こだわりのカタマリ、“マルチパフォーマンス・スーパーカー”「GT-R」
07年秋、自動車マスコミの話題を完全に独占した日産「GT-R」。日産がこだわりにこだわり抜いて造り出した特別なクルマだ。
開発にあたり、世界一ハードでタフなドイツ「ニュルブルクリンク」で世界一のタイムをたたき出すことを目標に設定。そのいっぽうで「誰でも、どこでも、どんな時でも」の合言葉を掲げ、走る道や天候、ドライバーの腕に関わらず安心して乗れる性能を目指す・・・GT-Rとは、全方位で安定した超高性能を発揮することを目指した、文字通りの“マルチパフォーマンス・スーパーカー”である!!
・・・なーんてことは、既に『CORISM』でも繰り返しお伝えしていたりして、クルマ好きにはもうすっかり良く知られたところだろう。
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では、そんなこだわりのGT-Rを造る製造部門もまた、アッと驚くこだわりのカタマリだということはご存知だろうか。製造工程全てに渡り、他に類を見ない独自の生産方法を採って造られているという。
CORISM編集部では今回、GT-Rの心臓部であるV6 3.8リッターDOHCツインターボ「VR38DETT」エンジンの製造工程を特別に見学させていただくことが出来た。そのこだわりの現場の模様を、早速レポートしたい。
日産創業の地、”横浜“生まれのVR38DETTエンジン
VR38DETTエンジンは、日産自動車横浜工場の一角で製造されている。横浜工場は神奈川県横浜市神奈川区の臨海部にあり、1933(昭和8)年に日産が創業した由緒正しい場所でもある。昭和40年代前半には本社事務所が東京・銀座に、自動車生産ラインが神奈川郊外などへそれぞれ移転しているが、現在もこの地でエンジンやサスペンション、鍛造・鋳造部品などを生産する。
この横浜工場で生産される主力エンジンは「セレナ」や「デュアリス」「ブルーバード シルフィ」などに搭載される4気筒 2.0〜1.8リッター「MR」型だ。コンベアを使った流れ作業ラインで多くの工程を機械化・ロボット化し大量生産を実現。横浜工場で年間約40万台(08年には目標50万台)生産されるエンジン中、21万台(同30万台)がこのMR型にあたるという。
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さて、最高出力480ps(353kW)/6400rpm、最大トルク60kg-m(588N・m)/3200-5200rpmという国産車随一のハイパフォーマンスを発揮するGT-R専用「VR38DETT」型エンジンはというと、そのエンジン組立ラインのある2地区内の一画にひっそりと存在する。
1日あたり昼・夜の2交代制で50台、実働20日として月1000台、年間12,000台という生産規模。大規模なラインで次々に大量生産され続けるMR型エンジンとは対照的に、なにやらひっそりとしたムードが漂う。「ひっそり」は規模だけのハナシではない。なんとこのエンジン、専用の小さなクリーンルーム内で組み立てられているのだ!
選ばれた匠のみが着る、エンジン組立者専用の帯電防止ジャケットの背中には、誇らしげに"R"の文字が刻まれる!
