパーを大型化するなどの大規模なマイナーチェンジを実施、1984年まで100万台以上が製造されました。


◆低評価にして傑作の小型車


copyright_izuru_endo_2016_08_sud_1280_840(クリックで拡大)しかし、アルファスッドといえば、すばらしいハンドリングとパッケージを持つ語り継がれるべき小型車の傑作、という以外に有名な評判があります。それは、良くない評判でした。政府が思うようにアルファスッドの生産は遅々として進まなかったこと、そしてアルファスッドを形容する「錆びやすい」という致命的な欠陥、全体的な低い品質により、しまいにはアルファロメオ全体の評価も下げてしまったのです。

それでも、アルファスッドは今なお自動車の歴史において大きな存在となっており、世界で少なからず愛好家も存在しています。

イラストはそのアルファスッドシリーズの中から屈指のかっこよさを持つ、クーペ版「スプリント」です。/P>

【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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