VSAは雪道では絶対の必需品
ホンダが毎年冬に開催している恒例の雪上試乗会が今年も開催された。四輪車だけで12台のクルマが用意されていて、さまざまな試乗コースが設定されていた。ホンダ車の雪上ドライブの印象をレポートしよう。
試乗車は、FF車を中心に4WD車、FR車の設定もあった。またABSは全車とも標準装備だったが、横滑り防止装置のVSAを装着したクルマとそうでないクルマがあった。
このようなさまざまな仕様のクルマを運転して全体的に感じたのは、雪道ではVSAは絶対の必需品であるということ。FF車はFR車に比べると比較的雪道には強いとされるが、それでもVSAがあるのとないのとでは大きな違いがある。今回はフィットとシビックタイプRでVSAなしのモデルに試乗したが、安定性を考えたらVSAなしのクルマは完全に不利。早期に全車標準の設定にすべきだと思う。
横滑り防止装置はヨーロッパではかつてAクラスが横転しそうになったり、アウディTTがスピンしたりした経緯があり、アメリカでもエクスプローラーが横転したりしたため、欧米では横滑り防止装置の普及が進んでいる。アメリカでは法規で全車標準が決められているほどだ。これに対して日本ではまだまだ普及が遅れているのが実情で、ホンダに限らず早く標準装備化を進めて欲しい。
いずれは欧米に習って日本でも法制化されることになるのだろうが、国土交通省が法制化を言い出す前に、『当社は横滑り防止装置を全車に標準装備します!!』と宣言したなら、そのメーカーの企業イメージは大きく向上すると思う。ホンダには真っ先にそれを宣言するくらいの気概があって良いと思う。
雪上で試乗すると、全高が高くて重心高が高いステップワゴンでは、ほとんどのシーンでVSAが効いている状態。直進状態でも加速しているときにはVSAのトラクションコントロールが働くのでVSAの表示ランプが点滅したままだった。重心バランスに加えて乗員が多いことからも、VSAを特に必要とするのがミニバンタイプのクルマだと思う。もちろんほかのモデルでも必需品であるのは変わらない。
駆動力配分で変わる走りの特性
今回の試乗の中で興味深かったのは、3種類の仕様が用意されたレジェンドだ。市販されているのと同じ標準的な仕様のクルマと、前後の駆動力配分をより前輪寄りに設定したクルマ、より後輪寄りに設定したクルマとが用意されていて、150Rの定常円旋回を試すコースを走ってみた。
FF寄りの仕様のモデルは市販車よりも安定性が高くなるが、アンダー傾向が強くて運転しても面白みに欠ける部分がある。これに対してFR寄りの仕様はアクセルを踏み込むとすぐに後輪が横滑りを始める感じになるので操舵の修正が忙しい。VSAが装備されているので簡単には破綻しないのだが、それでもひっきりなしにカウンターを当てる形になる。
市販仕様のレジェンドはその中間というか、ややFR寄りの駆動力配分になっていて、いろいろな仕様を試した上で、この駆動力配分に決定したのが良く分かった。強いていえば、より安定性の高いFF寄りのチューニングのほうが年配のユーザーの多いレジェンド向きとも思えたが、ホンダ車のユーザーには市販仕様くらいのスポーティさがあったほうが良いとの判断だったのだろう。
スポーツ系のクルマは雪道では大変
雪道で運転するのが大変だったのがシビックタイプRとS2000の2台。タイプRはVSAなどの電子デバイスが装備されていないため、ちょっとアクセルを踏み込むとタイヤが空転するばかりでなかなか前に進んでくれない。横滑り防止装置はなくても、せめてタイヤの空転を抑えるトラクションコントロールだけは装備して欲しいという印象だった。
FRのタイプRにはVSAが装備されていたが、走りの特性はFRそのもの。アクセルを踏み込んだとき、ステアリングを切ったとき、ブレーキを踏んだときなど、走る、曲がる、止まるのすべてのシーンで、ちょっと油断するとすぐに横滑りを始める。それをVSAが抑え込んでくれるので簡単に破綻することはないのだが、常にステアリングに修正を与えていなければならない状態だった。
このほか新雪状態のコースを走ったCR-Vとクロスロードもけっこう苦戦させられた。横滑り防止装置を備えた4WD車なので、安定性の面では問題がないのだが、雪の深い部分に行くとコントロールが効きにくくなるのは避けられない。圧雪路なら普通に走れる4WD車でも、新雪路は要注意である。
なお、ホンダの汎用製品のひとつ除雪車による雪かきも試してみた。最近ではエンジンだけで走行と除雪をするタイプのほかに、エンジンと電気モーターに走行と除雪の機能を分離したハイブリッドタイプが市販されており、このタイプの操作性が非常に高かった。エンジン音が抑えられるほか、操作がしやすいので、今後はハイブリッドタイプの普及が進むと思う。価格をどれだけ引き下げられるかがポイントになるだろう。