ブレーキキャリパーは使用過程における部品の劣化や錆の影響で正常に機能しなくなることがあり、最悪の場合は車検に通らないこともあり得ます。
確実で安心なブレーキ性能を復活させるためには、オーバーホールと呼ばれる分解修理が必要になります。
この記事ではオーバーホールにかかる費用や、キャリパーの固着が起きる要因について現役の整備士が解説します。
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- ブレーキキャリパーとは
- ブレーキキャリパーのオーバーホールをする目安は?
- ブレーキキャリパーが固着する原因
- ブレーキキャリパーのオーバーホール、交換費用の目安
- 引きずり等を起こしている場合はパッドやローター交換の可能性もあり
- ブレーキキャリパーのオーバーホールのDIYはおすすめしない
- 整備士のまとめ
ブレーキキャリパーとは
ブレーキキャリパーは、制動力をかけるためにブレーキパッドをブレーキディスクローターに押さえつける働きをする部品です。
現代の車ではフロントはブレーキキャリパータイプのブレーキを採用しており、リヤは軽自動車やコンパクトカーを中心にドラムブレーキが採用されていますが、それ以外はフロント同様にブレーキキャリパータイプが使われています。
主流の浮動型とハイパフォーマンス車向けの対向型
ブレーキパッドは、ブレーキディスクローターを挟み込むかたちで2枚ついています。
内側の片側のみをピストンが直接押して、もう片側(外側)はその反力を利用してキャリパーが動いてブレーキパッドを押すタイプを浮動型キャリパーといい、多くの量産車で採用されています。
一方で内外どちらも直接ピストンがブレーキパッドを押す構造を、対向型ブレーキキャリパーといいます。
ブレーキキャリパーを構成する部品
ブレーキキャリパーを構成する部品は、大きく分けると以下のとおりです。
- キャリパーボデー
- ピストン
- スライドピン(浮動型のみ)
さらに細分化することもできますが、一般的にはこの3つの部品からできていると理解しておけば問題ありません。
オーバーホールするときは、おおむね以下の箇所の整備をおこないます。
- ピストンに付随するシールやダストブーツを交換
- ピストン本体も場合によっては交換
- スライドピンのダストブーツを交換、場合によってはスライピンの清掃または各部の錆落としや清掃、グリスアップを実施交換
- ブレーキフルードのエア抜き
ブレーキキャリパーのオーバーホールをする目安は?
ブレーキキャリパーをオーバーホールする目安は、使用環境によって大きく異なります。
融雪剤の使われる地域や、海に近く塩害の影響を受ける地域だと、それらの影響のない地域と比べると錆による影響で極端にオーバーホールが必要となるタイミングが早くなります。影響のない地域だと15〜20年、20万km乗ってもオーバーホール無しで問題ないこともあるので、実際にはキャリパーオーバーホールをしたことがないオーナーさんも多いでしょう。
車のメンテナンスは予防整備も含めて、しっかりお金をかけて行いたい方は、「10年、走行距離10万km」を目安にオーバーホールを検討すると良いでしょう。
一方で、塩害の影響がある地域であれば、「5年(新車から2回目の車検)程度」で一度、オーバーホールが必要かチェックしてもらうことをおすすめします。
一般的にブレーキキャリパーのオーバーホール(または交換)はフルード漏れが発生したり、ブレーキの効きが悪い、ブレーキに引きずりを起こすような車検に通らない状態、もしくはその予兆があるときに、ブレーキキャリパーのオーバーホール(または交換)を実施します。
ブレーキキャリパーが固着する原因
ブレーキキャリパーが固着するのは基本的に錆が原因です。
キャリパーピストン、スライドピンの部品が錆で動きが渋くなると、最終的にはブレーキキャリパーが固着してしまいます。
ピストンが錆で固着すると、ブレーキパッドを押せなくて効きが悪くなったり、逆にブレーキパッドを押したままピストンが戻らなくなりブレーキが引きずったりします。
スライドピンが原因となるのは、浮動型キャリパーです。こちらもピストンの固着と同様の症状につながります。ただしブレーキの構造上、不具合として発生するのはパッドを押したまま戻らなくなる引きずりのパターンが多いです。
ブレーキキャリパーのオーバーホール、交換費用の目安
ブレーキキャリパーのオーバーホール費用の目安は「15,000円〜/1箇所」です。場合によってはピストンの交換が必要になるため「+3,000円〜/1個」追加されます。
また、ブレーキキャリパーの交換費用は「40,000円〜/1箇所」です。
オーバーホールの費用の内訳を解説
ブレーキキャリパーのオーバーホールの費用の内訳は、部品代(シールキット、ブレーキフルード)と工賃です。シールキットは数千円程度の部品代です。
点検の結果や設定部品の内容によって、悪くなっているキャリパーのみのオーバーホールとなることもあれば、予防も含めて左右同時にオーバーホールになることもあります。
また、ピストンの錆が酷い場合は再使用できないことがあります。
劣化したピストンをそのまま使用すると、シール類の早期劣化や、ピストンの摺動不良、フルード漏れを引き起こす可能性があるためです。
キャリパー交換の費用の内訳を解説
キャリパーの交換費用の内訳は、部品代(キャリパー本体、ガスケット、ブレーキフルード)と工賃です。オーバーホールするよりも工賃設定は安いですが、部品代が高額となります。キャリパー1個あたりの部品代は3万円〜が目安です。
高性能なブレーキキャリパーや、車が大きくなるほど値段は高くなり、逆に軽自動車のキャリパーは普通乗用車と比べると安くなる傾向にあります。
引きずり等を起こしている場合はパッドやローター交換の可能性もあり
ブレーキキャリパーのオーバーホールや交換と合わせて、ブレーキフルードのエア抜き(交換作業)が必須になりますが、それだけではなくブレーキパッドやブレーキのディスクローターの同時交換をお勧めされることがあります。
この場合、費用はすでに解説したものに上乗せされます。単純に摩耗で交換時期を迎えている場合もあれば、ブレーキの引きずり等が発生していると高温になってクラック(割れ)が発生していたり、偏摩耗があるので交換が必要と判断されることがあるためです。
このあたりはプロの整備士さんの点検を通して、判断してもらいましょう。
ブレーキキャリパーのオーバーホールのDIYはおすすめしない
ブレーキキャリパーのオーバーホールのDIYはおすすめしません。
ブレーキは重要保安部品であり、車の性能のなかでも「止める」という安全に直結する、最重要な部品のひとつです。DIYでやるにはハードルが高く、ただオーバーホール(部品交換)すれば終わりではなく、ブレーキのエア抜きといった付随作業も必要です。
万が一のことがあったときには、ご自身の安全のみならず周囲の人・物に対しても安全を脅かす恐れがあるので、ブレーキキャリパーのオーバーホールは整備工場に依頼するようにしましょう。
整備士のまとめ
ブレーキキャリパーのオーバーホールは、自分でやることは難しく、整備工場で必要かどうか、どこまでの整備が必要かを判断してもらうことになります。
車を長く乗り続ける場合や塩害のある地域を中心に、車のメンテナンスとしていつかやる必要の出てくるものです。
ブレーキは非常に重要なパーツなので、修理を後回しにしたりせずに、メンテナンスが必要なことが分かったら、早急に整備工場で修理してもらうようにしましょう。
- Supervised by 整備士 ヒロ
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保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。