クリーンルームと”匠”の技
そのクリーンルームは、ちょうど学校の教室くらいの広さだった。
クリーンルームというとまず想像するのが、TVで良く観る半導体生産工場のシーン。白ずくめの格好をしていて、頭にはパン屋さんみたいな白い帽子をかぶって、入口で全身エアシャワーを浴びてから・・・これを勝手にイメージしていたのだけれど、さすがにそこまで厳密ではなかった。しかし室内は一定の気温・湿度・気圧に保たれ、床にも帯電防止加工を施してあるなど、一般的な自動車エンジン工場のイメージとはかけ離れた場所であることは間違いない。『こんな場所での量産エンジン製造など、おそらく世界でココだけでは』と横浜工場の方もちょっと嬉しそう。我々報道陣も帯電防止の専用ジャケットを着用し、靴に埃防止のカバーをかけて入場する。
まず、専用のシリンダ・ブロックやヘッド、ピストン・コンロッド、クランクシャフトにカムシャフト、タイミングチェーン等などのエンジンパーツ類が、クリーンルームに取り込まれるところから工程が始まる。そもそもこれらの各パーツも、レース用エンジン並みの高精度・高強度で製造されたものばかり。そのことを書き出すだけで段落がギッチリ埋まってしまうほどの逸品揃いである。
これらの構成部品がクリーンルーム内に取り込まれ、シリンダ・ブロックのアッセンブリ(組立)工程、シリンダ・ヘッドのアッセンブリ工程、ベアエンジンのアッセンブリ工程、さらにMTB(無負荷での運動テスト)が行われる。
その生産工程には、”匠”と呼ばれる熟練作業者による「セル生産」方式が採られている。ラインによる流れ作業(決まった作業を繰り返し行う)とは異なり、1人から数人の作業員が組立の全工程を担当する生産方法で、その分作業員の熟練を要するのだ。ちなみにセルとは作業台のことだとか。VR38DETT型エンジンの場合は5人の匠による作業となる。
日産の方に「月産1000台からさらに増産することは可能なんですか」と聞くと『人材を育成するだけでも一朝一夕では無理』との回答。選ばれしエリートの匠でないと造れない、特別なエンジンの価値は限りなく高いのだ。
圧巻! 造ったエンジンはすべて、全負荷性能テストを実施!
クリーンルームから出されたエンジンは、ドレスアップ工程(インテーク・マニホールド、エクゾースト・マニホールド、ターボユニット、スロットル・チャンバーなどの取り付け)を経て、遂に完成する。
エンジンが無事に完成したら、横浜工場での作業はハイ終わり、これで車体組立ラインがある日産栃木工場へGO!・・・というワケではないところがスゴイ。
なんと全てのエンジンにオイルを入れ、ガソリンタンクを繋ぎ、スターターを回し、ベンチテストで実際に全負荷性能試験を行う。コレは、生産品質をチェックする抜き取り試験ではない。あくまで「全数」というところがスゴイのだ。
え、何がスゴイんだ?とピンと来ない方へ。どうやら、ポルシェもフェラーリもメルセデスもロールスロイスも、どんな世界のスーパーカーや高級車も、いくらなんでもそこまでは行っていないらしい・・・。
テストベントではまず、4400rpmで30分の初期ラッピング(慣らし)運転が行われる。その後アイドリングから徐々にフルスロットルへ進む! まっさらのエンジンをそこまで回しちゃっていいのか?と思うけれど、これがレースエンジン直伝、正調の慣らし運転スタイルなのだ。音や振動、オイル漏れなどもチェックされ、延べで45分の間エンジンを稼動させる。ここまでして、480psを「保証」するのだから徹底している。
ちなみに使用されるガソリンは1度に49リッター。ただ消費するだけではいかにもモッタイナイ!ので、これは電力に転換して横浜工場内へしっかり還元している、とは日産の方のお話。
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とにかく「圧巻」のヒトコト。しかも今回ご紹介出来たのは、あくまで『エンジン』組立て単体のお話でしかない。これとは別に製造されるトランスミッションGR6型デュアルクラッチトランスミッションも、もちろん全数性能検査を実施。さらに鉄、アルミ、カーボンなどの複合素材を高精度で組み付けたボディも、全数加振検査のチェック。そして組立ラインを経て最終的に完成した車は、最後に熟練テストドライバーが全車をテストコース上で走行テストを実施。エンジン・ミッション・ブレーキをチェックし出荷される。何気なく書いているけど、通常の量産車ではここまでやらない。
そして、このこだわりの数々を経て生まれたGT-Rが『わずか!』777.0万円〜で買えてしまう! そりゃもう、バーゲンプライス以外のナニモノでもないと心底実感させられるところ。何よりこのこだわりの工程は、ぜひオーナーの皆さんにこそ実際に見て欲しいと思う。おそらく何事にも代えられない歓びだし、これでますますコアなGT-Rファンになってゆくのではないだろうか。GT-Rオーナー(及び予備軍)の工場ツアー。日産の皆様、ぜひ御一考を・・・。
( PHOTO:日産自動車・CORISM編集部/レポート:CORISM編集部 徳田 透 )
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