BYD シール試乗!販売台数も好調なBEVスポーツセダン

BYD シールの車両全景

2024年6月に発売されたシール(SEAL)。BYDの日本参入の第3弾にあたるモデルだ。今回はBEVの走行性能やデザインなど、試乗を通じて評価した。

BYD シールの販売台数は好調な走り出し

BYD シールの後景

BYD は1995年に中国でバッテリーメーカーとして創業した。その後、自動車メーカーの買収など経て一気に成長し、現在は新進気鋭自動車メーカーのひとつに数えられる。

 

そんなBYDが2023年1月、日本に本格参入した。コンパクトSUVのBEV(バッテリー電気自動車)であるATTO3に導入したのだ。

2023年9月には、第2弾としてコンパクトBEVのドルフィンを投入。そして第3弾モデルとして2024年6月に投入されたのが、新型「シール(SEAL)」だ。今回紹介するBEVのスポーツセダンである。

 

BYDは、日本マーケットに対しかなり積極的なチャレンジを試みている。

輸入車のテレビCMは、多くの場合本国の素材を流用している。また、日本での販売予定台数が少ないことから、テレビCMの本数も少ない。

しかし、BYDは日本専用CMを制作した。販売台数から見れば、大赤字と思えるほどのCM本数を投下したのだ。広告費のかけ方を見ても、BYDの日本マーケットへ対する本気度が伝わってくる。

 

広告の好影響を受け、日本でのBYDモデルの売れ行きは好調だ。

BYDによると、乗用車の8月の総登録台数は298台とのこと。2024年3月の353台に次ぐ2番目の記録になった。店舗を持たないなど、セールス方法が異なる韓国のヒョンデとは、すでに大差がついている。

また、BYDモデルの8月の総登録台数の内66%をシールが占め、高い人気を得ている。

欧州車や日本車とは明らかに違う個性派デザイン

そんなBYDだが、なぜか海洋生物をイメージしたデザインと車名が多い。ドルフィンはイルカ、シールはアザラシを意味する。新型シールのデザインが、アザラシに似ているとは思えないが、とてもユニークだ。日本車や欧州車とは明らかに異なるデザインが採用されている。

 

新型シールのボディサイズは、全長4,800×全幅1,875×全高1,460mmだ。大柄なボディにワイド&ローなシルエットを持つ。大きく傾斜したAピラーから繋がるルーフラインは、優美な曲線を描きCピラーへと流れる。ドアが4枚でなければ、クーペにも見えるスタイルだ。

BYD シールのフロントフェイス

新型シールのフロントフェイスはグリルレスだ(BEVはラジエーターが必要ないため)。バンパー両サイド下部には、海の波をイメージした4本のライト「リップルイルミネーション」を装備し、ひと目でシールと分かるデザインとした。ボンネット中央に入れられた2本のプレスラインは、優雅さの中に力強さを感じさせる。

 

ボディサイドは、複雑な面と線で疾走感を表現した。格納式のドアハンドルが、より美しさを引き立ている。

BYD シールのリヤエンド

リヤビューは、スッキリとまとめられている。LEDテールライトは左右が連結した一文字になっており、空と海の広大さを表現したという。このLEDテールライトのグラフィックもスマートだ。

リヤボトム部はガラッと雰囲気が変わる。レーシングカーのようなディフューザー形状がスポーティだ。良い意味で「これが500万円台から買えるクルマのデザインなのか?」と思うほどだ。

BYD シールの内装はスポーツ&ラグジュアリー

BYD シール

インテリアデザインは、ラグジュアリーかつスポーティなテイストを持つ。

シートにはナッパレザーを採用しており、500万円台のクルマとは思えないほど豪華だ。なんと、ベンチレーション機能まで内蔵している。試乗は夏場に実施したが、ベンチレーション機能のおかけで快適だった。

BYD シールの後席の内装画像

シートも大型で、ゆったりと座れる。ホイールベースが2,920mmもあるので、リヤシートの居住性も高い。

 

スポーティな外観とは裏腹に、インテリアはラグジュアリーで空間はゆったりしている。

BYD シールのインパネデザイン

インパネデザインはシンプルだが、柔らかい曲線で広がりを演出した。

BYD シールのメーター

10.25インチのメーターは、ATTO3やドルフィンと比べると、かなり見やすくなった。

BYD シールの大型モニターの画像

センターコンソール上部には、15.6インチの大型モニターが鎮座しており、視認性は良好だ。

シールの大型モニターを横向きにした画像

この大型モニターは、スイッチひとつで90°回転する。ナビ使用時は、縦型が使いやすかった。進行方向が広くなり情報量が多くなるのだ。

適度な速さのRWDモデル。速過ぎるAWDモデル

BYD シールの給電口

新型シールは1グレードのみだ。

駆動方式はRWD(後輪駆動)とAWD(4WD)の2タイプが用意されている。RWDモデルのモーター最高出力は312ps(230kW)、最大トルクは360Nmと、かなりの高出力だ。身構えてアクセルを踏んだものの、思っていたほど速くはなかった。車重が2,100kgもあるからだろう。それでも0-100km/hの加速は5.9秒と俊足だ。加速がスムーズすぎる故に、速さを感じにくいのかもしれない。

 

一方、AWDの加速は首が痛くなりそうなくらい強烈だった。システム合計出力は529ps&670Nと強力だ。2,210kgもの車重もお構いなしである。

アクセルをグッと床まで踏みつければ、ゴン! と、強烈な加速Gがかかる。身体はシートバックに押し付けられ、頭は後方に引っ張られるほどだ。もはや、ステアリングにしがみつくような運転になる。ちなみに、0-100km/h加速はわずか3.8秒。RWDより2.1秒も速いのだから、このパワフルさも当然だろう。

