ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

問われる三菱の営業力

三菱は、スーパーハイト系ワゴンである「eKクロススペース」と「eKスペース」の発売を開始する。

新型三菱 eKクロススペースとeKスペースは、すでに発売済みのeKクロスとeKワゴンをベースとし、全高を高くし、両側スライドドアを装備したモデル。

先代eKスペースシリーズは、三菱が主に開発を担当したが、新型eKスペースシリーズは、日産がメインで開発したモデルとなっている。

先代モデルには、eKスペースカスタムがあった。
しかし、今回カスタムは廃止され、新たにeKクロススペースが投入されている。このモデルは、三菱のもつSUVイメージの強さを生かし、SUVとクロスオーバーさせたモデルだ。

三菱にとって、この新型eKスペースシリーズは、重要な車種になると同時に、三菱の営業力が問われることになる。人気が高いスーパーハイト系の軽自動車なので、より多くの販売台数が期待できる。

しかし、現在の三菱の営業力は、非常に不安が大きい。2019年3月にデビューしたばかりのeKワゴンシリーズの販売が低迷しているからだ。

2019年、eKシリーズの販売台数は、44,883台となった。
新型車が出たばかりだというのに、販売台数は前年比割れし99.6%となった。姉妹車デイズを販売する日産の前年比は111.3%。三菱の営業力不足が露呈してしまった。

三菱にとって、再びこうした状況はなんとしても避けたいところ。国内三菱の営業力が再び試される状況なのだ。

ヒットモデルへの期待が高まるeKクロススペース

今回、注目したいのがeKクロススペース。姉妹車関係にある日産デイズルークス ハイウェイスターとは明確に差別化されているのも好印象だ。
クルマに詳しくない人なら、姉妹車関係にあることさえ気が付かないだろう。

デザインには、三菱のSUVテイストを取り入れている。
フロントフェイスには、三菱のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用。垂直に通したメッキバーと水平基調のグリルを組み合わせており、SUVらしい力強さと安定感を表現した。
ブラックアウトされたグリルとメッキバーのコントラストが、独特の迫力を感じさせる。さらに、睨みの効いたLEDヘッドライトも特徴。精悍なイメージをより強調している。

軽自動車マーケットは、こうした迫力あるデザインが売れる傾向にある。
その中でも、eKクロススペースのデザインはなかなか秀逸。オリジナリティの高いものとなった。
売り方次第という面もあるが、売れる要素は十分だ。

標準車ともいえるeKスペースのデザインは、意外なほど精悍だ。
一般的に標準車は、女性の子育てユーザーがターゲットになるため、優しい顔になる傾向が強い。
ボディカラーと同色に塗られた開口部の小さいグリルが特徴だ。

サイドビューは、効彫刻的で立体感のあるキャラクターラインでスポーティさを表現。タイヤを車体の四隅に配して、どっしりとしたバンパーやフェンダーによって、安定感あるシルエットを作り出している。

スーパーハイト系は、背が高く全幅が狭いので不安定に見える。
そのため、こうしたデザインが採用されている。

上質感あるインテリアだが…

新型eKスペースシリーズのインパネデザインは、水平基調のすっきりとした形状で視界の広さとワイドな室内空間を演出している。
オートエアコンのパネルは、上質感と高い視認性を兼ね備えたタッチパネル式を採用。先代モデルでも好評だった。風量調節スイッチと表示部をコンパクトに一体化し、操作性を向上させている。

しかし、やはりダイヤル式などと比べると、運転しながらのブラインドタッチでの操作は難しい。指先に視線が移り、前方注視がおろそかになる傾向がある。
新型車で、こうした操作系をタッチパネルにしていないメーカーは、実際の操作しやすさを重視しているからだ。

メーター内のマルチインフォメーションディスプレイは、アクセルペダルの踏み加減を表示する「エコペダルガイド」や、駐車時の前進/後退を繰り返す際にタイヤの向きや角度を表示する「タイヤアングルガイド」など、多くの情報が用意されている。
運転に不慣れなユーザーに向けた情報の設定があるのは、ありがたい。

