ザ・対決 トヨタ iQ VS スマート フォーツー クーペmhd
マイクロカー編
トヨタ iQ vs スマート フォーツー クーペmhd

 省燃費や環境性能に対する高まりなどを受けて、ダウンサイジングが進んでいる。軽自動車がある日本では目新しいコンセプトではないかもしれないが、世界的には新しいのは確か。しかも軽自動車のように、規制枠のなかでの自動車作りではなく、自由な発想でスモール化を図るというのが特徴だ。先取りしたのはスマートだろうし、最新モデルではトヨタのiQが当てはまる。シティランナバウト、つまり狭い範囲での足グルマに特化しているだけに、サイズ/走行性能/パッケージングなどを高いレベルでバランスさせる必要があり、各メーカーの個性が色濃く表れる。今回はアイドリングストップ機能を装備したスマート フォーツー クーペmhdとトヨタの新境地であるiQを対決。日独の考えた方の違いも含めて、その結果興味津々だ。

佐藤まいみ
PHOTO/和田清志 構成/近藤暁史
モデル/ 佐藤まいみ

ROUND1:ファーストインプレッション

トヨタ iQ
トヨタ iQ リヤ
コンセプトはもちろんのこと
技術的にもトヨタの新境地

 以前から話題になっていたトヨタの世界基準マイクロカーがiQだ。実際にトヨタとしても特別なクルマとして位置づけ「これまでの常識を根本から覆す新発想のクルマ作り」と自信たっぷりだ。見ての通り、文句なしにトヨタ最小のコンパクトなサイズ。なんと全長は3m未満。軽自動車よりもはるかに短いのだが、逆に全幅は1680mmとコンパクトカー並み。違和感はないものの、不思議な感覚にとらわれるシルエットをしている。ただし顔はbB風で大ぶりのネッツマークがフロントに付く点はトヨタらしい部分だ。
 この独特のサイズ感が、パッケージングにどう影響を与えているかが気になるところ。一応定員は4人となっているのだが、実際のところリヤシートは子供用。トヨタの説明によれば助手席を目一杯前に出せば(そのため、本来グローブボックスである部分がえぐれている)、大人もひとりだがリヤシートに座れるとしている。まぁ確かにそうかもしれないが、窮屈なのは確か。またラゲッジはないに等しく、ふたり乗りと割り切ってリヤシートは常時倒し、荷物置き場として使用するのが現実的だ。
 エンジンはトヨタ パッソ/ダイハツ ブーンにも搭載されている1リッター3気筒エンジンのみ。これにi-CVTを組み合わせているが、3気筒ということで、アイドリング時を中心にして振動が大きい。踏んでも結構騒々しい。今後、他のエンジンの追加なども噂されるが、iQのキャラクターを考えるとマッチングはむずかしいような気もする。
 ボディのコンパクト化と居住性を両立するためにデファレンシャルギヤの反転配置やステアリングギヤボックスの取り付け位置変更、さらにはエアコンユニットの小型化による左右非対称インパネや薄型のシートバックと燃料タンクの採用などに斬新なアイデアが投入されている。技術的な進化は大いに遂げているので、トヨタとしては意味のあるモデルだ。

[エコ&燃費]
 燃費基準は+25%なのだが、23.0km/Lというのは凄くいいというわけでもない。装備はドライブインジケータやエコモードスイッチが備わる。排気ガスは4つ星を取得している。

[安全性能]
 高めの車両価格もあってか、安全性に関しては抜かりなし。衝突時の衝撃は前半分を使って高効率で吸収。横滑りを防止するS-VSCやリヤウインドウカーテンシールドエアバッグ(世界初)を含む9つのエアバッグを標準装備している。

