「レンジローバースーパーチャージド」

現在は、フォードの傘下で開発

 英国は伝統と文化を大切にする国。規律正しくプライドの高い国民性には、見習うところも多い。そんな英国と、私の関わりは深い。少年時代の5年間ロンドンに在住し、25歳のとき、世界最古の某サーキットで運転技術を習得した。

 国土の最南端から最北端まで列車で一日で行けてしまうこの小さな国だが、歴史に残る数々の名車達を生み出してきた。「レンジローバー」もその一台に数えられる。100年間に生産された全世界、全車種の中から、設計・技術などを讃えた「カー・オブ・ザ・センチュリー 」にも選出されている。
 しかし英国には、現在自国資本の自動車メーカーは一社も存在しない。「レンジローバー」を生産する「ランドローバー」社も親会社を多く渡り歩き、最近ではドイツ「BMW」が資本を所有していたが、数年で売却。現在は、米国「フォードモータース」の傘下となっている。

SUVの王者、ここに見参!

「レンジローバースーパーチャージド」 フロントマスク
「レンジローバースーパーチャージド」 サイドライン
「レンジローバースーパーチャージド」 リア

 全長4955mm×全幅1955mm×全高1900mmというディメンションを持つ「レンジローバースーパーチャージド」。さらにショートボディ&ローダウン化された「レンジローバースポーツ」も存在するが、やはりこのモデルが「王者」と呼ぶに相応しい。
 フロントグリルは、「スーパーチャージド」ではダイアモンドを模ったという「スリーバーグリル」を採用し上質感を演出。反面、「アダプティブ・フロントライティング・システム」を搭載したバイキセノンランプは、睨みを利かせ相当な威圧感を覚えるものだ。
 クルマというより、建造物のような存在に見えたのは、私だけであろうか・・・?

「レンジローバースーパーチャージド」と私。 大きさの対比

 このクルマの存在感を伝えるには、私自身が「タバコの箱」になってみた。まるでクルマに「ガギには、似合わないよ!」と言われているみたいだ。

インテリアは、モダン建築のような洗練さ

 車内に一歩足を踏み入れると、英国車の「お家芸」である革とウッドの世界が広がる。心地よい本革の香りが、精神的にもリラックスを促してくれる。
 センターコンソールは、まるで近代建築のような凝った造型だ。段階状に設けられた各種スイッチは、当然のことながら全て電子ロジックであるが、DVDナビのモニターや空調スイッチなど、不思議とクラシカルなイメージを崩していない。アナログ時計をあえて採用したことも憎い演出といえる。アナログとデジタルの融合。そして、至福の空間…。私は、しばらくエンジンに火を入れることを忘れ、この空間に浸っていた。

「レンジローバースーパーチャージド」インテリア
インテリアは、お約束のウッド&レザーの世界。「スーパーチャージド」では、通気性に優れたパーフォレイテド・シートを採用。
「レンジローバースーパーチャージド」センターコンソール
左右対称に配された各種スイッチは、モダン。ウォルナットパネルのサイドラインに結晶塗装の組み合わせは、質感も申し分ない。
「レンジローバースーパーチャージド」メーターパネル
レイアウトの一部にBMW設計の痕跡を見て伺える。ナイトイルミネーションは、英国車らしく派手な演出はなく、淡いグリーンの透過光式を採用。

空気の壁を押し退け猛進する4.2L、V8エンジンは2面性を持つ

「レンジローバースーパージャージド」走行シーン

 エンジンを始動しても、キャビンは静粛に包まれたまま。聞こえるのは、ヒーターのブロア音のみだ。以前搭載されたBMW製4.4L V8エンジンよりも静粛性は高く、現在搭載される同じフォード傘下のジャガー製4.2L V8エンジンの方がこのクルマにはマッチしているのでは?と私は感じた。
 至福な空間に腰を下ろしていると、気分まで優雅になったようで、オープンロードに出てもアクセルを踏み付けようという気分にはならない。アクセルに軽く足を乗せているだけで機械式のスーパーチャージャーが生み出す大トルクの恩恵をうけ、スルスルと速度だけが上昇。気が付けば法定速度を超えている。6速ATもデッドスムースで、変速がいつ行われたかまるで気が付かない。
 あまりの安楽さに、肩肘をアームレストにおき1500rpmほどで流していると、後方からこの巨体に対して邪魔だと言わんばかりにアオリ運転を仕掛けてきた若者の姿が映った。このクルマの半分にも満たない排気量の国産スポーツカーだ。仕方ない、395psの本領を少しだけ発揮してみるか!
 シフトレバーを2回ほどマイナス方向に倒しアクセルをおもむろに踏みつけると「シャーン!」というスーパーチャージャーの唸りとともに、今までアイドリングのような回転を保っていたV8エンジンはキッチリ6500rpmまで回りきり、私の身体は本革シートに埋め込まれた。ミラーに目を移すと、先程までアオリ運転をしてきた国産スポーツカーは、すでにその姿を確認できないほど後方に追いやられていた…。
「どうだ、レンジローバースーパーチャージドをなめんなよ!」と微笑む私。しかしクルマには、「もっと大人になろうよ!」と説得された気分だった。

2.5トンにも及ぶ巨漢にも関わらず、面白いように曲がる

 全幅で2mにも迫る巨体。巨大なミラーまで入れたら、その辺の2トントラックより幅広なのでは?というこのクルマを、試乗の聖地である「箱根ターンパイク」ではなく「箱根旧街道」に持ち込んだ。13%を超える急勾配が続くが、回転は相変わらずアイドリング+α。平らな道のようにスルスルと登ってゆく。
 しばらく走ると、数十にも及ぶつづら折れの連続である「七曲り」が迫る。最近では、道幅も狭く路面が荒れていることから交通量も激減。ドリフト族たちの「遊び場」と化している。
 ステージを間違えたのでは?と思われがちだが、この「レンジローバースーパーチャージド」は、軽いアンダーステアを伴いながらも、意外なほどクイックなステアリングフィールと相まって、さらりとタイトコーナーをクリアしていく。255/55R19のタイヤも、スキール音は極めて少なかった。

「レンジローバースーパーチャージャー」イメージ

 初代「レンジローバー」が登場したのが1970年。いかなる道でも、乗員を快適に保つ事がコンセプトだった。36年の歳月が流れ、資本が他国に渡った今でも、「レンジローバー」の血統は脈々と受け継がれているのだと、実感した試乗だった。

written by 外川 信太郎