 

新型シールの走行モードは、スポーツ、ノーマル、エコの3種類がある。

スポーツモードは、アクセル操作に対するレスポンスが俊敏だ。ただ、パワフルな分、レスポンスはやや過敏とも言える。わずかなアクセル操作に対して敏感に反応するので、慣れないとギクシャクする。スポーツ走行時でもノーマルモードがしっくり来た。ノーマルモードでも十分にレスポンスが良いので、街中での走行では瞬時にエコモードを選択したほどだ。

 

回生ブレーキは、スタンダードとハイの2段設定だ。回生ブレーキは、ハイでも弱め。いわゆるワンペダルドライブがしにくい設定である。2段階しか設定できないので、結局、フットブレーキを使う状況が多い。今後の進化では、制御の緻密さに期待したいところだ。

 

こうした制御の粗さは、運転支援機能にも現れる。ドルフィンの試乗時にも感じたが、車線維持機能などの運転支援機能の制御が、少々粗い。突然、ガツンとステアリングに入力が加わり、車線を維持しようとするのだ。もう少し早めに・自然にアシストする制御になれば文句は無い。制御は日進月歩の技術なので、熟成に期待したい。

快適な乗り心地と高い操縦安定性を両立した可変ダンパー付きのAWDモデルがお勧め!

シールのサスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リヤはマルチリンク式だ。AWDモデルは、なんと可変ダンパーも付く。一般的なユーザーであれば、素直なハンドリングで十分にスポーティな走りを披露するRWDモデルで十分だ。

 

よりスポーティで安定感ある走りと、快適性を重視するなら、可変ダンパー付きのAWDがお勧めだ。可変ダンパーのチューニングが良く、カーブでもフラットな姿勢を保ち気持ちよく曲がってくれる。さらに、路面の凹凸も上手にいなすので、乗り心地は前席・後席共に快適だった。

 

もちろん、こうしたハンドリングや乗り心地の良さは、サスペンションの効果だけでなくCTB(Cell to Body)による効果も大きい。CTBは、バッテリーそのものを構造材として使用する技術により、高いボディ剛性を実現している。

BYD シールの航続距離は640kmと十分!

BYD シールのバッテリールーム

シールにはブレードバッテリーが搭載された。熱安定性の高いリン酸鉄リチウムを使用し、刀のように長くて薄い形状にした駆動用バッテリーだ。容量は、FWDとAWD共に82.56kWhである。

シールRWDの航続距離(一充電走行距離、WLTCモード)は640km、AWDモデルは575kmと十分だ。

 

気になる電費は、約6~7km/kWh。RWDモデルで試走し、エアコンを付けて走行した。高速道路で80~100km/h程度でのほぼ平坦路のクルージングで、6.5km/kWhの燃費であるならば、約540kmは走行できる計算だ。

電費は伸び代あり!

BYD シールのバッテリールームを開けた画像

シールの電費は、まずまずだ。制御次第では伸び代もありそうだった。

シールは高速道路をクルージングする際、コースティング(ガソリン車でいうとニュートラルで走る惰性走行)をあまりしない。回生ブレーキも弱めだ。ガソリン車から乗り換えても違和感が無いようにするための制御なのかもしれない。

 

BMWのBEVの場合、コースティングが上手く、しかもかなり多用する。特に高速道路では、コースティングさせることで電費を大幅にアップさせているのだ。

シールも、コースティング機能を積極的に使えば電費がもっと伸びるのでは?と感じた次第だ。この部分も制御のアップデートに期待したい。

BYDの価格戦略は、BEVシフトに不可欠?

BYDシールの価格はFWDモデルで528万円、AWDモデルで605万円とリーズナブル。

同等程度のボディサイズであるBMW i4の価格と比較すると、RWDモデルのeDrive 40Mスポーツが874万円、AWDのM50は1,166万円だ。装備などを除いた単純比較だと、シールはi4の50~60%程度の価格だ。

ただ、シールの運転支援機能や回生ブレーキ、モーターなどの制御は、まだまだBMWに追いついてはいない。だが、この価格の安さはBMWだけでなく欧州や日本のBEVには無い大きな魅力でもある。

 

BEVへのシフトがなかなか進まない理由のひとつが、価格だ。シールの価格はネガティブ要素を解決し、スピーディなBEVシフトへのトリガーになる可能性に満ちていた。BYDは欧州&日本メーカーにとって、まさに脅威的な存在だ。

BYD シールの価格

  • シール FWD:5,280,000円
  • シールAWD:6,050,000円

BYD シール 電費、ボディサイズなどのスペック

代表グレード

シール 2WD

全長×全幅×全高

4,800mm×1,875mm×1,460mm

ホイールベース

2,920mm

乗車定員

5名

車両重量

2100 kg

タイヤサイズ

235/45 R19

最小回転半径

5.9m

サスペンション(フロント/リヤ)

ダブルウィッシュボーン/マルチリンク

駆動方式

2WD(後輪駆動)

リヤモーター最高出力

230kW/312㎰

リヤモーター最大トルク

360N・m

駆動用バッテリー種類

リン酸鉄リチウムイオン電池

総電力量

82.56 kWh

一充電走行距離

640km

交流電力量消費率 (WLTCモード)

148Wh/km

電費(一充電走行距離÷総電力量)

7.75km/kWh

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員