新型eKスペースシリーズのインテリアカラーは、ブラックを基調に、シート生地にはキルティングパターンを採用。スタイリッシュかつ上質な室内空間にまとめている。

オプション設定のプレミアムインテリアパッケージは、合成皮革とファブリックのコンビネーションとしたシート生地などを採用。
ブラウンを基調に、各所にオレンジのアクセントカラーを入れ、上質感・高級感を演出している。

さらに、インパネ周りには、ソフトパッドを採用した。基準車でも上質感あるインテリアだが、オプション装着車は、クラスを超えたプレミアムな空間となっている。

さらに広大!クラストップレベルの室内空間

新型eKスペースシリーズは、プラットフォーム(車台)が一新され、従来車からホイールベースを65mm延長した。その結果、さらに広大な室内空間になった。

室内空間は、小さい子供のいる家庭を想定したため、後席の居住性を重視。リヤシートのスライド量をクラストップとし、後席の居住性を大幅に向上させている。

使い勝手面では、前席セパレートシートをメーカーオプション設定とした。
前席から後席への移動がスムーズにできるようになっている。これは、後席に乗せた子供のケアを容易にするものだ。

後席スライドドアは、開口幅を拡大。乗り降りのしやすさが向上している。
さらに、ハンズフリーオートスライドドアを採用し、子供を抱きかかえていたり、たくさんの荷物で両手がふさがっていたりしても、キックセンサーでドアを開閉できるようになっている。

また、先代モデルで好評だった室内の空気を循環させるリヤサーキュレーター(プラズマクラスター付き)を設定した。

燃費性能はやや重い?

新型eKスペースシリーズでは、eKワゴンシリーズと同様に、マイルドハイブリッドシステムを採用する自然吸気仕様エンジンと、ターボ仕様エンジンの選択が可能だ。
いずれもCVTと組み合わせる。

自然吸気仕様エンジンは、38kW/6400rpm、60N・m/3600rpm。
ターボエンジンは47kW/5600rpm、100N・m/2400~4000rpmとなる。

新型eKスペースシリーズの燃費は、WLTCモードで自然吸気エンジンが20.8㎞/L。ターボエンジンが18.8㎞/Lとなった。
ライバル車のダイハツ タントと比べると、タント自然吸気エンジンの燃費は21.2㎞/LとeKスペースシリーズを上回る。タントはマイルドハイブリッドシステム非装着なのに、eKスペースシリーズより優れていることになる。

マイルドハイブリッドシステムを搭載したeKスペースシリーズの燃費が、なぜマイルドハイブリッドシステム非装着のタントより低いのか?
それには、車重が大きく影響している。

たとえば、eKスペースMグレードの車重は940㎏なのに対して、タントLグレードは880㎏と、その差は60㎏と大きい。これだけ違うと燃費に大きく影響する。
ちなみに、マイルドハイブリッドシステムを搭載したスズキ スペーシアの車重は870㎏とさらに軽い。

また、新型eKスペースシリーズには、国内三菱車初となるヒルディセントコントロールを用意。急な下り坂や滑りやすい斜面を下るとき、電子制御により自動的に低車速を維持するため、滑る落ちるリスクを軽減してくれる。制御中の車速調整範囲を約4~20km/hと幅広い。

充実した安全装備だが、さらなる進化に期待

新型eKスペースシリーズの予防安全装備は、なかなか充実している。

同一車線運転支援技術の「マイパイロット(MI-PILOT)」を設定。高速道路などで、同一車線内を維持しながら前走車に追従走行する。渋滞時のストップ&ゴーのも対応しているので、疲労軽減に役立つ機能だ。

また、歩行者検知式自動ブレーキ、オートマチックハイビームなども用意されており、全車「サポカーS ワイド」に該当している。

衝突時の安全装備として、軽自動車では数少ない、運転席SRSニーエアバッグをeKクロススペースに標準装備化。計7つのエアバッグを装備し、衝突時の乗員を守る。

充実した予防安全装備を用意したeKスペースだが、重要な歩行者検知式自動ブレーキが、夜間の歩行者と自転車には対応していない点が少々物足りない。
ライバル車であるN-BOXは、夜間の歩行者と昼間の自転車検知が可能だ。
eKスペースシリーズの更なる性能向上に期待したい。

