izuru_endo_title101

一枚の名車絵 第4回 シトロエン BX(Citroën BX)


シトロエンというメーカーは前衛的・アヴァンギャルドと評されるだけあって、2015年現在に至るまで、一風変わったモデルを数多く輩出しています。戦前には既に前輪駆動を実用化した「トラクシオン・アヴァン」を発売し、戦後の1948年にはこれ以上簡素に出来ないという設計が特徴の小型大衆車「2CV」を、そして1955年、シトロエンの代名詞ともなった油圧+空気のサスペンション「ハイドロニューマチック」を持つ名車中の名車、「DS(厳密にはDシリーズ)」を発表します。


◆魔法の絨毯


DSは広い室内と前輪駆動のレイアウト、直進安定性重視のセッティングという設計や機能をカタチにしたらこうなってしまった、という後にも先にも存在しない独創的なエクステリアと、魔法の絨毯とも呼ばれた乗り心地と悪路走破性を誇るハイドロニューマチックサスペンションを持っていました。その後ハイドロニューマチックは熟成され、1970年登場の1?クラスの小型車「GS」にも搭載されることとなりました。GSはDS譲りの乗り心地を持つだけでなく、当時の1?クラスとしては圧倒的な広さの室内とトランクを備えた画期的かつ先進性を備えた一台でした。

GSはパワーアップやマイナーチェンジを繰り返しGSAと呼ばれるモデルになって1980年代まで製造されましたが、いくら進んだクルマとはいえ古さは否めず、1982年になって後継車の「BX」を迎えることとなります。シトロエンは1974年に経営の悪化からプジョーと合併したこともあり、シトロエン待望の新型車であったBXも、ハイドロニューマチックは堅持されたもののパワーユニットやサスペンションの基本設計はプジョーとの共通化が大幅に進められています。


◆モダンで斬新なベルトーネデザインの傑作


とはいえ、ランボルギーニ・カウンタックを手がけたマルチェロ・ガンディーニがチーフを務めていた頃のベルトーネがデザインしたボディは、登場当時こそシトロエンらしくないとも言われましたが、今見ると極めて斬新で、モダンで、シトロエンでしか出来ないスタイルであることに気がつかされます。前任のGSに比べて四角いデザインになったこともあり、絶対的にもGSとの相対的なサイズでも大きなクルマに見えるのですが、実際は全長4.2m程度で、GSとあまりサイズが変わっていないのが意外なところです。

(C)izuru_endo_BX_1280_675_2015_11(クリックで拡大)BXはエンジンバリエーションの拡充や幾度かの大きめのマイナーチェンジを経て1993年まで製造され、ひとまわり大きくなった後継車Xantia(エグザンティア)にバトンを渡して製造を終えました。GSの空冷フラット4エンジンから一般的な水冷直4エンジンとなったこと、信頼性の向上、ほどよく個性的なデザイン、シトロエンらしい優れた乗り心地と広い室内およびトランクを持つBXは約230万台が市場に送り込まれた大ヒット作となりました。日本でもなんと1万3000台ほどが販売されたといわれており、製造終了後20年以上経った今でもまだまだ元気な姿を目にすることが出来ます。


イラストは前期型で日本には導入されなかった1.4?搭載の中堅グレード「1.4RE」をチョイスしました。シンプルでモダン、他に類を見ないBXのデザインはガンディーニ/ベルトーネの傑作ですが、初期型ではそのデザインフィロソフィがより明確にわかるのが特徴です。


【イラスト/文 遠藤イヅル】
フリーのカーイラストレーター/ライター。東京都出身。自動車雑誌、WEBサイトにクルマをテーマにしたイラストや記事を多数提供。世界各国の生活感があるクルマを好み、20年間で18台のクルマを乗り継ぐ。クレイジーなほど深くて混沌としたクルマ知識を持つ元自動車系デザイナー。自身のクルマ体験をもと、独創的な視点で切り込むイラストやインプレッション記事は、他にないユニークなテイストとして定評がある。2015年7月現在の愛車はプジョー309SI。最新の掲載誌は遠藤イヅルのfacebookで確認!

>> 過去のイラスト記事一覧はコチラをクリック