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一枚の名車絵 第3回フィアット131アバルト・ラリー(Fiat 131 Abarth Rally)

日本でもフィアット・パンダや、最近では500がヒットし、イタリアのおしゃれな小型車メーカーとして我が国の市場でもポジションをしっかりと持っているフィアット。同社の歴史はたいへん古く、設立は1899年まで遡ります。以降、現在に至るまでの間にイタリア国内のメーカーをすべて傘下に納め、現在事実上イタリア唯一の大手自動車メーカーとなっています。なお、FIATの名前はトリノのイタリア自動車製造会社という意味である「Fabbrica Italiana Automobili Torino」の頭文字から来ています。


◆文字通りの活躍で知名度の高い「アバルト・ラリー」


フィアットは小型車を得意としていますが、フルラインメーカーでもあり、排気量1~1.5リットル級のサルーンも数多く輩出しています。逆に日本ではかわいらしい小型車(ヌオーヴァ500など)のイメージが強すぎて、これらのクルマたちはほとんどその名を知られていません。

その中でも、1974年に登場した「131」は、今回のイラスト「アバルト・ラリー」の文字通りラリーでの活躍もあり、比較的知名度の高いクルマです。


◆堅実でシンプルな実用車


イタリア最大のメーカーであるフィアットは、実際にはきわめて保守的なセダンが多く、131の前身である「124」も、プレーンでボクシーなシンプル極まりないデザインのボディにごく一般的な後輪駆動を組み合わせた、奇をてらわない実用車でした。その後継である131もまた、フィアットの屋台骨を支えるべく基本に忠実(平凡とも言う)で堅実な設計の実用サルーンとして登場しています。

1.3リッターと1.6リッターの直4エンジンも、当初は、DOHCはおろかSOHCヘッドさえも用意されず、OHVエンジンのみでスタートするほどでした。でも、手堅い設計とシンプルでクリーンなデザインをまとう131は、期待通りにフィアットの中核車種としての役割を担っていくこととなりました。なお、旧態化したOHVエンジンは、1978年からDOHC・SOHCエンジンに換装されています。


◆ラリーの主役は「ストラトス」から大衆車へ


(C)izuru_endo_Fiat131_Abarth_Rally_1280-739(クリックで拡大)ところで、当時フィアットがラリーに参戦していたウェポンは、傘下ランチアのご存知「ストラトス」だったのですが、フィアットグループの販売戦略の転換によりフィアットでラリーを戦うこととなり(「大衆車・量産型セダンでラリーを戦う」こととした)、参戦ベースとしてちょうど良いモデルとして131に白羽の矢が立てられることとなりました。そこで、フィアットのレーシング部門だったアバルトが131の2ドアセダンをベースにラリー・ウエポンに仕立て上げたのが「131アバルト・ラリー」です。

エンジンは2リッターDOHC16バルブとされ、ウェーバーのツインキャブによって市販仕様で140ps、クーゲルフィッシャーの機械式燃料噴射を備えた参戦仕様で215psオーバーを発生。外観は当時ベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニの手によってデザインされたFRP製のオーバーフェダーや前後スポイラーで武装され、ドアはアルミ製とされ軽量化。ノーマルの131ではリンク式だったリアサスは独立懸架に変更されています。


◆複雑な工程で生み出された400台のメイクスチャンプ大衆車


131アバルト・ラリーの製造は、フィアットの工場でボディシェルだけの状態でベルトーネに送られて外装を装着、その後また別のフィアット工場に運ばれて、アバルトがチューンしたエンジン、サスペンションを組み付けるという手間のかかった手順で製造されています。

こうして製造された131アバルト・ラリーは、ラリー参戦に必要なグループ4ホモロゲーションに必要な400台を販売し、1976年から参戦を開始。結果、1977、1978、1980年のメイクスチャンピオンを獲得するに至っています。見るからにハコハコしたクルマが速い、というクルマ好きの琴線を震わせるフィアット131アバルト・ラリーは、まさに語り継がれる名車のひとつと言えるでしょう。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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