三菱eKクロススペース、eKスペースの選び方

eKクロススペース、eKスペース共にグレード構成は共通。
いずれもベースグレードのM、充実装備のG、ターボ仕様のエンジンを搭載したTの3グレードだ。

eKクロススペースとeKスペースの違いは、まず大きく外観デザインが異なる。子育て女性ユーザーはeKスペース、高級志向や迫力あるスタイル重視というのであれば、eKクロススペースという方向性をもっている。

注意したいのは、eKクロススペースの最低地上高だ。
eKクロススペースの最低地上高は1550mm。やや高めとはいえ、eKスぺースと同じ。
SUVとのクロスオーバー車だが、悪路での走行は想定されていない。

装備面でも若干違いがある。
まず、eKクロススペースには、ヒルディセントコントロールが標準装備されているg、eKスペースは非装着だ。
室内の空気を循環させるリヤサーキュレーター(プラズマクラスター付き)は、eKスペースのGとTには標準装備。eKクロススペースのGとTにはオプション設定だ。
さらに、ニーエアバッグはeKクロススペースには標準装備だが、eKスペースにはオプション設定となっている。

eKクロススペースとeKスペースの価格差は、グレードにもよるが22万円から25万円程度とかなり大きい。
デザインの好き嫌いはあるにせよ、eKスペースは、どちらかというと予算重視系のグレードといえる。コストパフォーマンスという面では、eKスペースのほうが優れている印象だ。

グレード間の価格差は、eKスペースは ベースグレードのMが1,655,500円。
Gだと12万円ほど高額になり1,771,000円。Tはさらに8万円ほど高価で1,859,000円になる。
4WD車は、さらに13万円ほど高くなる。

Mは装備が貧弱で、価格訴求用のグレードだ。選択できないオプションも多く、選択肢から除外。
そうなると、GかTの2択になる。

Gは自然吸気エンジンで、Tはターボエンジン。
装備にも若干違いがあるが、おすすめはTだ。
eKスペースシリーズは、車重が重いので、自然吸気エンジンでは高速道路や急な登り坂などでは、少々アンダーパワー感がある。街中のちょい乗りしかしないというのであれば、自然吸気エンジンで十分だ。

eKクロススペースは、Mが1,399,200円。Gは15万円ほどアップし1,542,200円。Tは9万円ほど高価になり1,635,700円となった。
装備の違いなどはeKスペースとほぼ同等なので、同様にTをおすすめする。
街乗りだけならGでも十分ということになる。

どちらも、高速道路などで便利なマイパイロット、周囲の障害物をひと目で確認できるマルチアラウンドモニターがおすすめオプションだ。

ボディサイズや燃費などスペック一覧

代表グレード:eKクロス スペース G

  • 全長/全幅/全高 (mm):3395/1475/1780
  • ホイールベース (mm):2495
  • 車両重量(kg):960
  • 最小回転半径 (m):4.8
  • 燃料消費率(㎞/L):JC08モード 26.4/WLTCモード  20.8
  • エンジン型式:BR06
  • eKスペース総排気量 (㏄):659
  • 最高出力 (kW[PS]/rpm):38[52]/6400
  • 最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm):60[6.1]/3600
  • ミッション:CVT
  • タイヤ:165/55R15

三菱eKクロス スペース、eKスペース価格、燃費などスッペク

・eKクロス スペース
M 2WD:1,655,500円/4WD:1,787,500円
G 2WD:1,771,000円/4WD:1,903,000円
T 2WD:1,859,000円/4WD:1,991,000円

・eKスペース
M 2WD:1,399,200円/4WD:1,531,200円
G 2WD:1,542,200円/4WD:1,674,200円
T 2WD:1,635,700円/4WD:1,767,700円