三菱は、スーパーハイト系ワゴンに属する軽自動車eKスペースを改良し発売を開始した。

この記事の目次 CONTENTS
人気カテゴリーのスーパーハイト系で復活を目指すeKスペース
方向性が2極化。より女性に好まれそうなデザインになった標準車と、より強面迫力系になったカスタム
自動ブレーキ関連の安全装備が脆弱。しかも、姉妹車日産デイズルークスは標準装備化という矛盾をどう考えるのか?
安全よりも重要?リヤサーキュレーターに、肌や髪にやさしい弱酸性の「ナノイー」が装備。
eKスペースのお勧めは、標準車のG Safety PackageかT Safety Package
三菱eKスペース/eKスペースカスタムの価格

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

人気カテゴリーのスーパーハイト系で復活を目指すeKスペース

三菱eKスペースは、2014年に登場した。eKスペースは、スーパーハイト系ワゴンと呼ばれるクラスに属している。このクラスは、子育て層を中心に高い人気を得ていて、最近の軽自動車マーケットでは最も人気のあるクラスだ。価格は、ひとクラス上のコンパクトカー以上と軽自動車なのに高価だが、左右にスライドドアを装備されるなど使い勝手がよいことなどが高く評価されている部分だ。

ただし、このスーパーハイト系は、クルマとしての走行性能面ではあまり褒められたものではない。まず、横幅が狭く全高が高いため重心高が高い。そのため、もしものときには横転の可能性も高く、横風に弱く、カーブでも不安定になる。また、全高が高いため車重が重く、空気抵抗も大きい。こうなると燃費も悪化するのだ。こうしたデメリットが多いクラスだが、各社色々と苦労しながら、優れた利便性と走行性能面を両立しようと四苦八苦している。

また、このクラスは販売台数が多いこともあり、販売面では激戦となっている。また、価格も高く利益が出やすいため、各社とも利益をより出すためには、このクラス1台でも多く売りたいと考えているのだ。eKスペースや、姉妹車となる日産デイズルークスも、三菱の燃費不正問題前はよく売れていた。しかし、この不祥事後はさすがにイメージが悪く、今もその後遺症に悩み販売台数は落ちたままだ。そこで、一部改良と同時にフェイスチェンジを行って、すこしでも販売台数を伸ばしたい狙いもあるのだろう。とくに、1~3月は、自動車販売業界の繁忙期であり、軽自動車もよく売れる時期なので、この時期に少しでも復活の手応えを得たいのだろう。

方向性が2極化。より女性に好まれそうなデザインになった標準車と、より強面迫力系になったカスタム

今回の改良は、すぐに分かる。フロントフェイスが一新されているからだ。まず、標準モデルは、従来のややシャープな顔つきから、柔らかい面構成のフロントバンパーが採用された。全体的にやや女性ユーザーを意識した優しい顔つきになっている。
さらに、フード先端の左右ヘッドランプ間に一本のメッキモールを配し、上下に分割されたフロントグリルのアッパーグリルにメッキリングをあしらうことで、クリーンな上質感を高めている。

そして、カスタムは、先代の縦格子でややSUV感のあるデザインから、三菱のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用。アッパーグリル上下に左右ヘッドライトと連続感のあるメッキモール、アッパーグリル中央に1本のメッキバーを配してワイド感を強調。加えて、大型のロアグリルには同じモチーフのメッキバーを4段構成で配し、合わせて5本のメッキバーとすることで、独自の存在感をアピールする。

さらに、高価なLEDヘッドライトは、新たに多眼タイプのデザインとした。このLEDヘッドライトは、フローティングしたクリスタルガラスのような質感を表現したポジションランプとすることで上級車並みのクオリティを実現している。

標準車が女性顧客を意識したデザインに対して、カスタムはまったく異なる逆のテイストとなった。このデザインが優れているかどうかはともかく、カスタム系はこうしたより大きく見えるフェイスデザインとLEDという光モノを組み合わせたスタイルが、売れる軽自動車の条件となっているのだ。各社、こうしたデザイン要素を取り入れ、とにかく目立つクルマにすることを最優先で行っている。そもそも、小さいクルマで無理やり大きな顔に仕立てるには、デザイン的にかなり無理がありバランスの悪いデザインになりがち。しかし、そのバランスの悪さが違和感となり目立つ。デザイン性というよりは、マーケットニーズということになる。eKスペースカスタムも、こうしたデザインになったことで、注目され売れそうだ。

自動ブレーキ関連の安全装備が脆弱。しかも、姉妹車日産デイズルークスは標準装備化という矛盾をどう考えるのか?

eKスペースの一部改良では、グレードや装備類も変更されている。まず、今までカスタムモデルのみに設定されていたターボエンジン搭載車が標準モデルにも設定された。

また、自動ブレーキ関連の予防安全機能「e-Assist」とマルチアラウンドモニター(バードアイビュー機能付)を標準装備としたグレード「G Safety package」「T Safety package」を新設定。カスタムモデルも同様に自動ブレーキ関連の予防安全機能「e-Assist」とマルチアラウンドモニター(バードアイビュー機能付)、オートマチックハイビーム、オートライトコントロールを標準装備とした「カスタムG Safety Package」「カスタムT Safety Package」を新設定している。より、安全装備を充実させたグレードが設定されている。

ただし、そもそもこうした自動ブレーキ関連の安全装備は全車標準装備とするべきものだ。姉妹車関係にある日産デイズルークスは、自動ブレーキ関連の安全装備が全車標準装備化されている。

