スバルが提案! 新しいAWDスポーツのカタチ
インプレッサのイメージリーダーが、走りを極めた"WRX STI"だ。その3代目は、新しいAWDスポーツのカタチを提案した。ドライバーズカーの本質である「意のままに操る愉しさ」に、上質なプレミアムスポーツとしての味わいを加えたのが3代目である。その心臓は、熟成の域に達した2.0LのEJ20型水平対向4気筒DOHCツインスクロールターボだ。最高出力は227kW/6400rpm、見慣れた馬力表示では308psになる。最大トルクは今までと同じ422Nm(43.0kg-m)/4400rpmに据え置かれた。トランスミッションはシンクロを強化した6速マニュアルを組み合わせている。
言うまでもなく、エクステリアは6月に登場した5ドアハッチバックのインプレッサがベースだ。これまでの2代は、セダンボディを身にまとっていた。が、3代目はWRCドライバーであるペター・ソルベルグの意見を採り、競合力のある5ドアとしている。フロントマスクやフェンダーなどは専用デザインだ。見栄えのいいステンレス製のメッシュグリルを採用し、ファットな245/40R18サイズのタイヤを覆うため、グラマラスなワイドフェンダーを採用した。1795mmの全幅は、WRCの規定に沿って決定したものである。
フロントのワイドフェンダーの後端には、エンジンルーム内の熱気を逃がすスリットを刻んだ。エアロインテークとエアアウトレットは数多く設けられた。これを見てもエアロダイナミクスと熱対策を徹底していることがわかる。もちろん、ゼロリフトも達成した。リアビューでは大きなルーフエンドスポイラーと左右4本出しのマフラーが目を引く。
世界戦略車なら、もっと質感を高めてほしいところ
インテリアはインプレッサに準じたデザインだ。だが、ブラック基調に、シルバーの加飾パネルを効果的に配し、スポーティムードと上質感を高めている。ただし、もう少し大人のムードが欲しい。シルバーの加飾が多すぎて鼻に付くし、インパネ上面もドアも樹脂の打ちっぱなしで、品質感が乏しい。定番だったMOMO製の本革巻きステアリングの採用も見送られている。世界を相手にするクルマなのだから、質感をもっと高めてほしいと思う。
メーターは常時発光式のレッドルミネセントメーターだ。3眼メーターの中央に据えたタコメーターは、他の2つより大径で見やすい。スピードメーターはフルスケール260km/hだが、180km/hでリミッターが作動する。フロントシートはレザーと合成皮革アルカンターラのコンビシートだ。バケット形状で、ホールド性は今一歩だが、乗降性はいい。ホットな走りをするドライバーは、オプション設定のレカロ製シートをおすすめする。ホイールベースを延ばしたことにより、後席の膝元スペースも大幅に広げられた。快適性を高めるセンターアームレストも付いている。
最初にステアリングを握ったのは、F1が開催された富士スピードウェイのフルコースだ。アクセルを目いっぱい踏み込み、シフトアップを促す8000回転のレッドゾーンまで引っ張ってみる。シートバックに押し付けられる強烈な加速Gを感じ、加速に弾みがつくのは4000回転から上の領域だ。1速ギアの限界は70km/h、2速ギアでは軽々と100km/hを超えた。3速ギアでは150km/hに迫る実力を備えている。シフトアップするたびにタコメーターの針は5500回転前後に落ちた。そこからアクセルを踏み込むと、再びおいしいパワーゾーンを使える心憎いギア設定だ。6速MTは剛性感が高められ、素早いシフトでもギア鳴きを起こさない。シフトフィールも素晴らしかった。
ターボ効果が認められるのは2000回転をちょっと超えたあたりからである。後日、一般の道も走ったが、予想以上にフレキシブルだった。渋滞した街中の走りも苦にならない。
フルタイム4WDを採用するSTIは、センターデフの差動制限を、カム式のトルク感応型LSDに加え、電子制御多板クラッチのLSDで行っている。センターデフの拘束率を電子制御で変化させるマルチモードDCCDは、オートと6段階に調整できるマニュアルの2モード設定だ。オートモードには、効き具合を変えられるプラスとマイナスの設定プログラムも組み込まれた。これは便利だ。ドライバーが好む、クルマの挙動を自在に選べる。滑りやすい路面ではオート(+)のポジションが威力を発揮した。リアの踏ん張りが利くので安心してコーナーを攻めることができる。
ドライ路面でオート(−)にすると、アクセルワークとステアリング操作によって自在にクルマの向きを変えることができた。ハンドリングは4WDであってもFR的な挙動で、俊敏な身のこなしを見せる。リアのスタビリティ能力は際立って高く、コントロール性も素晴らしかった。しかも思いのほか乗り心地がいい。