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「もやもやクルマ選び」第5回 スズキ アルト(現行 HA36型)

レアでマニアックなだけがクルマじゃない。新型車たちにも、世間から忘れられた中古車たちにも、クルマ好きのぼくらをワクワク「もやもや」させる悩ましい魅力を持つクルマがたくさんあります。第5回は軽自動車の原点回帰のような潔い設計思想が垣間見える「スズキ アルト」(現行 HA36型)をお送りします。


◆肥大化を続ける「軽」


日本に自動車市場の大きな一角を占める軽自動車。小さな車体に小さいエンジンは軽自動車枠という限られた寸法の中で設計しなければならないためです。でもその一方で普通車に比べて税金が大幅に安くランニングコストがかからないこともあって、日本の移動手段として欠かせない存在となっています。

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軽自動車のメリットにはもうひとつ、購入金額が安い(イニシャルコストが安い)ということもありましたが、最近は軽自動車も高級化や装備の充実が進み、リッターカーよりも高額になったクルマも多く、クルマとしては絶対的に安価ではあるけれど、相対的には「軽自動車としては」安価だとは言い切れません。


◆経済的な「軽」へ原点回帰


実は軽自動車のゴージャス化は昭和40年代後半からすでにはじまっていました。そんな中、安価で勝負したクルマがありました。それを聞いて真っ先に思い出すのは、1979年に登場した初代スズキ・アルトではないでしょうか。格段に税金の安い軽ボンネットバンというジャンルに投入され、もっとも安いモデルで47万円という驚異的な価格で発売を開始した結果、スズキの計算は大当たり。大ヒット作となったのです。安価にするために助手席側ドアの鍵穴を省略するなど、そのコストダウン策は徹底していました。走るためと必要最低限の快適さだけ備えているという割り切った設計だったのです。

copyright_izuru_endo_2016_03_alto_1280_765(クリックで拡大)そして時は経て2014年。アルトもその間に進化を続け8代目となりました。高級化や装備が増えて重量も増加し、軽自動車本来のメリットである軽さや価格の安さが薄れていた中、この8代目アルトが取った戦略は、初代アルトへの原点回帰でした。もちろん21世紀のクルマですのでエアコンやパワステといった装備は必須ですが、可能な限り贅肉を削ぎ落として作ることとしたのです。

新しいプラットフォームを採用したこともあってボディ剛性を確保したまま車重は600~700kg前半に収まるようになりました。これは、それまでに比べて100kg近い減量となりました。外観もボンネットが明確なスタイルで、初代のアルトを思わせるシンプルな造形を持っています。


◆研ぎ澄まされた潔さ


プリミティブさ、潔い設計のシンプルなクルマは魅力があります。それは、機能的なアイテム、合理的な設計のものに感心するのと同じ気持ちなのではないかと思うのです。逆に言えば、そのシンプルさの魅力というのはなかなか理解しにくいことでもあります。装備が豊富で豪華で派手な内外装を与えれば、多くのユーザーにはアピールポイントとなるからです。

ですが新しいアルトは乗り味やエンジンといった中身の濃さやシンプルさで勝負をかけてきました。そのスズキのチャレンジをぼくも応援したいと思います。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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