復活で話題のロータリーエンジンとは?仕組みやメリット・デメリットを解説。

待望のロータリーエンジン復活のニュースが、車好き達を賑わせています。
一方で、従来の純粋なパワートレインではなく発電用としての採用という点に賛否両論あります。
しかし、ロータリーエンジンはマツダだからこそ実用化できた特別なエンジンです。
現代の車に再び搭載することができたことは、メーカーの涙ぐましい努力や葛藤があったことは想像に難くありません。
ロータリーエンジンに馴染みのない方々に、ロータリーエンジンについて整備士が解説します。

11年ぶりに復活したマツダのロータリーエンジン(発電用)

ロータリーエンジンを量産車に搭載し、長きにわたって販売してきたのは世界中でマツダだけです。
近年のマツダのロータリーエンジンの変遷を辿ってみましょう。

2012年にRX-8が生産終了

RX-8の車両画像

2000年代以降だと、RX-7(FD3S)からRX-8(SE3P)が、ロータリーエンジンを搭載した専用モデルとして販売されていました。
2012年に生産終了したRX-8を最後に、世の中からは新車で購入できるロータリーエンジンを搭載した車が無くなりました。

生まれ変わったロータリーは発電用エンジン

この度、ロータリーエンジンはMX-30というマツダの小型SUVに搭載され、復活に至りました。
これまでは、2つまたは3つのローターを備えた高性能スポーツカー、またはスペシャリティカーというイメージが強かったロータリー搭載車。
しかし、MX-30に搭載されるロータリーは1つのみで、プラグインハイブリッド車の発電用エンジンです。過去に販売されていたロータリーエンジンとはイメージが異なるかもしれませんが、今の時代に合った、今の時代だからこそ世に出せる形として復活できたことに、純粋にひとりの車好きとして喜びたいですね。

ロータリーエンジンはなぜなくなった?

今回、発電用エンジンとして市場に復活したものの、そもそもなぜ過去にロータリーエンジンが新車市場から姿を消すことになってしまったのでしょうか。

ロータリ―エンジンがなくなった要因として、排ガス規制に適合が出来なかったことが挙げられます。

最後の量産車RX-8は欧州で排ガス規制に適合できず

ロータリーエンジン最後の搭載車となったRX-8は、2010年にヨーロッパでの排ガス規制ユーロ5に適合できなくなり、ヨーロッパでの販売が終了しました。
その3年後の2013年4月を最後に、国内販売も終了となりました。
これは、ヨーロッパでの販売終了も含めた市場の縮小や、エコとは真逆のイメージ(燃費が良くない、エンジンの耐久性も普通のレシプロガソリンエンジンに比べて劣る)といった、様々な要因が考えられます。
そもそも専用パーツが多く生産コストがかかる車ですが、スポーツカーは多くの販売台数が見込めないので、十分な利益として回収できたとは素人目にも思えません。
メーカーが健全な経営をする上でも、販売継続は厳しいものがあったと想像できます。
単純に魅力的な車というだけで、販売が続けられるものではありません。

これまでも排ガス規制との戦いだった

ロータリーエンジンは、これまでも排ガス規制問題との戦いでした。
実はRX-8の前に販売されていたRX-7も、排ガスの規制に適合できずに生産を終了しました。
ちなみに、RX-7はターボ(過給機)を備えたロータリーエンジンで、RX-8はNA(自然吸気)です。

新車販売はなくてもエンジンの生産は継続されていた

ロータリーエンジンがなくなったのは、あくまで新車販売される車の話です。
ロータリーエンジンそのものは、これまで途切れることなく生産され続けていました。
ロータリーエンジンは、他のメーカーにはない唯一無二のエンジンであることから、世界中にファンが多く、数十年経過した車でも大切に乗られていることが多いです。
当然、長く乗り続けているとエンジンは寿命を迎えることもあります。
その時はエンジン内部の部品交換(オーバーホール)や、エンジンの載せ替えをおこないます。
そのための部品やエンジン本体を生産し続けていたということです。

ロータリーエンジンは何がすごい?

