トヨタ プリウス

<ハイブリッドシステムは同じTHS-IIだが、中身は別物! 走行性能をアップさせたTNGAって何?>

トヨタプリウス12月に発売が予定されている4代目新型トヨタ プリウスに試乗した。限られたコース内だったが、新型プリウスの実力を十分に感じ取れた。

新型プリウスの燃費は、一部グレードで40.0㎞/Lに達する。この一部グレードというのは、いわゆる宣伝・広告用に使うオトリグレードと呼ばれるもので、ある種特別なグレード。トヨタだけでなく、各メーカーこうしたグレードを設定していたりする。売れ筋グレードとなるプリウスの燃費は35~38㎞/L程度になるだろう。それでも、先代から比べると20%程度の燃費が向上されていて、世界トップレベルの低燃費車であることは変わらない。

ハイブリッド車は、ついつい電気(モーター)で走るところに目が行きがちだが、根本はエンジンが主体。いかにエンジンの燃費を向上させるかが重要で、この部分においては普通のガソリン車と大差はない。そのため、トヨタは新型プリウスに搭載された2ZR-FXE型1.8Lエンジンの熱効率を38.5%から40.0%に向上させている。向上した差分は1.5%・・・。たったこれだけ? 誤差みたいなもんでしょう? と、思うかもしれないが、この1.5%向上のために、2ZR-FXE型エンジンやハイブリッドシステムは、型式こそ同じだが、ほとんど新設計されたという。もちろん、ハイブリッドシステムで40.0㎞/Lを達成している訳ではないが、このわずか1.5%アップした熱効率による燃費への貢献は非常に大きい。

トヨタ プリウス実際に新型プリウスで走り出すと、熱効率の違いこそ体感できないが、制御が大きく変更されていることに気が付く。ジワっとアクセルを踏むようなシーンでは、旧型に対して新型は、なるべくEV走行をしようと頑張る範囲が長い。低速域では、EVで走った方が効率がよい。こうした制御の変更や、エンジンが冷えた状態での冷間時燃費の改善も行われ、実燃費もかなり伸びたという。

そして、アクセルを踏み込んだときのフィーリングも違う。瞬時にモーターのアシストが加わり、アクセル操作に対してリニアに加速するようになった。旧型で感じた加速の鈍さは解消されていた。

そして、ハイブリッドシステム同様に進化したのがボディだ。この新型プリウスから、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と呼ばれる開発・生産手法が使われたボディが使われている。端的に言えば、ひとつのプラットフォームで多くのクルマを作りコストを下げましょう、というもの。TNGAは、さらに低重心化するなど、クルマの基本性能を上げる狙いもある。

このあたりの生産技術に関しては、さすがトヨタというべきなのか、レクサスで使っていたレーザースクリューウェルディング(LSW)が採用された。LSWは、従来のスポット溶接がパネルを「点」で結合していたのに対して、ポティを「面」で接着する。こうすることで、ポティの歪み・たわみを最小限にする新技術だ。こうした技術を駆使し、新型プリウスのボディ剛性は旧型に対して約60%も向上したという。

大幅にアップしたボディ剛性に、リヤサスはダブルウイッシュボーンとなり、走行性能への期待値は高い。予想通り、旧型とは比べ物にならないくらいシッカリとした運動性能をもっていた。まず、すぐに気が付くのがステアリング。旧型は、ほとんどステアリングから路面のインフォメーションが伝わってこなかった。新型はシッカリとしたフィーリングと同時に、前輪の路面状況が少し伝わってくるようになっている。1444734295

TNGAにより、低重心化されたプラットフォームに加え、ハイブリッド用のバッテリーをリヤシート下に配置。前後の重量バンスも良くないこともあり、カーブでの安定感かなり向上した。旧型が横滑り防止装置(VSC)が、ガンガンと介入してくるのに対して、新型は同じような速度でもスイッと曲がっていく。S字コーナーのような急に逆向きに曲げなくてはならないようなカーブでも、スムースにクルマが向きを変える。低重心化と重量バランスが良くなった結果でもある。サスペンションも良く動き、旧型のマイナス要因であった乗り心地も抜群に良くなった。こうなると、よりスポーティな仕様にチューニングされたG'sへの期待も高まる。

ただ、プリウスのオーナーの多くが高齢であることを考えると、少し微妙なところもある。クルマの重心を下げるために、着座位置も下げられている。ヒップポイントは59㎜も下げられた。そんため、新型プリウスは旧型に比べるともぐり込むように座ることになる。旧型は、姿勢変化が少なく高齢者でも楽に座れた点は美点だった。ある意味、ユニバーサルデザインでもある。新型もシートリフターで、なるべく高い位置に設定しておけば、ある程度は解決できる。また、新型はボンネットのカウルの高さを低くし、ヒップポイントが下がっても視界は悪くないという。ただ、着座位置が高い方が、やはり前方だけでなく周囲の死角は減る。このあたりは、実用性なのか、走行性能なのか二律背反するうような部分でもある。つまり、新型プリウスは走行性能を重視したモデルということでもある。

トヨタプリウス安全面でもようやく、現代の普通のクルマといえるレベルになった。この新型プリウスから、自動ブレーキ関連の安全装備であるトヨタ セーフティセンスPが装備された。これは、単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせたもので、高速域からの自動ブレーキや前走車追従・全車速追従式のレーダークルーズコントロールなども装備される。このトヨタ セーフティセンスPが優れているのは、歩行者検知式自動ブレーキであるということだ。対応速度は約10~80㎞/hと、かなり高い速度までカバーしている優れた装備だ。

交通事故死の中で、対歩行者はトップレベル。交通社会において、いつ加害者になるか被害者になるかは分からない以上。こうした装備は歓迎したい。しかし、相変わらず上級グレードのみが標準装備で、他のグレードはオプションと腰が引けた状況はトヨタらしい。日産は全車標準装備を進めている。

そして、価格。どうやら、新型プリウスは10万円程度価格が上がるという。旧型プリウスは、マイナーチェンジで10万円価格を引き上げた。TNGAには、性能アップだけでなくコスト低減にも寄与している。クルマが良くなったから、価格をアップします、では当たり前だ。TNGAでコストダウンできた分、顧客に還元できているのか非常に微妙。世界でトップレベルの販売台数を誇るトヨタなので、大量生産によるコストダウンも世界トップレベルになるはす。

旧型のデビュー当時から、約20万円高価になる予定の新型プリウス。20万円分を燃費向上分による燃料費差に置き換えても、相殺するのは非常に困難。走りの性能をさほど気にしないなら、旧型プリウスの高年式中古車でも買った方がランニングコスト面では、かなりお得になる。プリウスは、着実に高級車への道を歩み始めている。価格アップが、先代モデルに比べ販売台数にどう影響するか注目だ。

【新型トヨタ プリウスプロトタイプモデル主要諸元(社内測定値)】
全長(mm)/ 全幅(mm)/ 全高(mm) 4,540 / 1,760 / 1,470<1,475>
ホイールベース(mm) 2,700
室内長(mm)/ 室内幅(mm)/ 室内高(mm) 2,110 / 1,490 / 1,195
エンジン種類 直4DOHC
総排気量(cc) 1,797
最高出力(kW[PS]/rpm) 72 [98] / 5,200
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 142 [14.5] / 3,600
モーター最高出力(kW[PS]) 53 [72]
最大トルク(N・m[kgf・m]) 163 [16.6]
バッテリー リチウムイオンまたはニッケル水素
燃費 40.0㎞/L(一部グレード)
< >内の数値はE-Four(電気式4輪駆動方式)搭載車の値