一枚の名車絵 第9回 プジョー 504(Peugeot 504)
いまやスポーティというイメージでは世界の自動車メーカーの中でも抜きん出ているプジョーですが、意外なことに、30年ちょっと前までは、「地味な実用車のメーカー」でした。派手さとは無縁の実用車を、パリからオートルートで4時間以上かかる遠く離れたアルザス地方でコツコツと、ひとつのモデルを出したらモデルチェンジもあまりせずに作り続けている同族経営の堅い会社・・・という感じだったのです(そのイメージが変わるのは、205の登場以降)。
ですが、逆に言えば、プジョーの妙味はその「地味だけど、きわめて実用的」なことでもありました。それでいて、フランス車らしく機知にも富んでいるのです。504はまさにそんなプジョーだからこそ生み出せた究極の実用セダンに違いありません。
◆耐久性に優れパッケージングも優秀な実用車
プジョー504は1968年に404の後継として登場した中型セダンです。後輪駆動でセダンという、そのときすでにFF車・ハッチバックのラインナップが定着していたシトロエンやルノーとは異なるアプローチも、堅実なプジョーらしいところでした。
ボディは堅牢で、サイズは適切です。各部の作りはきわめて良く、耐久性も抜群でした。バンパーやモールなどのメッキ類は銀メッキではなく、ステンレス製だったのが驚きです。室内やトランクは広く、シートの座り心地はよく、直進性に優れ乗り心地もたいへん良好でした。
ふと振り返ると、いま、こういうクルマってあるでしょうか。実は少ないと思います。デザインコンシャスで車体が大きい割に車内が狭いクルマも多いですものね。504は、抜きん出た性能がない変わりに、実用車に必要なこと(広く、乗り心地がよく、運転がしやすく、耐久性があり、経済的といった項目)がどれもとてもよく出来ていて、全体的な平均点が高い、というクルマなのです。
あえて特徴を述べるとすれば、それはピニンファリーナが手がけた美しいデザインかもしれません。
◆世界中で愛された「ふつうのクルマ」
(クリックで拡大)504はこれまた堅実で耐久性に優れていた前任404の発展進化系でもあるため、当初エンジンは404のOHV、1.8リッターエンジンを改良の上キャリーオーバーして搭載しました。その後メカニカルインジェクション仕様を追加、排気量を2リッターに拡大、ディーゼルエンジンを追加するなどしてバリエーションを拡充しています。また、同じくピニンファリーナの手によるクーペ、カブリオレも存在し、こちらにはPRV製のV6エンジンも載ります。
504はその「あたりまえのふつうのクルマ」のレベルの高さゆえ世界中で愛され、1983年に15年にわたったフランスでの生産が終わったあとも、アルゼンチンなどで継続して製造されました。戦後のプジョーを代表する一台といえるでしょう。
【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!