ロータリーエンジンのすごさはモータースポーツでの優勝記録や技術的に量産化が難しいという点にあります。

モータースポーツでの歴史

マツダのロータリーエンジンを語る上で欠かせないモータースポーツでの功績として有名なものを2つ紹介します。
ひとつは、日本国内のレースシーンで無敵を誇ったスカイラインGT-Rの連勝記録を、46連勝でカペラロータリーが止めたことです。
また、世界に目を向けると、1991年に世界三大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レースで、4ローターエンジンを搭載した787Bが、日本メーカーとして初の総合優勝を果たしました。
2018年にトヨタがル・マンを制覇するまでの27年間もの長い間、日本メーカー唯一のル・マン覇者が、ロータリーエンジンのマツダだったのです。
こうした歴史もあって「ロータリー=スポーツカー」というイメージが強いです。

ロータリーエンジンは夢のエンジン!?

ロータリーエンジンの実用化を成功させたのは1957年、ドイツの技術者フェリクス・ヴァンケルです。
その後、このヴァンケルエンジンの持つロータリーエンジンならではの多くのメリット(後ほどくわしく解説)から、当時は「夢のエンジン」「未来のエンジン」とも呼ばれました。
トヨタやメルセデスも含めた世界各国の名だたる有名自動車メーカーが研究に着手します。
しかし、机上の理論と現実には大きな乖離があり、量産化は非常に困難な道のりでした。
オイルショックの時期と重なったこともあり、多くのメーカーが開発の中止に追い込まれます。
結果、市販車に搭載したメーカーは他にもあったものの、自動車用として量産化に成功したのはマツダのみでした。

ロータリーエンジンの仕組み

ロータリーエンジンは、ほかのエンジンと比較して、そもそもの構造がまったくの別物です。
どういった点が異なるのか主なものを解説します。

ロータリーは回転運動、レシプロは往復運動

一般的に、車に搭載されているエンジンはレシプロエンジンと呼ばれ、シリンダ内をピストンが上下の往復運動を行うことで動力を生み出しています。
一方のロータリーエンジンは回転運動によって動力を生み出します。
繭状のローターハウジングの中を、三角のおにぎりのような形をしたローターが回転することで、内燃機関の基本である「吸入→圧縮→燃焼→排気」をおこなっています。

バルブの開閉機構がない

ローターハウジング、またはその側面にあたるサイドハウジングに吸入空気の入り口と排気ガスの出口があります。
これらの出入り口は、ポートと呼ばれます。
レシプロエンジンに必ずある弁(バルブ)がなく、シンプルに穴が空いているだけの構造です。
ローターの回転運動において、このポートが開閉されるので、バルブが必要ないのです。
エンジンの部品点数が少ないとされるロータリーエンジンの、特徴の代表的な例のひとつです。

シール点数が多い

レシプロエンジンの場合、円筒状のシリンダ内を往復運動するピストンには、燃焼室内の気密を保つためにピストンリングが装着されています。
ピストンリングは通常、オイルリングも含めて1気筒あたり2〜3本使用されます。
一方でロータリーエンジンには、ピストンリングの代わりとなる以下のシールが用いられています。

  • アペックスシール
  • サイドシール
  • コーナーシール
  • オイルシール

エンジン全体の部品点数は、レシプロエンジンに比べて圧倒的に少ないのですが、エンジン内部の気密を保つためのシールは細かく複数に分かれているのがロータリーエンジンの特徴です。

ロータリーエンジンのメリット・デメリット

ロータリーエンジンは、一般的なエンジン(レシプロエンジン)と比較して以下のような特徴(メリット)があります。

  • 小型
  • 軽量
  • 低騒音
  • 低振動
  • 高出力
  • 部品点数が少ない

一方でデメリットは、以下のようなものがあります。

  • 燃費が悪い
  • 冷却損失が大きい
  • 低速トルクが細い(エンジンブレーキが弱い)
  • エンジンオイルの消費量が多い
  • エンジンの寿命が短い傾向にある

メリットを中心に、それぞれ分かりやすく解説します。

小型化と軽量がもたらす多くのメリット

エンジンが小型かつ軽量なので、エンジンルームにコンパクトに収めることができます。
それによるメリットとして以下のようなものがあります。

  • フロントミッドシップレイアウトが可能
  • 前後重量配分に優れている
  • 低重心化が可能
  • 運動性能向上

これらのメリットにより、車そのものの運動性能が上がります。
また、小型である点が発電用エンジンとして非常に有効です。

低騒音

今となってはハイブリッド車の登場や、技術の進歩によって、ロータリーが低騒音というイメージは少ないかもしれません。
しかし、普通のエンジンの音と比べても、バラツキのない非常に滑らかなエンジン音は、非常に聞き心地が良いです。

