マツダCX-60 XDハイブリッドの性能を解説【試乗記】

マツダCX-60 XDハイブリッドの性能を解説【試乗記】

新型CX-60は2022年9月に販売開始した。今回は予約受注率が最も高かったXDハイブリッドに試乗した。試乗を通して感じた走行性能や乗り心地について解説をしているので購入の参考にして欲しい。

CX-60はマツダの志を凝縮した一台

マツダの「2017年を目途にミニバンから撤退し、SUVに経営資源を集中する」というニュースが流れてから約6年が経ち、着実にSUVラインアップを強化してきた。
マツダは、トヨタに次いで国内2番目に多いSUVラインアップをもつメーカーだ。OEM車種を除く10車種中6車種がSUVということになる。

今回マツダが送り出した新型CX-60は、新世代ラージ商品群の第一弾モデルで、以下のような多くの新開発アイテムが投入された。

  • FR(後輪駆動)ベースのプラットフォーム(車台)
  • 8速AT
  • 48Vマイルドハイブリッドシステム
  • 3.3Lディーゼル
  • PHEV

新開発アイテムの数には、かなり驚いた。新開発のFR系プラットフォームの開発だけでも、非常に開発コストがかかる。
新世代ラージ商品群は高額な中・大型車向けであるため、多くの販売台数は期待できない。そのため、投資分を回収できるのか不安が過る。
だが「マツダの志」は高い。新型CX-60からは、マツダのやる気がビリビリと伝わってきた。

3.3Lなのに、クラス世界最高レベルの超低燃費性能

CX-60の外観

CX-60の外観

今回試乗したモデルは、新型マツダCX-60 XDハイブリッド プラミアムスポーツだ。パワーユニットには、3.3L直6ディーゼルターボに48Vのマイルドハイブリッドがプラスされている。
3.3L直6 ディーゼルターボも新開発のエンジンだ。だがボア&ストロークは、既存の2.2L直4ディーゼルターボと同じ。つまり、直4エンジンに2気筒をプラスさせたモジュール型といえる。
ピストンには燃焼室空間を2つ用意した2段エッグ燃焼室を新たに採用している。従来のアルミ製ピストンからスチール製へ変更され、まったくの別物となった。

3.3L直6ディーゼルターボエンジンの出力は254ps550Nmと、随分控えめな数値だ。欧州プレミアム系ブランドモデルの3.0L直6ディーゼルターボの相場はおよそ650~700Nmである。
だが燃費値を確認した瞬間、マツダの意図を瞬時に理解できた。新型CX-60 XDハイブリッドの燃費は、驚愕の21.0km/L(WLTCモード)だったからだ。2.2LであるCX-5の16.6km/Lどころか、1.5LであるCX-3の19.0km/Lさえも超えた低燃費性能を誇っている。

ライバル車であるトヨタ ハリアーハイブリッドの燃費が21.6km/Lなので、ハイブリッド車並みの燃費だ。新型CX-60の燃料は、レギュラーガソリンより20円/L前後も安価な軽油である。燃料費はハリアーハイブリッドよりも安価になる。さらに出力でもハリアーハイブリッドを大きく上回るので、大きなメリットといえる。

48Vマイルドハイブリッドによる優れたアクセルレスポンスと実燃費の向上

CX-60のフロントシート

CX-60のフロントシート

超低燃費性能を誇る新型CX-60のアクセルを軽く踏み込み、街中を流してみる。
軽くアクセルを踏んでいるだけだと、少し拍子抜けした。CX-5で感じたグオッっと強烈に立ち上がる大トルク感は無く、随分大人しい。強烈なトルクの盛り上がり感は無いものの、スルスルと速度は上がっていくので十分な動力性能ではある。
燃費重視なので仕方がないのは理解しつつも、少々物足りなさを感じた。

「やるなマツダ。」と思わせたのは、アクセルを全開にして加速したときだ。
クオーンと気持ちのよいサウンドを奏でながら、エンジンはスムースに回りレヴリミットまで一気に到達する。パンチのあるパワー感は高回転域まで続き、とにかくパワフルだ。街中で感じた物足りなさは感じられない。

アクセルレスポンスも抜群だ。新型CX-60 XDハイブリッドは排気量が3.3Lもあるので、ターボラグはあまり感じにくい。加えて48Vマイルドハイブリッドシステムがよい仕事をしている。6.3ps&153Nmの小さなモーターだが、瞬時に最大トルクを出す特性を活かし、アクセルを踏んだ瞬間のわずかなターボラグの解消を実現。さらにアクセルレスポンスに優れ、大トルクを存分に活かした走りが楽しめる。

平坦路でエンジン負荷の低い領域では、積極的にエンジンを停止させモーターのみで走行する。高速道路も同様に、低燃費化の努力を怠らない。微妙なアクセル操作ができるドライバーなら、エンジンを上手く停止させモーター走行を積極的に稼働させることで、実燃費も大幅に向上させることができる。

CX-60はボディサイズが大きいのに、良く曲がる

CX-60のインパネ

CX-60のインパネ

新型CX-60の走行性能は、走りの質にこだわるマツダ車らしい。山道での走行は、期待以上のパフォーマンスを披露してくれた。

CX-60には、ロードスターにも採用されたKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)が装備されている。KPCは、横Gが大きくかかるようなカーブで、内輪側の後輪にわずかな制動力を与え、リフトを抑える効果をもつ。車体の傾きをやや抑え、車両姿勢を安定させるため、ドライバーはより安心してアクセルを踏み込みことができるのだ。特に重心が高く、カーブで大きく傾くSUVに効果的だ。この機能は、横滑り防止装置であるDSCの機能を使った制御なので、重量が増えず、低コストというのもポイントだ。