さらに、デイズルークスはサイドエアバッグも標準装備化。対して、eKスペースは一部オプション設定というかなり物足りない設定。三菱の販売現場的には、安価に見せて、少しでも販売台数を伸ばしたいという狙いがあるのは分かる。しかし、三菱の都合はともかく、高齢者の事故などを含めると、こうした自動ブレーキ関連の安全装備は必須ともいえる時代。さらに、他のメーカーは、オプション設定とはいえ歩行者検知式自動ブレーキが用意されている。ekスペースの歩行者を見分けることができない自動ブレーキなら、尚更標準装備化をしなければ、顧客の選択肢から外されてしまうだろう。

また、それだけでなく、横滑り防止装置であるアクティブスタビリティコントロール[ASC]も装備されていないMグレードがある。スーパーハイト系は、背が高く横幅が無いので重心が高い。もしもの場合は、横転の可能性が高まるので、せめて横滑り防止装置位は標準装備化すべきだ。この設定だと、eKスペースの安全装備は、とても脆弱に見える。

こうした安全装備の脆弱さは、燃費不正問題を含め三菱ブランドのイメージを懐疑的に感じさせてしまい逆効果になる恐れが高い。結局、顧客の安全より目の前の販売台数が重要という、会社の都合が優先されてしまっている。クルマは扱い方を間違えると凶器になる製品。より安全なクルマを流通させる責任が、自動車メーカーにはある。

安全よりも重要?リヤサーキュレーターに、肌や髪にやさしい弱酸性の「ナノイー」が装備。

機能面では、ターボエンジン搭載車(「T Safety Package」「カスタムT e-Assist」「カスタムT Safety Package」)のオートストップ&ゴー(アイドリングストップ機能)に、時速13km以下になるとエンジンを停止してガソリンの消費量を抑えるコーストストップ機能が追加された。その結果、ターボ車が自然吸気エンジン車を上回る22.2㎞/Lという燃費値となっている。自然吸気エンジン車は、22.0㎞/Lという燃費値になった。

快適・便利装備が向上

快適装備関連では、eKスペースの独自装備といえる後席の空気を循環させるリヤサーキュレーターに、肌や髪にやさしい弱酸性の「ナノイー」を放出する機能が追加された。子供やお年寄りが座るケースが多い後席の空調環境をより高める装備として高い人気を得ていた装備。この装備が、さらに魅力的になった。

また、シート生地には、消臭機能を追加。シート座面生地に消臭機能(イノドールクイック瞬感消臭)を追加することで、タバコや食べ物、汗、ペットなどの幅広い臭いをセラミックスで瞬時に吸着し、金属イオンの働きで臭い成分を分解する。子供やペットがよく同乗するような使い方をしているユーザーには、とても便利な機能となる。

そして、フロントウィンドシールド、フロントドア、フロントクォーターガラスに、従来から採用のUVカットガラスに加え、直射日光によるジリジリ感を和らげるIRカット機能を追加。こうしたUVやIRカットのガラスは、女性からの支持が強い。

ナノイーもいいが、安全装備を拡充すべき?

こうした快適装備関係は、なかなか顧客のツボを得ている。そういう視点では、eKスペースの完成度は高まったと言っていいだろう。ただし、再三言うが、こうした快適装備は高い安全装備を得た上で顧客に選択させるべきだ。安全装備が脆弱なのに、顧客が興味を示しそうな快適装備ばかりにコストをかけているのでは、クルマとしての本質が問われる。いくら快適でも、乗員がケガをしたりドライバーが事故を起こすリスクが高まるのでは意味がない。

eKスペースのお勧めは、標準車のG Safety PackageかT Safety Package

三菱eKスペース/eKスペースカスタムの選び方。まずは、外観デザインで標準車かカスタムかを選択したい。カスタム系は人気が高くリセールバリューも期待できる。ただし、標準車に比べ価格はかなり高くなるのが悩みどころ。

エンジンの選択だが、お勧めはターボ車。スーパーハイト系は、スズキ スペーシア以外かなり車重が重い。車重が重いため、自然吸気エンジンでは、急な坂道や高速道路ではやや非力な印象が残る。高速道路などやアップダウンが多い道を多く走るのなら64ps&98Nmを誇るターボ車が良い。価格は標準車で10万円程度高価になる。

グレード選びは、自動ブレーキ関連の安全装備とサイドエアバッグが標準装備化されたG Safety PackageかT Safety Package、カスタムG Safety PackageかカスタムT Safety Packageから選びたい。今時、これくらいの安全装備が無いと恐ろしくて乗れない。軽自動車の横幅は狭い。この狭さで側突されるリスクを考えれば、サイドエアバッグは必需品ともいえるからだ。

価格的な面でバランスが良いのは、標準車のG Safety Package(1,477,440円)かT Safety Package(1,583,280円)だ。カスタム系は、どうしてもあの顔がいいという人や、予算に余裕がある人向けだ。160万円前後の価格帯になると、1.3Lクラスのコンパクトカーで上級グレードが買えてしまうくらいだからだ。

三菱eKスペース/eKスペースカスタムの価格

<標準モデル>

・M 2WD 1,239,840円/4WD 1,346,760円
・M e-Assist 2WD 1,280,880円/4WD 1,387,800円
・G 2WD 1,391,040円/4WD 1,497,960円
・G Safety Package 2WD 1,477,440円/4WD 1,584,360円
・T Safety Package 2WD 1,583,280円/4WD 1,690,200円

<カスタムモデル>

・カスタムG e-Assist 2WD 1,568,160円/4WD 1,675,080円
・カスタムG Safety Package 2WD 1,643,760円/4WD 1,750,680円
・カスタムT e-Assist 2WD 1,752,840円/4WD 1,859,760円
・カスタムT Safety Package 2WD 1,828,440円/4WD 1,935,360円