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「気になるくるま」第2回 プリンス/日産プリンスR380A-I(1965)

ひとことでくるまと言っても、誰にも知られていないようなマイナーなものから、みんなの憧れのようなスーパーカーまで、実に様々です。そんなクルマたちの中から、マニアックカー・マニアでもある遠藤イヅルが、独断と偏見で選び出したくるまたちをイラストとともにみなさんにお送りいたします。第2回目は、大好きなレーシングカー、プリンスR380(のちの日産プリンスR380)です。


◆スカイライン伝説の胎動


日本初のプロトタイプレーシングカー、R380。日本グランプリを席巻したこのクルマが生まれるまでには、様々な興味深いストーリーがありました。

それは1963(昭和38)年の第一回日本グランプリに端を発します。グランプリを開催するにあたり、出場各社で申し合わせがあり「無改造で市販状態の性能を競い合う」こととなりました。ところがいざレースが始まってみると、プリンスはグロリアを無改造で出場させていたものの、ライバルのメーカーたちは出場車にレース仕様のチューニングを施していたのです。むろんグロリアは惨敗、レースの結果が売り上げに直結していた当時、プリンスの販売成績は大きく下がりました。

プリンスはその悔しさをバネに、第二回日本グランプリに向け、発売間もない2代目スカイライン1500(S50系)に、グロリアの2ℓ直6エンジン「G7」を押し込んだ「スカイラインGT」の開発を開始します。でもノーズの短いS50系にはG7エンジンは積めませんでした。そこでプリンスは、シャーシをバルクヘッド前で一度カットしてスペーサーで延長、フェンダーとボンネットも1台につき2枚用意して溶接することでノーズを200mm延長、G7エンジンを搭載させました。この技術的にも難易度の高い溶接あたっては、プリンスの前身であった「立川飛行機」出身の熟練工が担当しました。もと飛行機屋であるプリンスらしいエピソードですね。

こうして生まれたスカイラインGT(S54A型)は、日本グランプリのGT-IIクラスに出場するための「1年で100台の製造義務」もクリアし、いよいよ発売。ところが満を持して出場した第二回日本グランプリでも、突如持ち込まれることとなった当時最強を誇るプロトタイプレーシングカー、「ポルシェ904」には勝つことが出来ませんでした(このときのポルシェとスカイラインの名勝負が、スカイライン伝説の始まりでもありました)。


◆伝説の基礎となったブラバムBT8


(C)izuru_endo_R380_1280-652(クリックで拡大)そこでプリンスは性能に限界にあったG7エンジンに3連ウェーバーキャブレターを装備したS54B型スカイライン2000GTを開発、販売面でもヒット作となりました。しかし、肝心のキャブレターがウェーバー社から供給されなかったため、バックオーダーを抱えることになります。それを解決すべく設計部長の田中次郎氏らはレースやファクトリー視察とキャブレターの購入のために欧州へと出向き、ウェーバー社からキャブレターの買い付けに成功しました。

その後、田中氏らは訪問先のブラバムで1台のプロトタイプレーシングカー、ブラバムBT8に着目します。このシャーシにG7エンジンが積むことができれば・・・そう思った田中氏はブラバムBT8のエンジンルームを部下に採寸させたのです。結果は・・・・搭載可能。田中氏は早速BT8を購入することとなります。そう、R380はこのブラバムBT8のシャーシがベースになっているのです。

持ち帰ったBT8をベースに開発されたR380のシャーシには、プリンス独自設計の流線型のアルミボディが架装され、ミッドにはGR8と呼ばれる新開発の2ℓ直6DOHC24バルブエンジンが搭載されました。こうして日本初の本格的なプロトタイプレーシングカー、R380が完成しました。R380は1965(昭和40)年の第三回日本グランプリではついにポルシェの新兵器906にさえも打ち勝ち1、2位を獲得、みごとに雪辱を果たしました。その後日産とプリンスの2社が合併したのちも開発は続き、R381、R382へと発展していくこととなります。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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