最近の車は従来のナビ・オーディオにあたるものが、車両システムと一体になったものが一般的になってきました。
その影響から、走行中に簡単にナビの操作やテレビ・DVDの視聴をできるように細工をすることが困難となり、テレビキャンセラーが普及するようになりました。
しかし、便利なお助けアイテムではあるものの不具合が生じたり、最悪の場合には車検に通らないリスクもあるため注意が必要です。
現場で働く整備士が、こういった問題点も含めたリアルを解説します。
- テレビキャンセラーとは?
- テレビキャンセラーの取り付け費用の目安
- テレビキャンセラー取り付けで起こりうる不具合
- なるべくテレビキャンセラーでの不具合が生じないために
- 【補足】テレビキャンセラーを付けると車検は通らない?
- 整備士のまとめ
テレビキャンセラーとは?
テレビキャンセラーは、本来不可能である走行中のテレビやDVDの視聴を可能にするアイテムです。
それと同時に、走行中に制限されるナビ操作についても操作が可能となるので、十分に安全に配慮していれば非常に便利なカー用品のひとつです。
コネクティドシステムで重宝されるアイテム
2000年代はじめ以降、いわゆる2DINタイプのカーナビが一般的でした。
最近ではそれに代わるかたちで、車両システムと多様な通信を行いつつ、ナビやオーディオの機能も有したシステムがはじめから備わった車が増えてきました。
ユーザー自身で細かい車の設定を変更できたり情報を得られるメリットがありますが、このシステムは車両のさまざまなコントロールユニットと多重通信(CAN通信)を行っており、これは非常に複雑な仕組みです。
そのため走行中に簡単にテレビ視聴などができなくなってしまいました。
国産車ではマツダ車に搭載されている「マツダコネクト」が皮切りとなり、各社からコネクティドシステムと呼ばれるこのシステムが浸透していきました。
擬似信号を利用したテレビキャンセラー
車両ハーネス(配線)の間に社外品のテレビキャンセラーのコントロールユニットを接続すると、そのユニットを介することで、車速やパーキングブレーキ等の擬似信号を車に送信するなどします。
このように車のシステムを騙すことで、走行中でもテレビ視聴を可能にするためのカー用品を「テレビキャンセラー」と呼びます。
いまではテレビキャンセラーが無ければ、走行中にテレビ・DVDの視聴や細かいナビ操作をすることは不可能に近いです。
テレビキャンセラーの取り付け費用の目安
テレビキャンセラーの取り付け費用は、テレビキャンセラーの商品代と工賃を合わせた合計で20,000円〜50,000円です。
レクサスや輸入車のような高額車両ほど、取り付け費用も高額になる傾向にあります。
テレビキャンセラーの費用は商品によってさまざまで、数千円程度のものもあれば1〜2万円ほどの商品もあります。
テレビキャンセラーを取り付けるためには車両ハーネスへのアクセスが必要で、ほとんどの場合で室内のパネル等の脱着が必須となります。
車種によってハーネスに至る工程が異なるので、工賃は数千円〜数万円と車ごとに大きく異なります。
また、取り付けそのものは法律上問題ありませんが、安全の観点から取り付けを一律で断る整備工場やカー用品店もあるので注意が必要です。
(私も前にいた会社ではテレビキャンセラーの取り付けはお断りでした)
テレビキャンセラー取り付けで起こりうる不具合
テレビキャンセラーを取り付けることで、不具合の発生事例が数多く報告されています。
代表的なパターンをいくつかご紹介します。
ナビが狂う、機能がバグる
走行中にテレビの視聴やナビの操作ができなくなるのは、パーキングブレーキが作動しておらず、なおかつ車速を検知して走行中であることを車が認識しているためです。
テレビキャンセラーを取り付けることで、簡潔に言うとこれらの信号を誤魔化すことになります。
よって、車速信号が影響を受ける機能に不具合が起きることは容易に想像ができます。
その結果、以下のような不具合が起きる可能性があります。
- 走行しているのにナビの自車位置が変化しない
- 同じ場所をクルクル回ってる
- ナビそのものがフリーズする
- 高速道路と下道をうまく認識しない
ナビの自車位置が狂う不具合は、テレビキャンセラーが原因で発生する不具合の中でも、最もよく耳にするものです。
ナビ(モニター)上の表示がおかしくなる
ナビに表示される時刻や燃費計がおかしくなる、エンジンを切って次にエンジンを掛けたときに、最後に表示してた画面が表示されず強制的に別の画面で起動されるといったような、メーターまたはディスプレイモニター上の表示がおかしくなる不具合が発生しています。
バッテリー上がり
テレビキャンセラーが原因で、車両を使用していないときの待機電流(暗電流)が大きくなってしまい、電力を消費し続けて最終的にバッテリーが上がってしまう事例が発生しています。
