この記事の目次 CONTENTS
車検証、見たことありますか?
車検証のICカード化は、一般人には大きなメリットがない
車検ビジネス関係者には、手間が省けるメリットあり
車検証ICカード化で指定工場などはICカードリーダー・ライターが必要に
ユーザーの負担が増える車検証ICカード化?

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

車検証、見たことありますか?

国土交通省は、2023年1月より車検証をICカード化するための準備を進めている。
車検証というと、多くの人にとってはほとんど見ることのない書類だろう。
「車内に置いたまま」という人がほとんどで、存在そのものさえ忘れている人も多い。
通常、車検証は整備記録簿や取扱説明書などと一緒に、助手席側のグローブボックス内にあることが多い。

実は携帯義務のある重要書類

実は車検証は、クルマをもつ人にとってとても重要な書類だ。
一般的には「車検証」と呼ばれているが、正式には「自動車検査証」となる。
自分のクルマが検査時に、自動車保安基準に適合していることを証明する書類なのだ。
そのためクルマを運転する際には「有効な自動車検査証(車検証)」と「自動車損害賠償責任保険証(自賠責)」を携帯することが義務づけられている。
しかし前述通り、一般の人にとっては車検証を見るのは、クルマを買った時、クルマを売る時、車検に出す時くらい。
稀に、警察官から職務質問されたり、交通違反したりした際に提示を求められるくらいだ。

車検証のICカード化は、一般人には大きなメリットがない

一般人にとっては、ごくたまにしか必要とすることのない車検証。
それをICカード化して、どんなメリットがあるのか?現状、大きなメリットはない。

一方で、国土交通省は、「IC自動車検査証利活用方策に関するアイデア募集」を行い、「ICカード内の自動車検査書のデータ以外の空き領域を使って、何ができるか?」についてのアイディアを募った。(リンク:https://www.mlit.go.jp/common/001299940.pdf

そこで例として挙げられているのは、自動車修理の履歴、自動車販売店やガソリンスタンドでのポイントサービスなどだ。
この程度のサービスなら現状いくらでも代用がきくが、もし今まで無かったような案が出て、新たなサービスが受けられるようになれば、我々一般ユーザーにもメリットが生まれてくるかもしれない。

車検ビジネス関係者には、手間が省けるメリットあり

一般ユーザーには大きなメリットはないと思われる車検証のICカード化だが、主に車検業務に係わる仕事をしている人々にとっては、大きなメリットがある。

例えば、陸運局の認可が得られている指定工場だ。
指定工場には自動車の検査を行う検査員がいて工場内で検査ができるため、陸運局の車検場に持ち込んで検査をする必要がない。
ディーラーなどでの車検は、多くの場合、こうした指定工場での車検となる。

しかしこの指定工場、陸運局にクルマを持ち込まなくても車検自体はできるのだが、車検証を発行してもらうために陸運局に出向く必要がある。
現状、陸運局に出向いて、車検証と車両のフロントウインドウに貼る車検ステッカーを発行してもらっているのだ。
指定工場は車検証の発行のために、毎日のように陸運局に行かなければならず、人件費や交通費などのコストをかけている。
陸運局が近ければまだ良いが、遠いとコストが嵩む。

もし車検証をICカード化し、指定工場で情報をインプット、車検ステッカーを印刷できれば、かなり業務効率化が図られるのは確実だろう。
同様に、陸運局も車検証発行の手続きを省けるので人件費の節約になり、業務が効率化される。

車検証ICカード化で指定工場などはICカードリーダー・ライターが必要に

このように、車検業務に携わるビジネスをしている人々にとってはメリットのある車検証のICカード化。

しかし、例えば指定工場などには、ICカードを読み書きするICカードリーダー・ライターが必要になる。
このICカードリーダー・ライターは、もちろん一般に流通しているコンピュータは使えず、国土交通省が指定した専用品を購入することが要求されるだろう。
当然、指定工場はこれらの機器購入で新たな投資が発生する。
ETCのパターンから考えると、一般財団法人が設立され、ICカードの納入メーカー、機器メーカーなどを選定するだろう。
ICカードのデータ・セキュリティ管理、システム運用のコンサルティング、手数料の徴収などが行われるかもしれない。
もしかしたら現在、車検場における検査を請け負っている独立行政法人自動車技術総合機構などが、これらの業務を行なう可能性もある。

ユーザーの負担が増える車検証ICカード化?

車検証ICカード化により、新たな機器に投資をしなくてはいけない指定工場などは、その費用の回収名目として、登録手数料を取るかもしれない。
ETCの場合、セットアップ手数料2,750円くらいが相場だ。
ETCを取り仕切る一般財団法人ITSサービス高度化機構へは、その内セットアップ情報発行料550円もしくは、715円が支払われている。
ざっと2,000円程度がお店の利益になっているのだ。

車検証ICカード化により、こうした手数料をユーザーが負担する可能性もある。
また、新車時に車検証ICカード費用がプラスされるかもしれない。

このように車検証ICカード化によって、ユーザーの負担が増える可能性があるだろう。
一方で、ICカード化により新たなサービスの恩恵が受けられるようになれば、ユーザーにとってメリットとなる可能性もある。
ICカード化により一般ユーザーがメリットが得られるかどうか、それはこれから生み出されるサービスにかかっている。