[取材時実測燃費]
13.4km/L

[トヨタ iQ価格帯]
140.0〜160.0万円

スマート フォーツー クーペmhd
スマート フォーツー クーペmhd リヤ
アイドリングストップ装備
補助金も受けられ、お得に

 そもそもはスウォッチカーとして発表され、紆余曲折あって結局はメルセデスのみが関わり立ち上がったスマート。ふたり乗りに割り切ったシティランナバウトというコンセプトは先見的かつ斬新だった。ドイツではクルマと一緒に鉄道で旅行ができることも、アシストしただろう。
 またヨーロッパの街角では、縦列駐車ではなく、歩道に対して直角に止めているスマートを見かけることも多く、"足"としてしっかりと機能していることがわかる。
 スマートはフォーツークーペを中核として、バリエーションを増やしてきた。そのフォーツークーペ自体も、2代目へと進化し、サイズをひと回りほど拡大。ちなみにキュートなデザインはほとんど変らない。エンジンも700ccから1リッターへとアップさせて余裕を持たせている。ミッションはMTベースの2ペダルが組み合わされる。
 そして大きなトピックスはマイナーチェンジを実施し、アイドリングストップ機能が装備されたこと。mhd(マイクロ・ハイブリッドドライブ)と呼ばれるシステムで、グレード名も同時にフォーツーmhdに改められている。
 このシステムの特徴は完全に停止したときではなく、ブレーキを踏みながら車速が8km/h以下になると、エンジンが停止する。わずかな時間でもエンジンを停止させて、燃費を稼ぐというものだ。もちろん停止前にブレーキから足を離せば再びエンジンが始動して、すぐに加速する。mhd機能は、スイッチひとつでオンオフが可能なので、任意で選べばいいだろう。さらにアイドリングストップが付いたことで、省エネルギーセンターからの補助金を受けることもできるようになったので、購入時もお得なのも注目ポイントだ。

[エコ&燃費]
 カタログ燃費はiQと同じ23.0km/L。もちろんアイドリングストップを使用しての数値で、装着したことにより、約24%も向上しているという。また生産から徹底してエコに配慮しているのもドイツらしい。

[安全性能]
 横滑りを防止するESPや衝撃吸収性に優れた骨格など、安全思想はメルセデス譲り。mhdからは緊急ブレーキ時に自動的にハザードが作動する機能が追加になっている。

[取材時実測燃費]
10.7km/L

[スマート フォーツー 価格帯]
184.0〜213.0万円

トヨタ iQ 100G
ボディサイズ(全長x全幅x全高)
2985×1680×1500mm
車両重量
890kg
エンジンタイプ
直列3気筒DOHC
総排気量
996cc
最高出力
68ps(50kw)/6000rpm
最大トルク
9.2kg-m(90N・m)/4800rpm
ミッション
CVT
10・15モード燃費
23.0km/l
サスペンション(前/後)
ストラット/トーションビーム
ブレーキ(前/後)
ベンチレーテッドディスク/ドラム
税込価格
150.0万円
スマート フォーツー クーペmhd
ボディサイズ(全長x全幅x全高)
2720×1560×1540mm
車両重量
830kg
エンジンタイプ
直列3気筒DOHC
総排気量
999cc
最高出力
71ps(52kw)/5800rpm
最大トルク
9.4kg-m(92N・m)/4500rpm
ミッション
5速AT
10・15モード燃費
23.0km/l
サスペンション(前/後)
ストラット/ド・ディオン
ブレーキ(前/後)
ディスク/ドラム
税込価格
184.0万円
トヨタ iQ 1リッターエンジン

