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「みんなの街のはたらくくるま」第5回 マツダ T2000(TVA32S)


わたしたちの生活を支えている「はたらくくるま」にスポットを当ててイラストとともにご紹介するこのコーナー。第5回は、かつては身近な存在だったのに完全に消えたもののひとつ、「三輪トラック」から、マツダ T2000をお送りいたしましょう。


◆当時の道路環境に対応し昭和を支えた「オート三輪」


1930年代から1960年代に活躍した三輪トラックは、前輪がひとつのため構造が簡単で安価だったこと、四輪車に比べて小回りが利くこと、当時劣悪だった日本の道路環境に対しても強かったこと、三輪トラックは税制上でも有利だったから、「オート三輪」とも呼ばれてたいへん普及しました。

1951年には三輪トラックは税制がそのままで車体やエンジン寸法の制限が撤廃されたことや、1962年に小型車の排気量が2000ccまで拡大されたことを受け、最盛期には下は360ccから、上は2000ccまで幅広い三輪トラックが登場し、戦後の高度経済成長期にあった日本を支えました。不安定で速度も出ない構造でしたが、道が悪くスピードも出ない当時では、大きな問題にならなかったのです。

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◆迫力の大型三輪車

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その三輪トラックで最大のモデルが、今回取り上げるマツダのT2000です。マツダの三輪トラックといえばK360が有名ですが、その上のサイズとしてK360に600ccのエンジンを積んだT600が用意されています。その後1957年にT2000の原型となるT1500が発売されました。

T1500は三輪トラックながらも小型トラックと同じような大きなキャビンと荷台を持つことが特徴で、最大積載量はT600の500kgから一気に1tへ。エンジンも水冷4気筒OHVとなりました。そして1962年、T2000が登場します。2リットルVA型エンジンは81psを発生、最大積載量は三輪トラックなのになんと2tへ、最高速度は100km/hに達しました。

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T2000がすごいのは、ロングボディ版にいたっては全長が6mを超え、幅も2m近くなることです。ふつうのトラックならいざしらず、これが三輪トラックのサイズというのは驚きです。三輪トラックは小さいもの、と思っていると面食らう大きさ(笑)。


◆あの頃は当たり前の存在だった三輪


このT2000、ぼくのような1970年代前半生まれの世代にとって、子供の頃に街中でよく出会う、ごく一般的なトラックの一つでした。ほかの三輪トラックが絶滅したあと、1974年まで製造されていたこともその理由でしょう。ぼくがよく見たのは山の中。実際、小回りが効き積載力も高いT2000は、木材店で使用されていたことが多かったようです。

T2000はまだまだ現役の個体もあるようで、たまに山の中で出くわし、びっくりすることがあります。虫のような愛嬌のあるこのトラック、いつまでも走り続けてほしいなと思います。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

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