自動ブレーキがほぼ標準装備化されたのは高評価。しかし、カメラが装備されているのに歩行者は認知できない


トヨタ ヴィッツ トヨタ セーフティセンス解説図

トヨタのコンパクトカーであるヴィッツが、一部改良された。現行ヴィッツは、2010年12月にフルモデルチェンジした。従来モデルの柔らかで女性好みのボディラインから、現行ヴィッツはガラッとデザインテイストを変更。シャープさを出したスポーティなデザインへ変更された。同時に、急速に進む低燃費化の波にも対応。26.5㎞/L(10・15モード)という低燃費を実現した。しかし、この燃費は高価なオプションであるアイドリングストップ機能は選択しなくてはならないという、やや物足りない仕様で登場したのだ。

この現行ヴィッツが売れたのは約1年。ヴィッツデビューから約1年後には、同様なボディサイズをもち、圧倒的な低燃費性能を誇るハイブリッド車アクアが投入された。このアクアの登場で、ヴィッツの販売台数は急速に減っていく。

販売台数が大幅に減ったのは、単にアクアが登場しただけではない。ライバルの日産ノートもフルモデルチェンジするなど、競争は厳しくなった。そんな中、ヴィッツはやや安っぽい質感や走行性能が指摘されていたこともあり、トヨタの想像以上に販売台数を落としていったようだ。ヴィッツは、リーマンショックの最中に開発されてきたこともあり、コスト優先で開発されたことが主な要因とも言われている。

その後、ヴィッツは2014年4月に大幅なマイナーチェンジを実施した。ハイブリッド車で得たノウハウを使った低燃費の1.3L新開発エンジン(1NR-FKE)を搭載し、燃費は25.0㎞/L(従来型比+3.2km/L)とクラストップレベルとした。それだけでなく、インパネ周りの大変更や、ボディ剛性のアップによる乗り心地の向上、静粛性のアップが図られ大幅に進化した。まさに、大幅なマイナーチェンジだ。トヨタ車で、これほどのマイナーチェンジが行われることは少ない。こうした改良で、ヴィッツのマイナーチェンジ後のモデルは、まるで違うクルマのようになった。

完成度が高まったヴィッツだったが、大きく遅れていたのが自動ブレーキ関連の安全装備。もはや、30㎞/h以下の低速域自動ブレーキは、軽自動車では当たり前の時代だ。そして、ようやくトヨタの自動ブレーキ「トヨタ セーフティセンスC」が、ほぼ標準装備され発売された。

トヨタ ヴィッツ トヨタ セーフティセンスC構成パーツ

トヨタ セーフティセンスCは、赤外線レーザーと単眼カメラを組み合わされたものだ。前方の障害物を検知し、停止車両に対し自車の速度が30km/hの場合は、自動ブレーキにより約30km/hの減速を行い、衝突回避や衝突被害の軽減を支援。赤外線だけでなく、カメラが付いているので自動ブレーキは約10~80km/hの幅広い速度域で作動するのが特徴だ。30㎞/h以下という低速だけの対応ではなく、より高い速度域で自動ブレーキが作動するので、大きな事故になることを防ぐ効果がある。

また、カメラが装備されているので、走行車線を認識し車線逸脱の可能性がある場合、警報を出すレーンディパーチャーアラート(LDA)機能もある。さらに、カメラによって対向車のヘッドランプ、または先行車のテールランプを検知し、ハイビームとロービームを自動で切り替え、他の車両のドライバーの眩惑を低減し、夜間の前方視界確保を支援するオートマチックハイビームも用意された。

30㎞/h以下の低速域自動ブレーキよりは、格段に性能が向上されたトヨタ セーフティセンスC。この機能を一部グレードを除き標準装備化したのは、高く評価すべきだ。しかし、こうした安全装備の進化は早い。まず、カメラを装着しているのに歩行者検知ができない。すでに、スズキは軽自動車のスペーシアに歩行者検知式の自動ブレーキを安価で用意している。

死亡事故ゼロを本気で目指しているのであれば、まず最も被害が大きくなる恐れがある対歩行者に対しての自動ブレーキ装着が急務だ。日産はノートに、60㎞/h未満の速度域で作動する歩行者検知式自動ブレーキを標準装備した。こうした歩行者検知式の自動ブレーキは、30㎞/h以上での速度でも作動するタイプが重要。30㎞/h以下程度では、致死率が10%程度なのに対して50㎞/hになると致死率は80%程度になるなど、30㎞/hを超えると急速に致死率がアップするからだ。歩行者検知式自動ブレーキ機能が付いているクルマを選ぶ場合、こうした性能を比べて選ぶといい。

トヨタ ヴィッツ価格


・F“M パッケージ” 1.0L FF 1,153,637円 ~ F 1.3L 4WD 1,556,182円
・Jewela 1.0L FF 1,417,745円 ~ Jewela 1.3L 4WD 1,755,491円
・U 1.3L FF 1,750,582円 ~ U 1.3L 4WD 1,858,582円
・RS 1.5L FF 5MT 1,883,127円 ~ RS“SMART STOP パッケージ” 1.5L FF 2,046,109円
・特別仕様車F“Smart Style” 1.0L FF 1,337,531円 ~ 特別仕様車F“Smart Style” 1.3L 4WD 1,602,622円

執筆者プロフィール
クルマ評論家 CORISM代表
大岡 智彦 氏

CORISM(http://www.corism.com/)編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員。