iQに搭載されるエンジンは3気筒ということもあり、アイドル時にやや振動が気になるかもしれない。動力性能に関しての不満は感じられない。

トヨタ iQ 15インチホイール

アルミホイールは100Gレザーパッケージ以外はオプションとなる。燃費や静粛性だけでなく、しっかり感のあるハンドリングも実現している。

スマート フォーツー クーペmhd 1リッターエンジン

カタログ燃費やパワーの数値はほぼ互角。だがiQとは異なり、スマートはハイオク仕様となってしまうのが経済性の上でやや不満な点といえる。

スマート フォーツー クーペmhd 15インチホイール

エンジンをリヤに積むミッドシップということもあり、前後でサイズの異なるタイヤを装着している。ハンドリングは軽快で楽しめるもの。

トヨタ iQ インパネ

大人3人+子供1人が乗れるパッケージングを実現するため、助手席前方が大きくえぐられている。インパネ中央の三角のデザインはエイのひれをイメージしたという。

トヨタ iQ シフトレバー

iQに搭載されるミッションはCVTのみで、滑らかな走りと低燃費を両立。現状でも十分低燃費だが、ヴィッツやスマートのようなアイドルストップ仕様があれば最強だ。

スマート フォーツー クーペmhd インパネ

エクステリア同様、ポップな雰囲気でまとめられたインテリア。2人乗りと割り切ったことで居住スペースは大きなクルマにも負けないだけの広さを確保している。

スマート フォーツー クーペmhd シフトレバー

マニュアルベースの5速ATは変速時(特に1速から2速)にギクシャクしてしまう。慣れれば問題はないのかもしれないが、始めのうちはかなり違和感がある。

トヨタ iQ エコモードスイッチ

エコモードスイッチを押すとスロットルやCVTの制御などが変更される。わずかに加速感は落ちるが、それ以上により低燃費な走りが可能になる。

トヨタ iQ 助手席足元スペース

助手席前方がえぐられているため、シートを前方に出しても窮屈な感じはあまりない。その分、後席の足元スペースを稼ぐことができるのが魅力だ。

スマート フォーツー クーペmhd エコモードスイッチ

mhd機能はオンオフが可能。ただ水温が低い場合やバッテリーの電圧が低いとアイドルストップしないので、渋滞ばかりだと意外にエンジンが停止しない場合もある。

スマート フォーツー クーペmhd リヤゲート

リヤゲートはガラス部分のみを開けることもできる。小さな荷物ならここを開けるだけで積み下ろしができるので、使い勝手がよく便利な機能といえる。

トヨタ iQ フロントシート

フロントシートまわりは広々している。助手席は足元スペースにも余裕があり、長距離ドライブでもゆったりとくつろぐことができる。

トヨタ iQ リヤシート

リヤシートは大人でもなんとか座ることができる。特に助手席側はシートを前方に出せるので、決して広々とはいえないがガマンできない広さではない。

スマート フォーツー クーペmhd シート

スマート フォーツー クーペmhdも運転席まわりのスペースには十分な余裕が確保されている。ただ頭上の空間は、ややiQのほうが広い印象だ。

スマート フォーツー クーペmhd パノラミックグラスルーフ

大きな開口部が特徴のパノラミックグラスルーフは、抜群の開放感を味わえる。サンシェードを装備するので、夏場でも暑くなりすぎない。

トヨタ iQ ラゲッジ

4人フル乗車時ではラゲッジと呼べるようなスペースはない。せいぜい三角停止版や手提げカバンぐらいのものを入れられる程度だ。

トヨタ iQ ラゲッジ

リヤシートを倒せば十分実用的なスペースが現われる。通常はこの状態で使用し、いざというときに4人乗車という使い方が前提だろう。

スマート フォーツー クーペmhd ラゲッジ

ラゲッジスペースの広さに不満は感じられない。リヤゲートは上下2分割なので、荷物の大きさなどによって使い分けことが可能だ。

スマート フォーツー クーペmhd ラゲッジ

助手席の背もたれを前方に倒せるので、それなりに長さのある荷物も積み込める。ただ完全にフラットにはならず、少し斜めになってしまう。

トヨタ iQ vs スマート フォーツー クーペmhd

どちらも燃費性能などを考えてスモール化を図っているが、そのパッケージングは大きく異なる。トヨタ iQは限られたボディサイズの中で4人乗車を実現するため、インパネのデザインやエアコン部品などのコンパクト化を図り、今後の新たな可能性を感じさせてくれる。スマート フォーツー クーペmhdは完全な2人乗りと割り切ることで、大人2人が十分くつろげる室内空間とラゲッジスペースを両立させている。走りに関してはiQ、スマートともにホイールベースの短さをあまり感じさせない安定感と快適性を確保している。燃費は今回の撮影ではiQが良好な数値をマークしたが、街中のみの使い方ならスマート フォーツー クーペmhdのアイドルストップが効果を発揮するはずだ。ただ、iQはレギュラーだが、スマートはハイオク仕様となるので、燃費の数値が同じならiQのほうが経済的といえる。