ハッチバックの本場といえば、やっぱりヨーロッパだ。各メーカーが力を入れており、魅力的なモデルも多い。クラス的には、よりコンパクトなBセグメントと今や日本流でいうところの3ナンバーサイズにまで拡大傾向にあるCセグメントに分れているが、今回は後者のCセグメントを取り上げてみよう。このクラスの中核に位置するのが、お馴染みのVWゴルフ。初代から現在に至るまで、世界的なFF2ボックスのベンチマークと言われているほどで、走り/パッケージング/品質において、高いレベルを確保し、我々を驚かしてもくれる。さらにコンパクト王国のフランスを代表するのが、フルモデルチェンジしたばかりのプジョー308だ。強烈なインパクトを持ったデザインだけでなく、エンジンはBMWと共同開発することで、猫足はそのままに走りの質も高めてきている点に注目したい。

PHOTO/和田清志 構成/近藤暁史        

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プジョー 308
フォルクスワーゲン ゴルフ

ライター紹介

自動車ライター&エディター

近藤 暁史 氏

某自動車雑誌の編集者から独立。その前はファッションエディター(笑)。とにかくなんでも小さいものが好きで、元鉄チャンで、今ではナローゲージを大人買い中。メインのクルマは19歳の時に買ったFIAT500。エンジンのOHからすべて自分でやり、今やもうやるところがない状態でかわいがっております。表向きは自動車ライターながら、業界唯一の省燃費グッズの評論家というのがもうひとつの顔。

プジョー 308

307から7年ぶりの新型登場 プジョーらしさをさらに強調

 プジョー307の登場以来、7年目にしてやっと新型として姿を現わしたプジョー308。待望の1台といっていいのだが、各部においてプジョーらしさを強調したその内容は期待を裏切るものではなかったというのが正直なところだ。まずは見た目からだが、ボディサイズが307に比べてひと回りほど拡大されたこともあって、ますますワイドな印象に。そこに今まで以上に大きくツリ上がったライトや黒い樹脂をうまく利用した個性的な形のバンパーなど、これでもかというほどあしらい、強烈な個性を演出している。どこから見ても最新のプジョーらしさが感じられる。
 さらに308のなかでもっとも力を入れたと胸を張るのが、インテリア。大人4人がしっかりと座れるスペースを確保しているだけでなく、ソフトな素材でインパネまで覆うなど、独特の質感を醸し出している。
 そして走りにおける大きなトピックスはエンジンがBMWとの共同開発となるということ。日本仕様に関しては、1.6リッターで2タイプが用意され、どちらもターボを採用。スペックに関しては140馬力と175馬力とかなりの差が付けられているものの、小型タービンを採用することで、低回転からしっかりと力が出るように味付けされており、じつに扱いやすいユニットに仕上がっている。グレードについては、ターボ(140馬力)と4速ATの組み合わせが「プレミアム」(5ドア)と、パノラミックガラスルーフとフルレザーシートの「シエロ」(5ドア)。そして175馬力のターボと6速MTによるダイナミックな走りが楽しめる「GTi」(3ドア)となる。

[エコ&燃費]
 140馬力仕様の燃費は10.8km/Lとし、1.6リッターのターボとしては問題のない数値。ただし、175馬力仕様に関しては、燃費データを公表していないのは残念なところ。恐らく、10.0km/Lは切ってしまうと思われるのは、ライバルたちと比較してみても少々厳しい。

[安全性能]
 200万kmにも及ぶ実走テストを繰り返したというだけに、走りだけでなく、安全性も高いレベルを確保。ユーロNCAOのスモールファミリカークラスで高い評価を獲得している。安全装備は横滑り防止のESPや7つのエアバッグの標準装備化。5人分の3点式シートベルトの採用など、かなり力が入っている。

[取材時実測燃費]
8.4km/L

[308価格帯]
299.0〜384.0万円

BMWと共同開発した1.6リッター ターボ エンジンを搭載する。140馬力と175馬力の仕様があるが、どちらも低回転域でも扱いやすい特性だ。

16インチサイズのタイヤ&ホイールを装着。しなやかな足まわりのセッティングのおかげもあり、プジョーらしい快適な乗り心地が特徴だ。

最近のプジョーはボディの幅を広くとる傾向にあり、左右の余裕はかなりのもの。運転席からの視界はいいので狭い道での取り回しもまずまず。

エンジンこそミニと基本的には共通だが、ミッションには大きな違いがある。308は4速ATのみとなるので、走りの雰囲気もやや古くさいイメージだ。

フロントシートまわりのスペースは十分確保されている。特に左右方向の余裕はかなりのもの。ドライビングポジションも自然になった。

307に比べてリヤシートのスペースは広くなった。十分実用に耐えるスペースがあり、足元や頭上の空間にもそれなりの余裕は確保されている。

ラゲッジスペースはまずまずの広さを確保している。トランクスルー機構を装備しているので、リヤシートをたたまずに長尺物の搭載も可能。

リヤシートはダブルフォールディングさせるタイプなので段差はできない。だが完全にフラットにはならず、かなり斜めになってしまう。

プジョー 308 プレミアム
ボディサイズ(全長x全幅x全高) 4290×1820×1515mm
車両重量 1360kg
エンジンタイプ 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1598cc
最高出力 140ps(103kw)/5800rpm
最大トルク 24.5kg-m(240N・m)/3500rpm
ミッション 4速AT
10・15モード燃費 10.8km/l
サスペンション(前/後) ストラット/トーションビーム
ブレーキ(前/後) ベンチレーテッドディスク/ディスク
税込価格 299.0万円