CX-60のメーター

CX-60のメーター

FRベースは前後の重量バランスも良好だ。KPCの恩恵もプラスされたことで、旋回中でもアクセルコントロールひとつで自在にクルマの向きを変えられる。AWDの制御も自然だ。通常走行では、ほとんどリヤ駆動状態に感じた。

新開発のトルコンレスの8速ATは、ダイレクト感がありとてもスムースだ。走行中、エンジンが停止してモーター駆動状態となった後の、アクセルを踏み込みエンジン再始動からの加速時に多少ギクシャクした感じがあった。

熟成に期待したいCX-60の乗り心地

CX-60のリヤシート

CX-60のリヤシート

マツダのCセグメントのモデルは、リヤサスペンションをマルチリンクから低コストのトーションビーム式に変更している。結果、乗り心地の硬さを指摘されてきた背景がある。

CX-60では、フロントにダブルウィッシュボーン式、リヤにはフルマルチリンク式というスポーツカー並みのサスペンション形式を選択した。
ところが、乗り心地はガチガチに硬い。路面の凹凸を通過すると、乗員に衝撃を容赦なく伝えてくる。試乗日に腰を痛めていたため、苦行にも感じたほどだ。後席の乗り心地も同様だった。この硬さは、要改善部分だ。

サスペンションチューニングで疑問を感じたのが、高速道路でのクルージングだ。
マツダは、上下バウンスの動きで車体を安定化させると説明していた。実際に高速道路の凹凸を通過してみると、上下バウンスの動きが止まらないのだ。

本来サスペンションには、スムースにバウンスさせた後、すぐにバウンスを抑えてフラットな姿勢を保つことが求められる。ところが一旦バウンスすると、車体は上下にバウンスを繰り返し続けて走る。そのため乗員は、常に上下に揺すられている感覚を受ける。キャリアの浅い女性スタッフでも「ずっと縦揺れ収まらないですね」と感想を述べたくらいだ。

扱いやすさにこだわった最小回転半径とシースルービュー

新型マツダCX-60のボディサイズは、4,740mm×1,890mm×1,685mmと、かなりワイドな全幅を持つ。道幅がタイトだと少々気を遣う。

マツダもこうした部分を気にしていて、使い勝手面で色々と工夫している。
まず感心したのは最小回転半径だ。FRベースで、最小回転半径は5.4mに抑えた。この大きなボディサイズの割には、駐車場などで何度も切り返す必要が無いレベルだ。

従来の360°ビューモニターには「シースルービュー」機能が追加されている。ワイドなボディによる扱いにくさを軽減するため、進行方向の映像にステアリング操作した軌跡を入れている。ガイド上に障害物がなければ曲がれる仕様だ。
シースルーなので、車体の陰に隠れて見えないものまで映し出される。そのため接触リスクは大幅に減り、狭い道でも扱いやすくなる便利な機能だ。

安全装備:クルマを暴走させないDEAとは?

CX-60のエンジンルーム

CX-60のエンジンルーム

安全装備も一気に進化を遂げた。その進化の象徴ともいえるのが、初採用となる「ドライバー異常時対応システム(DEA)」だ。ドライバーが意識消失など運転できない状態であるとシステムが検知すると、 ハザードの点滅やブレーキランプ点滅とホーンを鳴らすなどし、異常発生を車外に報知する。高速道路ではできる限り路肩に寄せ停止し、一般道では同一車線内に停止する。停止後は、ヘルプネットで救命要請する仕組みだ。

重視されたのは「速やかに停止させること」である。この狙いは、ドライバーを守ることだけでなく、運転不可能な車両が暴走して被害を拡大してしまうリスクを軽減させる点にある。もしものときに頼りになる機能であると同時に、二次被害者を出さないという重要な安全装備といえる。

自動ブレーキは、車両や歩行者、自転車、自動二輪も検知が可能となった。また、右左折時の歩行者と自転車や車両にも対応する。交差点内での事故は多いので、とても現実的な機能だ。DEAも含めると、新型CX-60の予防安全装備は、クラストップレベルの実力だ。

マツダCX-60XDハイブリッド価格

すべて4WD、AT

  Sports Modern
XD-HYBRID Exclusive 5,054,500円 5,054,500円
XD-HYBRID Premium 5,472,500円 5,472,500円

マツダCX-60ボディサイズ、燃費などスペック

代表グレード マツダCX-60 XD-HYBRID Premium Sports 4WD
ボディサイズ、最低地上高 全長4,740mm×全幅1,890mm×全高1,685mm、180mm
ホイールベース、最小回転半径 2,870mm、5.4m
車両重量 1,940kg
総排気量 3,283cc
エンジン種類 T3-VPTS型 直6 DOHC直噴ディーゼルターボ
エンジン最高出力 187kw(254ps)/3,750rpm
エンジン最大トルク 550N・m(56.1kg-m)/1,500-2,400rpm
モーター最高出力 12kw(16.3ps)/900rpm
モーター最大トルク 153N・m(15.6kg-m)/200rpm
ミッション トルクコンバーターレス8速AT
WLTCモード燃費 21.0km/l
バッテリー 種類 リチウムイオン
サスペンション前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
タイヤサイズ 235/50R20

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員