生産されたクルマの半分以上は輸出される
タイでは政府が“アジアのデトロイトに”というスローガンを掲げて自動車産業の育成に力を入れている。タイでは日系の自動車メーカーが圧倒的なシェアを確保しているが、各社ともタイ国内向けだけでなく、世界各地への輸出にも力を入れており、生産台数の半分以上が輸出に回されている。これは1997年のアジア通貨危機を契機に、輸出に活路を見いだす形になったことも大きい。
今回取材したタイ三菱自動車のラムチャバン工場も2005年の実績で14万台ほどの生産台数のうち、65%が輸出向けで国内向けは35%という比率だ。この工場はそもそも輸出を意識してタイで唯一の貿易港に隣接して設置されている。工場から埠頭まで輸出車両を自走で運ぶというから、輸出だけだけでなく部品の輸入などについてもどれだけ有利な立地にあるかが分かるだろう。
タイへの輸出は今もなお三菱優勢
最近でこそ、IMVなどによってトヨタの輸出台数が伸びているが、それ以前は三菱が首位を続けた時期が長く、累計の輸出台数では今でも三菱が最も多い。これは通過危機の後、ストラーダの生産をタイに集約して世界市場に輸出してきたことが大きく、その役割はトライトンが引き継いでいる。
生産車種は乗用車がランサーとスペースワゴン(日本名グランディス)の2車種で、ピックアップがトライトンとストラーダの2車種となる。トライトンはストラーダのフルモデルチェンジ版なのだが、輸出先のマーケットの中にはストラーダを投入したばかりの地域もあり、トライトンへの全面的な切り換えには時間がかかるとのことだ。
仕向け先は世界140カ国に及ぶという。特にストラーダやトライトンがほとんど世界中に輸出されており、乗用車は東南アジアの域内自由貿易協定を生かしてアセアンを中心に輸出されている。トライトンに関して言うと、ヨーロッパ、アジア、その他の地域(中近東、中南米、豪州)がそれぞれ30%くらいの比率になるという。
ロボットはほとんど導入せずに人手に頼った自動車の組み立て
ラムチャバン工場での生産は溶接から始まる。タイには製鉄工場がないため、日本や韓国から輸入された鉄板を近くの協力工場でプレスし、それをラムチャバン工場に運んでいる。溶接ラインもほとんどロボットは導入されておらず、基本的に人力に頼った生産だ。これは安価な労働力を生かすことと同時に、現地の雇用に寄与するためでもある。
溶接工程にロボットが使われていないくらいだから、組み立て工程も同様。シートやタイヤ、フロントウインドーなど、重い部品や大きな部品も補助器具を使いながら人の手によって組み立てられている。
塗装工程ではロボットが導入されているとのことだが、今回は塗装工程を見学することはできなかった。まあ、世界中どこに行っても塗装工程を見学できる工場は少ない。
|
|
|
工員のほとんどはタイ人
工場の人員は全体で3700名ほど。これは期間工も含んだ数字だが、そのうち日本人は31名というから1%にも満たない。マネージャーの数も全体で128名なので圧倒的にタイ人のほうが多い。全体に現地化が進んだ工場といえる。
工場の現場で直接的な作業に当たる工員は2300名ほど。欧米の工場では組立工程などで女性を見かけることが多いし、日本でも工場によっては女性が目立つことがあるが、ラムチャバン工場の現場では女性を見かけなかった。タイでは女性の職業意識が非常に高いのだが、自動車工場の現場ではまだちょっと無理なのだろう。