フォルクスワーゲン ゴルフ

強力に過給エンジン化を推進 パワーと燃費を高いレベルで両立

 初代ゴルフ登場からちょうど30年目に誕生したのが5代目ゴルフだ。コンセプト自体は初代より一貫しているものの、新型では走りのポテンシャルアップをベースとしたプレミアム性の向上を目指している。パッケージングを中心としたゴルフの使い勝手については今さら語る必要もなく、大人4人と荷物がしっかりと積めて、長距離ドライブでも疲れないクリアランスや乗り心地を確保。とくに最初は硬いと感じるシートも、次第に体に馴染んでくるあたりは、初代からの伝統といっていいだろう。ドイツ車らしく色気はないが、じっくりと使い込むことで味が出てくるタイプだ。
 そして5代目ゴルフの最大の特徴は走りにある。当初はGLiやEといった実用グレードも用意されていたが、2005年に登場したターボとDSGを組み合わせたGTIの登場を皮切りに、ハイスペック化。といっても、ただ単にパワーを追求するのではなく、直噴と過給を組み合わせて緻密な制御を行なうことで、省燃費性能も高いレベルで両立させている。
 また衝撃的だったのが、世界でもあまり例がないスーパーチャージャーとターボによる2段過給を行なうTSIユニットの登場。1.4リッターで170馬力を発揮し、DSGとの組み合わせでスポーツカーも顔負け。掛け値なしでキビキビとした走りを楽しむことができる。その後、NAはR32に積まれる3.2リッターV6のみとし、すべて過給エンジン化。ひと口に同じ1.4リッターのTSIといっても、140馬力のツインチャージやシングルチャージャーも加わり、後者は世界初の横置き7速DSGと組み合わされる。

[エコ&燃費]
 ターボやスーパーチャージャーの積極的な採用というと燃費は悪いように思えてくるが、直噴化や高圧縮化することで、省燃費自慢でもある。たとえばツインチャージTSIのGTIで14.0km/L。さらにシングルチャージのTSIに至っては15.4km/Lというスペックを誇る。もちろん省燃費は排出ガスの低減にも威力を発揮する。

[安全性能]
 まずはVWらしく、現行型から4リンク化されたリヤサスペンションなども危険回避のためと位置づけている。さらに横滑りを防止するESPについても、さらに制御を緻密なものにして安全性を高めている。パッシブセーフティに関しては、計8個のエアバッグ標準装備。後席両側へのフォースリミッター付シートベルトテンショナー採用など、さすが高いレベルを確保している。

[取材時実測燃費]
10.7km/L

[ゴルフ価格帯]
248.0〜452.0万円

最近のフォルクスワーゲンは、積極的に過給器付きエンジンを搭載している。こちらはツインチャージャー仕様でパワフルさと低燃費を両立した。

15インチサイズのタイヤ&ホイールは路面からの突き上げ感やロードノイズが少なく快適な乗り味だ。またハンドリングのバランスもいい。

実用性を重視した質実剛健な印象のインテリア。パッケージングも優れており、室内の広さはライバルに対して大きなアドバンテージとなっている。

6速DSGはMTと同様のダイレクト感ある走りと、変速時間の短さが最大の特徴だ。マニュアルモードもあり、かなりスポーティな走りが楽しめる。

見た目は平凡だが、しっかりと体を包み込んでくれるので長距離ドライブでも快適だ。パッケージングも見事で、その広さは想像以上だ。

座面の硬さも適度で、リヤシートでも疲れにくい。パッケージングのお手本ともいえるゴルフだけに、頭上や足元にも十分な余裕が感じられる。

ラゲッジの広さはかなりのもの。ボディサイズから想像する以上に大きな荷物も積み込むことができる。実用性の高さはクラストップレベルだろう。

プジョー 308ほどではないが、ゴルフもフロアは完全にフラットにはならない。このあたりは国産のハッチバックモデルの方が優秀だといえる。

フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン
ボディサイズ(全長x全幅x全高) 4205×1760×1520mm
車両重量 1390kg
エンジンタイプ 直列4気筒DOHCターボ+スーパーチャージャー
総排気量 1389cc
最高出力 140ps(103kw)/5600rpm
最大トルク 22.4kg-m(220N・m)/4000rpm
ミッション 6速AT
10・15モード燃費 14.2km/l
サスペンション(前/後) ストラット/4リンク
ブレーキ(前/後) ベンチレーテッドディスク/ディスク
税込価格 289.0万円

プジョー 308は猫足と評されるしなやかで快適な乗り心地が最大の魅力だ。またエンジンの特性も扱いやすいもので、街中から高速道路まで不満のない走りを披露してくれる。ただATが4速というのは乗り味だけでなく、燃費の面でも不利な要素だ。またフォルクスワーゲン ゴルフはツインチャージャーの利点を最大限に活かし、パワフルな走りと低燃費を両立させたのが特徴。乗り心地もよく、実用車のお手本のようなクルマだといえる。