低振動

低振動は、そのまま乗り心地に直結します。
また、発電用エンジンとしても有効なメリットです。

高出力でスポーティな走り

エンジンそのものは小型かつ軽量でありながら、高出力である点も特筆すべき点です。
先述のRX-7やRX-8に搭載されているロータリーエンジンは2基です。
上記車種のロータリーエンジンの総排気量は、654cc×2=1308ccです。
実は排気量そのものは、現在のコンパクトカーなどと同等程度です。
しかし、他の排気量の大きい国産スポーツカーと肩を並べる高い出力を誇るのが、ロータリーエンジンの特徴です。
そうした理由もあり、特例で自動車税は2Lエンジン車相当となっています。

部品点数が少ない

ユーザーがメリットを感じることは少ないかもしれませんが、エンジンそのものの部品点数が少ないこともメリットのひとつです。
エンジンをオーバーホールする時の、部品検索の手間が減ったり、少ない交換部品で済む、整備性が良いといったことに繋がります。

デメリット

一方で大きなデメリットとして、燃費が悪いことが第一に挙げられます。
エコに注目が集まるなかで、ロータリー搭載の新車が消えた要因のひとつです。
またエンジンの構造上、冷却損失が大きいので水温や油温が高温になりやすく、油脂類の劣化が早いです。
さらに、潤滑のためにエンジンオイルを燃焼室内に供給する構造のため、オイルの消費量が多いです。
これらの理由により、普通のエンジンよりシビアなエンジンオイルの管理が求められます。
また、低速トルクが低いので、エンジン回転数が低いときにパワーが出にくい構造です。
これは、ロータリーはエンジンブレーキが弱い要因のひとつでもあります。
しかし、逆にロータリーは低回転から高回転まで滑らかにエンジンが回るとも言えます。
そして、トータルでレシプロエンジンより寿命が短い傾向にあります。(マツダ以外のメーカーが量産化出来なかった理由のひとつでもある)
10万km前後になると、専用のコンプレッションテスターを使用して圧縮比を点検し、エンジンの状態を確認することは、ロータリーエンジンの整備あるあるです。

【補足】ロータリーエンジンの故障原因と対処法

ロータリーエンジンによくある「エンジンの掛かりが悪い」不具合には複数の原因が考えられます。
補足的に、対処法を含めてここで紹介します。

  • スパークプラグが被っている

スパークプラグにガソリンが付着しており、きれいな点火ができていないことで始動不良・不能に。
デチョーク機能(アクセルペダル全開でスターターを回すことで、燃料噴射を停止し、燃焼室内を掃気)を実施。必要に応じてスパークプラグを取り外して、湿り気を除去する。走行時のエンジン回転が低回転になりがちなAT車は、特に被りやすいので注意が必要。

  • スパークプラグが劣化している

スパークプラグが劣化し、点火火花が弱っていることで、被りやすくなったり始動性が悪くなる。この場合、スパークプラグの交換が必要(例:RX-8の場合、メーカー推奨6万kmごと)

  • スターターモーターの力が弱い

RX-8の前期モデルは、スターターモーターの力が弱く、特にスパークプラグが被りかけの時にエンジンを掛けきれずに、始動不良・不能につながることがあります。
そのため、対策品のスターターモーターが設定されています。
対象のモデルの場合は、一度ディーラーなどで確認してもらうとよいでしょう。

  • エンジンの圧縮比が下がっている

エンジンの圧縮比が下がっていることも始動性悪化の要因のひとつです。
スパークプラグを取り外して、少量のエンジンオイルを注入することで、擬似的ですが一時的に圧縮比を上げることができ、これまで掛けることができなかったエンジンを掛けられることがあります。
ただし、これは応急での方法になります。
メンテナンスの状態にもよりますが、7〜8万km以上走っている場合は、圧縮比の測定をしてエンジンの状態を確認し、診断してもらうことをおすすめします。

まとめ

「ロータリーエンジンを作り続けることは、マツダの使命」と、マツダの開発者は語っています。
ロータリー初の直噴化や、1ローターあたりの排気量UPなど、さまざまな改良によってロータリーエンジンは新車市場に復活することができました。
また、ロータリーエンジンは水素燃料との相性も良く、2004年にはすでに研究車両(RX-8ベース)が公開済みです。
これまで量産化は叶っていませんが、ロータリーエンジンは次世代燃料エンジンとして、まだまだ未知なる可能性を秘めた「未来のエンジン」として、わたしたちに夢やワクワクを与えてくれるのではないでしょうか。

Supervised by 整備士 ヒロ

ヒロ 2級整備士

保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。