日本マーケットは、安全装備に対して非常に意識が低い。とくに、サイドエアバッグやカーテンエアバッグなど、もはや当たり前の装備だが一部の高級車を除きオプション設定になっているほどだ。欧州や米国では、ほぼ100%となっていることから、日本のエアバッグに対する認識の低さが良く分かる。

こうしたサイドエアバッグの装着率が低いのは、国の安全基準によるものも大きい。欧州の自動車アセスメントであるEURO NCAPには、側突試験の他にサイドポールと呼ばれる試験が取り入れられている。電柱のような細いものにクルマがサイドからぶつかるため、狭い部分に大きなエネルギーが加わることで重傷・死亡事故になりやすい。クルマがへの字に曲がるくらいのものだ。

この記事の目次 CONTENTS
欧米では、ほぼ標準装備化されたサイドエアバッグ。しかし、日本では一部を除きほとんどオプション設定
日本の安全装備標準化が進まない理由
安価で効果の高いサイドエアバッグ&カーテンエアバッグを装備しない理由はあるのか?
安全基準の新設カーテンエアバッグ&サイドエアバッグの標準装備化が進む動きも

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

欧米では、ほぼ標準装備化されたサイドエアバッグ。しかし、日本では一部を除きほとんどオプション設定

こうしたテストに加え、安全装備が標準装備化されているのか否かというのも評価基準になっているため、装備されていないクルマは評価が下がり、結果的にクルマは売れなくなる。それでは困るので、メーカー側は標準装備化することになり、より安全なクルマが増えるという仕組みだ。最近では自動ブレーキも評価対象になっていて、標準装備化されていないと加点されないというほど。そのため、5スターを獲得するには、自動ブレーキの標準装備化が必須といわれている。

日本の安全装備標準化が進まない理由

日本のJNCAPは、安全装備の標準装備化が評価の対象になっていない。そのため、オプションで安全装備が充実している試験車なら5スターが獲得できる。価格競争力を上げるため、安全装備をオプション設定としているケースが多い。極端にいえば、JNCAPの5スターのクルマなら安全だと思っていても、自らサイドエアバッグやカーテンエアバッグなどを選択していなければ5スターの実力が無い場合もあるのだ。結果として、標準装備化が進まない。安全装備の選択はユーザー側の責任としているのだ。

安価で効果の高いサイドエアバッグ&カーテンエアバッグを装備しない理由はあるのか?

サイドエアバッグやカーテンエアバッグの効果は大きい。衝突時に死亡原因・重傷を負う箇所は、頭部と頸部で80%近くになるという。サイドエアバッグは頭部と胸などへの衝撃緩和。カーテンエアバッグは、ピラーやガラスによる頭部や頸部などへの衝撃を緩和する効果をもつ。また、乗員同士がぶつかり怪我をするケースもあり、高級車の一部には後席中央にもエアバッグを装備したクルマがあるほどだ。
こうしたサイドエアバッグやカーテンエアバッグは、それほど高価な安全装備ではない。トヨタ アクアでは、43,200円で装着できる。

ミニバンなど、3列目シートまでカバーするようなカーテンエアバッグになると少々高価になる程度だ。これくらいの金額で、事故時のダメージを軽減してくれるのだから、積極的に選びたい装備だ。これほど安い安全装備を未だオプションとしているメーカーなのか、標準装備しているメーカーなのかで、安全に対する企業姿勢を感じる部分でもある。

安全基準の新設カーテンエアバッグ&サイドエアバッグの標準装備化が進む動きも

安価で効果の高いサイドエアバッグやカーテンエアバッグだが、これからようやく標準装備化が進みそうな気配になってきた。国交省が「ポール側面衝突時の乗員保護に係る協定規則」を新設したからだ。これは、EURO NCAPの試験にもあるサイドポールと呼ばれるものとほぼ同等レベルのもの。狭い部分に衝突エネルギーが集中するため、大きな死亡・重傷事故になる。この安全基準に対応するために、よりボディを堅牢なものにすることが求められる。これだけで、乗員の頭部や頸部にダメージが残るため、サイドエアバッグだけでなく、カーテンエアバッグの装着も必要になってくるだろう。
当然、今までカーテンエアバッグやサイドエアバッグを装備していないクルマは装着が必要になるなど、サイドエアバッグ&カーテンエアバッグの標準装備化のきっかけとなる。とくに、横方向のスペースが無いコンパクトカーなどは、標準装備化の動きが高まってくるだろう。

こうした対応は、欧州などに輸出されているモデルは、EURO NCAPの試験にあるので、すでに織り込み済みだ。サイドエアバッグやカーテンエアバッグを標準装備化すれば済むケースが多いだろう。危険なのは日本専用車。ミニバン系などがそうだ。側突で横転するクルマも多い。衝突した上に、横転までするのでなかなかスリリングな結果になる。こうなると、少なくてもサイドエアバッグとカーテンエアバッグは必須アイテムだ。また、中古車であっても、こうした安全装備を装着しているクルマを積極的に選びたい。

新安全基準対応車だけでなく、早期の標準装備化を望む

もはや、カーテンエアバッグやサイドエアバッグの標準装備化は当然の流れといえる。国交省の「ポール側面衝突時の乗員保護に係る協定規則」は、2018年6月15日以降に発売される新型車から適用される。まぁ、随分時間がある。すでに発売済みのモデルは対象になっていないので、しばらくの間は自らの判断でサイドエアバッグとカーテンエアバッグが装着されているクルマを選ぶか、自らオプションで選択して装備する必要がある。また、こうした流れを敏感に察知して、既存車にサイドエアバッグやカーテンエアバッグの標準装備化を進めるメーカーは、安全に対して感度の高いメーカーともいえる。なんにせよ、もう高価な安全装備ではないので、早期の標準装備化を望みたい。