さまざまな警告灯が点灯する
テレビキャンセラーの取り付けは、各ユニットが情報をやり取りしているCAN通信に影響を及ぼします。
正常でない信号や情報のやり取りが原因で、CANで繋がっているその他のさまざまなコントロールユニットに、エラーが入力される可能性があります。
その結果、メーター内にはそれに応じた警告灯の点灯やワーニングメッセージが出ることがあります。
一部の車両機能が使えなくなる、不具合が出る
ナビ以外でも、上記で紹介したように警告灯やワーニングメッセージが出た機能は制限つきでの使用となったり、作動を停止したりすることがあります。
具体的な例だと以下のようなものがあります。
- ACC(オートクルーズコントロール)が使用不可になる
- ステアリングスイッチが反応しない
- オートライト(ハイビームコントロール)が使えない
車にはさまざまな機能があるので、これら以外にも発生リスクの考えられる不具合があります。
なるべくテレビキャンセラーでの不具合が生じないために
テレビキャンセラーでの不具合が発生しないためにできることは、安価な製品に手を出さないことです。
実際に安価な製品で不具合に悩まされていたオーナーさんが、テレビキャンセラー販売で有名な大手メーカーのものに交換すると不具合が解消されたケースもあります。
きちんとしたメーカーのもので極端に安価でない商品、車種ごとの適合表がメーカーHPで公表されていて、保証も確実に備わっているものであれば、実車での装着テストも実施のうえで、不具合が出ないかの検証まで確実におこなわれている可能性が高いです。
必ずしも商品価格の違いがそのまま不具合に影響するわけではありませんが、こういったテレビキャンセラー商品を選ぶことが、不具合発生のリスクを低減できる方法のひとつと言えるでしょう。
【補足】テレビキャンセラーを付けると車検は通らない?
テレビキャンセラーを取り付けて走行中に視聴・操作可能にすることは、車検に通るかどうかに関係ありません。
しかし「OBD検査対象の車」であれば、車検に通らないリスクがあります。
また、万が一テレビキャンセラーの取り付けが原因でエンジンチェックランプが点灯するようであれば、これも当然ながら車検に通りません。(チェックランプの点灯で車検に通らないのは従来どおりです)
コンピューターに車検の合否に関わるエラーが入る可能性がある
テレビキャンセラーを取り付けたことが原因で、コンピューターにエラーが入力されるケースがあります。
そのエラーが、OBD検査対象車の車検の合否に関わる可能性があります。
しかし、入力したエラーは必ずしもチェックランプやワーニングメッセージで出るとは限りません。
ドライバーは一切気付くことができずに、専用のテスターを接続しないと分からないパターンがあるので注意が必要です。
OBD検査対象車が特に注意が必要
OBD検査とは以下のとおりです。
OBD検査とは、従来の自動車の検査では発見できなかった電子制御装置の故障の有無に対応する電子的な検査で、令和6年10月より新たに導入されるものです。
車両に搭載された電子制御装置の状態を監視して故障を記録するOBD(車載式故障診断装置)とスキャンツールを接続することで、車両に記録された特定DTC(故障コード)を読み取り合否判定を行います。
OBD検査の対象となる車両は、国産車は令和3年10月1日以降の新型車、輸入車は令和4年10月1日以降の新型車です。
よって、これまで乗っていた車がただちにOBD検査の対象となるわけではありません。
しかし、すでに該当する車の車検は始まっています。
令和3年以降に発表された新型車は今後もすべてOBD検査対象車となっていくので、いま乗っている車は関係なくとも、いずれご自身の所有する車も対象となってくることがほとんどとなります。
整備士のまとめ
テレビキャンセラーは非常に便利なものです。
信頼のできるメーカー製のものであれば、特に問題なく使用いただけます。
ただし、車は常に進化を続けておりどのタイミングでその整合性が取れなくなるかはわかりませんし、同じモデルの車でも不具合が出るケース出ないケースもあるのが、テレビキャンセラー問題の難しいところです。
また、カー用品店で販売されているものだからと、必ずしも安心で車検にも通るものとは限りません。
そういったリスクが少なからずあるという認識を持っておく必要があります。
- Supervised by 整備士 ヒロ
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保有資格:2級整備士。国産ディーラー整備士、輸入車ディーラー整備士の経験がある、現役の整備士。 整備士経験は10年以上で過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。